リズエッタのチート飯

10期

文字の大きさ
上 下
142 / 149

115 新たな試み

しおりを挟む

 
 


「できない? でもそんなの知らん! 取り敢えず頑張って!」


 そう言ってから気づく。
 これではまるでブラック会社ではないかと。




 グラスと名乗る青年とその他数名のエルフが氷魔法が使えると発覚し、次に私が作ることにしたのはいつでも食べられるフリーズドライだ。
 私の中ではどうやって作られているか理解していた故に作り出すのは簡単だと思っていたが、どうやらこの世界ではなかなか難しいものだったらしい。

 フリーズドライと呼ばれる食べ物は、調理済みのものかもしくはフルーツ等を凍らせ、真空状態で乾燥したもの食べ物の名称だ。
 ただ凍らせで乾燥させただけではフリーズドライになるわけもなく"真空"にする事が要と言える。
 だかしかし、その"真空"に問題があったのである。

「シンクウ? とは一体どんなものなのでしょうか?」
「真空は真空だよ。空気も水分もない、無の空間の事。理解できる?」

 馬鹿にしたわけではないがそう彼らに問いかけると、眉間にシワを寄せて云々と唸るだけ。
 知識のあった私にはイメージできるものだが空気という概念はもとより、空気中に水分が散漫しているなんて考えたことのない世界の住人に無の空間を作れと言っても無理なものだったのだ。

 そこで私は普段ジャムを詰めている瓶を使って目で見てわかる説明を試みた。

「今この瓶の中は何も入ってない状態だと思う?」
「はい、その中には何も入っていませんが……。それがシンクウですか?」
「いいや違う。この中には空気が入っていてそこには目には見えない水分があるんだよ。わかりやすいように瓶の中に煙を入れてみるけど、蓋を閉めてもそこに煙が残るのが見てわかるよね? 手っ取り早くいうと真空ってのは蓋がしまっているこの空間からこの煙を抜き出すって事だよ、簡単に言えばだけどね」

 と言っては見たもののはこの説明があっているかは私だってわからない。
 だって私、専門家じゃないし。
 それでもなんとなくやってみるしかない。

 頭にはてなを浮かべるエルフをよそに、私はさらに言葉を続ける。

「この瓶の中には今は空気しか入ってないけど、フリーズドライはここに凍らせた食べ物を入れて、そして瓶の中の空気とその食べ物の中の水分を全部抜いて乾燥させた食べ物になるんだよ。で、その方法で作った食べ物は極限なまで水分が抜けてるからそうは傷まないし、軽い。調理済みものを凍らせて水分を抜いてるから、たべるときはお湯を加えれば普段食べてるものと変わらないものが出来上がるって事。なんとなくわかるかな?」
「……なんとなく理解はしましたが、どうやって瓶の中からクウキとやらを抜くのでしょうか?」
「え? 知らん。そこを考えて実験して作るのが君らの仕事なんだけど?」

 そこをなんと魔法でなんとかするのが君たちの役割なんだけどとにっこりと笑ってみせると、グラスはピタリと動きを止めた。そして数人いたエルフ達もなにやら目をキョロキョロとさせ口をパクパクと奇怪な行動をしているではないか。

「"御使い様"である私のお役に立ってくれるんだろう? 氷魔法使えるのはエルフ達しかいないし、いやぁ助かるよ! 本当に!」
「えっ? ちょっとお待ち下さい御使い様!? たしかに氷魔法は使えますが、その様な事がたやすく出来るわけでもーー」
「あれだけレドに喧嘩売ってるくらいだもんね? 自分たちの方が私にふさわしいって。ならそれくらいやってみせてくれるよね? レドは私のために今までもこれからも尽くしてくれるみたいだけど、君たちはそこまでできない感じ?」
「うっーー。ですがこれまでしたことのない試みなど……!」
「できない? でもそんなの知らん! 取り敢えず頑張って! 失敗を恐れたら何も生まれないし、歴史は築かれない! 立派な君たちエルフ達の手で歴史になをきざもうではナイカー!」

 レドを引き合いに出し笑ってみせ、グラスの手を取る。
 顔が青くなったり赤くなったりと点滅の様になっているが精々頑張って欲しいものだ。
 もしフリーズドライが出来るとなるとアルノーにより多くの美味しい保存食が渡せるし、私にとってはプラス。できなかったとしてもマイナスにはならない。
 レドとは少々違う役割だがそれなりの成果を上げてくれるのならば"御使い様"呼びも認めてやってもいい。

「君たちがこれから出す成果が、今後のエルフ達の評価だね! じゃあ頑張ってネ!」

 出来ることならフリーズドライを完成させて欲しい。
 そして完成するまで私にベタベタしないで欲しい!
 できないときは早めに報告してほしいものだが、レドを目の敵にしている以上そう簡単に諦めはしないであろう。
 アクアや他のエルフと手を取り合って精々私のために頑張ってくれたまえ。



 高笑いする私の後ろで焦りながらアクアの名を呼ぶグラスやその他諸々の事など考えず、私は一人今日の夕ご飯について考えるのであった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

スキル『商店街』で異世界を盛り上げる!!

コンビニ
ファンタジー
 商店街が身近にある町で生まれた遠藤 拓海 (えんどう たくみ)は病死した父親の葬儀と遺品整理で帰宅していたが、暴走した車に轢かれて命を落とす。  気がついた時には異世界に転生されており、そこでエルフのピチピチな少女? と出会い。  帰れそうにないことから、この世界で生きていくことを決める。  ネットショッピングとは違って商店街にも良さはある!  活気ある商店街で世界を盛り上げる、スローライフ系なおっさん奮闘記。  お肉屋さん、魚屋さん、八百屋さんに色々あるよ!!  

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...