リズエッタのチート飯

10期

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鬼でも悪魔でも

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「シャンタルー! パメラー! エーフィ! すぐにこの子らの体を拭いてあげてー! そんでレドとティグルとミランはお風呂とご飯の準備っ! ちびっこはーー遊んでなさい!」

 馬車の荷台から庭へ入ると周辺には既にレド達が待機していた。
 その中でもシャンタル達女性陣を選んだのは犯されていたもの達への配慮ではなく、私が大層気に入っているレドにこんなものを見せたくなかったという理由が第一だ。
 スヴェンが私の目を隠そうとしたのと同じように、レドには汚いものを見せたくなかったのだ。

「お嬢、これはいったい……」
「あー、うん。 ズッコンバッコンされてたから拉致ってきた? すぐ来るので五人、その後は何人か同じような子達も来ると思う」

 右手で丸を作り左手の人差し指を伸ばし出し入れをすると、それがなんたるか彼女らはすぐ分かったようだ。
 顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりとした後、あり得ないと酷いといって唇を噛みしめている。

「まぁ、見方によっては酷い行為だと思うよ? でもねぇシャンタルさん、君だって"こっち側"だったかもしれないし同情のし過ぎはよくないよ?」
「っどういう意味だ!」
「そのままの意味。 ここに来なかったらこんな未来だってシャンタルにはあったし、"ここ"を追い出されればこんな未来だってありえる。 そんな事私はしたくないけど、今後の対応次第では私だって引導を渡すということさ」

 今の現状を保っていられるのは、ここではレドが強者だから。
 けれどもこうも人数がいきなり増えるとかつての初期のシャンタルやティグルのように私に逆らう者が増えてもおかしくない。もしそうなるのであれば私は対処しなければならないのだ。
 誰を残して誰を捨てるかを。

「君たちがここに居られるのはレドが望んだから、そして私がそれを良しとしたからで同情からでも救いからでも善意からでもない。 今後増えていく亜人に対して君たちがちゃんと躾けられなくて働けないのなら、排除されるのは新入りであるこの子らと、それを教育した者になる。 勿論レドは例外だけど、私は優しくないからね? わかってると思うけど、ちゃんと出来るよね?」
「ーーそれ、は」
「でもね、私も鬼でも悪魔でもない。 こんな心ここに在らずの子らにすぐに働けなんていうのは無茶だって理解してる。 反感を持たれるのも、理解している。 だから猶予期間は設けるつもりだよ? それに怪我や欠損は庭にいれば治るけど壊れちゃった精神が治せるなんて思ってない。 だからそれまではシャンタル、君達が頑張るんだ。 この子らが少しでもまともになるまで支えていけるならば、私はそれまで待つから」

 出来るね?と問いかけるとシャンタルは俯きながらも頷き、それに続いてパメラとエーフィの二人も強い眼差しを私に向けて頷いた。
 それを確認すると今度はレド達の元へ駆け寄り、食事への指示を出す。

 最初にここに連れてきた者達は顔や身体に欠損はない。となると食べ物は固形物の入ったスープやパンでも問題はないだろう。
 問題は後から連れてくる欠損の酷い亜人達。
 やせ細った体を見るに食事もまともに与えられてなさそうだ。

「レド! 作るご飯はお米を大量の水で炊いたお粥にして! 味付けも塩のみか卵だけを入れた薄味から、濃い味や刺激となる調味料や野菜は使わないようにね! さっき来た子らには普通に食べてるスープ類やパンでも構わないけど、なるべく具材は小さめ柔らかめでよろしく!」
「了解しやした!」
「ティグルとミランはお風呂の準備が整い次第シャンタルに声をかけて、それ以降は寝床の準備を! 三十人以上はいるから大変だよー!」


 大声で叫び指示を飛ばし、威勢のいい返事が聞こえたら今度はスヴェン達の元へと戻る。
 馬車から地面に降り立つと目の前には領主と耳の長い奴隷が六人おり、私は一度お辞儀をすると彼らを馬車の中へと詰め込んだ。

「ここで貴公に渡す奴隷は四十一個体。 屋敷に帰ってからさらに三体で四十四体になるが、本当に従者は要らないのか?」
「平気です。 一緒に来てる彼らはとても優秀なのですよ!」

 ニッコリと微笑みを見せると領主は渋々と頷き、新たに用意した馬車をスヴェンへと預けた。
 それに残りの亜人達を詰め込み私は後のことは全てスヴェンに任せ庭へと逃走したのだが、背後でスヴェンが歯切りをした姿は見なかった事にしよう。




 一度馬車に入り動きの鈍い亜人達から重傷を負ったものを選び、そして一人ずつ庭へと連れて行く。
 流石に子供である私が背負うのに力がいるが、彼らがガリガリな分私の体力の消耗はそれほどでもない。
 バケツリレー式に庭からはレド達が亜人を預かり、私はまた新たな亜人を連れて行く。
 そんな事を何度か繰り返し馬車の中が半数になった頃、私はそっと外へと顔を出してみた。

 馬車はすでに鉱石場から離れ、ハウシュタットへ向かう帰路についている。目の前を走るのはよく知ったスヴェンの馬車で、私が乗った馬車を動かしているのはティモだった。

「ティモさん、ティモさん。 その、スヴェンから何か聞いてたりします?」

 荷台からティモのとなりに移り顔を覗き込み、真剣な眼差しでティモを見つめる。ティモはそんな私の表情に一瞬眉を顰めたが、すぐにニッコリと笑った。

「まぁ、な。 嬢ちゃんが特別だってことは聞いたが、それは前から薄々気がついてたからな。 そんな驚くことじゃなかったさ」
「気づいてたのに、何も言ってこなかったと? ほら、私を掻っ攫おうとか売っちまおうとかーー」
「そこまで性根腐ってねぇよ! それにな、今は家も買って移り住んで、割といい生活出来てんだ。 嬢ちゃんには何かしたい事があってスヴェンはそれを手伝ってて、俺らは金で雇われて、別に誰も損しちゃいねぇ。 ならそこまで気にする必要はねぇんだよ。 今までのままで十分だと」
「ーーーー欲がない人ですねぇ。 でも、ありがとうございます」


 もしティモ達が私を攫おうとすればそれは簡単に出来る。
 だって私自身はクソ弱いし、戦い方を知らない。戦うのは守るのはスヴェンや祖父の分野なのだ。スヴェンが勝つと前提して考えても、人質として私は十分機能するわけで。
 領主や他の貴族につけば今よりずっといい生活はできるだろう。

 なのにそれをしないという事は彼らはそこそこ今の生活に満足して、私自体に利益を感じていないのかもしれない。

 それはそれで何故かこう、納得できない部分もある。

「ティモさんは、私がしてることに疑問は持たないんですか? 亜人買い漁ったりしてるけど何処に置いているとか何処で商品を作っているとか」
「まぁ気になるっちゃ気にはなるが、一番俺らが気にしてんのはスヴェンの事だな」
「ーー? スヴェンの?」
「そうだ! 嬢ちゃんが領主に喧嘩売ってるってげっそりして頭抱えてたぜ。 後で謝っときな。 スヴェンはすげぇ嬢ちゃんを大事にしてる、だから俺らは嬢ちゃんには何もしねぇよ。 依頼主は大切だからなぁ!」


 そう言ってティモは大声で叫び笑い、私はそれに釣られて小さく笑う。
 多分、きっと。
 ティモ達が私を害する事はないはずだ。
 何となくだがそう思う。

 私は鞄から桃を一つ取り出してティモに渡し、賄賂ですとニヤリと笑った。

「ティモさん達が私とスヴェンを裏切らないなら美味しいものを沢山あげましょう! 私は身内にはあまいですよぉー!」
「おうよ! 楽させてもらうぜ嬢ちゃん!」
「勿論です! あ、そのかわり裏切りは重罪なので死を覚悟してくださいね!」
「それはねぇよ嬢ちゃん!」

 日が暮れ始めたその日の午後、私は馬車に揺られながら大声で笑う。

 このから数日は忙しい日々が続いて行くだろう。
 けれどそれを楽しいと思えるならば、私はまだまだここで生きていられる。





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