リズエッタのチート飯

10期

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お弁当

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 珍しく私は早起きをした。
 ぼんやりと光が溢れる窓を開けると暗い闇から薄い青へ、そして太陽がゆっくりと顔を出しはじめた空が見える。

 何時もならばもっと遅く起きるのだが、今日はそうはいかない。
 私は今から客人、もといスヴェン達の朝ごはんを、そして孤児達分のお昼ご飯を作らなくてはならないのだ。
 忙しくなるぞと意気込み、私は大きな口から出そうになった欠伸を噛み殺した。


 手早くパジャマを脱ぎ捨て着替え、ガランとしたキッチンへ。
 朝食分の米を研ぎ炊きはじめ、保冷庫にしまっておいたおにぎりの山には味醂を混ぜた味噌と甘塩っぱい醤油を塗る。
 火を熾した釜に網を置き焦げ目がつく程度に焼き上げ、途中味見代わりのつまみ食い。
 味噌と醤油の焦げた部分は芳ばしく私の口内は唾液で溢れ、そしてお腹までもが大きな鳴き声をあげた。

 おにぎりを焼いてる時も時間は無駄にせず、朝食用の味噌汁作りを開始だ。
 庭産のキュウリを薄切りにし塩でもんでしんなりさせ、ミョウガは細切りのまま放置。
 昆布の出汁に味噌と胡麻を混ぜ合わせモノに水分を切ったキュウリとミョウガを加えれば、あっという間に冷汁の完成である。
 さっぱりと素麺もいいかなと思ったが、私の技術ではあそこまで細くできなそうだし、できてもうどんになりそうだ。
 なので今回は諦めることにしよう。


 次に卵と摩り下ろした山葵を用意して、ボールでかき回す。
 お弁当に入れるのならば傷みにくい食材を使おうと考えた結果、防腐効果が期待される山葵が良いのではと思ったのだ。卵にきちんと火を通すことで傷みにくくもなるし、ほんのりと山葵の味がする卵焼きなんて中々洒落てるのではないかと自画自賛したい。

 最後に軽く洗った笹の葉の上に冷めた焼きおにぎりを二種と、卵焼きを乗せて縛りお弁当は完成。おまけに砂糖を使って作った割高ドライフルーツまでつけた豪勢なものだと言ってやりたい。
 基本庭で採れてるものを使用してるからタダで作ったようなものだが、私の手間賃時給を取るとし二十ダイムと激安設定だ。
 もう働いている孤児達だ、それくらいなら出せる値段だろう。



 お弁当を作り終えたところで朝ごはんとして食べられるものは炊きたての白米と冷汁のみ。
 山葵入り卵焼きは朝食分には足りなかったから、新たに何かを作るしかあるまい。
 さて、どうしたものかと戸棚を漁っていると、二階に続く階段を降りてくる足跡が聞こえてきた。

「おはよー、よく寝れたー?」

「ん、寝れた寝れた」

 ボリボリと寝癖だらけの頭を掻きながら現れたのはスヴェンで、顎が落ちそうになるくらいの大欠伸をしている。
 そんなスヴェンに何が食べたいかと問えば、間髪を入れずに肉、とだけの返答が返ってくる。
 それならばベーコンエッグにでもすれば良いかと人数分の卵を用意し、和食と洋食混合だなと一人で苦笑した。


 テキパキとベーコンを切りフライパンに投げ入れ、そして卵を投入。
 味付けは軽い塩胡椒で。
 じゅうじゅうといういい音とベーコンの脂のいい香りを室内へ漂えば、駆け足で階段を降りてくる多数の足音が聞こえてくる。
 そちらを向いておはようございますと挨拶を交わせば、カール達三人はすまないなと私に謝罪した。

「泊めてもらったっつーのに、飯まで作らせちまってすまねぇな」

「いえいえ。自分とスヴェンのも作るし、それにお弁当も作らなきゃならないし、別に苦じゃないですから!」

「そりゃよかった。って弁当って何だ?」

「アレですよ、笹の葉に包んであるやつ。働いてる孤児に売りつけるんです!」

 ぷるんと震える焼きたてのベーコンエッグを皿に乗せながら、私は視線だけを一方は向ける。
 そこにあるのはすでに作り終えた弁当の山で、今日の私の稼ぎ分だ。

 ハテナマークを頭に浮かべる四人を席に勧め、ご飯と冷汁をよそって少しばかり早い朝食を開始しマナーなど関係なく食べながら話を続ける。

「ほら、商業ギルドで露店開きたいって話したじゃないですかぁ! それのヤツ、です! 孤児といっても今は街の人から仕事を受けて働いてるので、多少の金銭のやり取りはできますよ! でも小金を持った事でずる賢い奴らから騙されむしり取られてるみたいなんで、激安弁当をうってお金のやり取りを教えようと!」

「嬢ちゃんは孤児の面倒もみてんのか? って仕事ってーー」

「いやぁ、ギルドに喧嘩売られたので買った結果といいますか? 相手の仕事を奪ってやったといいますか? まぁ、アレですよ、街のみんなも喜んでるし、問題はないってやつです!」

 パシンと頭を叩かれ問題あるだろうとスヴェンのツッコミが入るが、私は気にしない。

 いやだって、私は悪くないし。

 結果一部を除いて幸せだから問題なんてあるはずない。
 ごく稀に同い年くらいの冒険者らしき子らが私を睨みつけることも多々あるが、杜撰な仕事をしてきたのは彼らだしね、当然の結果だろうよ。
 街の人間だってもうちょっと冒険者が使えれば孤児なんて使わなかっただろうしな。

「にしても弁当か。もちろん俺の分はあるんだろうな」

「ンなものないよ。今日、領主様とこ行くんでしょ、作ってないよ」

「何でだよ! 俺の飯はどうなるんだよ!?」

「どんだけ食い意地はってんだよいい大人がっ! あとで食いたいもの作ってやるから我慢してよ!」

 弁当、ご飯、お昼と呟きながら歯ぎしりをするスヴェンにおっさん達三人は若干引いており、もちろん私も引いている。
 変なヤクでもキメたかのようなその症状の原因は勿論、長旅中にまともなご飯を食べられなかった為のある意味中毒症のようなものだろう。
 スヴェンは他の人より私の作った保存食で旅をするのだからまだ良い食生活を送っているというのに、扉からしょっちゅう来ていたせいでこの有様だ。
 スヴェンはもっと私のご飯とオヤツのつまみ食いを制限すべきだと思う。

「お昼は無理でも食べたいものあったら作るから考えておきなよ。とりあえず私は今から孤児にお弁当売りに行く。そしたら領主様のとこでいい?」

「ーーまぁそれで構わねぇよ。飯はそうだな、やっぱ海のものがいい。この前プルプ食ったからそれ以外!」

「あーハイハイ。あ、皆さんも食べてってくださいね? ついでに食材の買い物も付き合ってくれると助かります」

 と、どうぞよろしくと頭を下げれば嬉しそうにおっさん達は笑う。
 スヴェンまでとは言わないが、おっさん達も美味しいご飯が食べたいようだ。

 私は残っていたベーコンのかけらを口へ放り込み、そして一人セカセカと出かける準備を始めたのである。


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