リズエッタのチート飯

10期

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狩りへ

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 目の前にいるムキムキマッチョなおっさんは私達を見ながらニヤリと笑い、それにつられて私ら四人は引きつった笑みを浮かべた。

「おまんがウーゴの言ってた子か。 ほれ、行くぞ。 ついてこい」

 傷だらけの二の腕は私の太ももよりも太く、ギラギラしたに瞳は獣のように鋭い。体のいたるところに切り傷の跡が残っており、数多の戦闘を繰り返してきたことがうかがえる。
 腰のベルトに差し込んだ鉈は赤黒く色づいて、何処と無く獣臭さが鼻についたほどだ。

 この野生感丸出しの男はホアンと名乗り、本日より私が狩専門要員として雇った人間でもある。
 彼を雇った訳は単純明快で、私が食べたい肉を入手する為だ。
 先日商業ギルドを訪ねたところ、血抜きをしてある肉が食いたければ自分で取るしかないとウーゴに諭されたからである。

 ギルドに肉を納める狩人も、肉を売る冒険者達も血抜きをしてくれるほど優しくはない。
 森や草原で動物を狩ることはあるが、わざわざ獣を呼び寄せる血抜きという危険行為を行ってまで肉を売ろうとは考えていない。それ故にその血抜きを行った肉を欲するのならば、自分で狩ったほうが確実なのだそうだ。

 しかしながら、一狩り行こうぜ! となるほど私の作ったパーティは強くない。
 ギリギリファーラビットを狩れる私と、つい最近まで剣や弓といった武器を持ったことのない子供ら三人で狩りに行くなんて自殺行為に等しい。
 ならばどうすべきかと考えた挙句思いついたのは、狩人を一人、雇うこという訳だ。

 狩人を雇うにあたっての条件はファングを一人で倒せる事と、子供らに狩りを教えることの出来る大人であること。同時に子供四人を守りきれる実力のある者と中々の厳しめの条件をつけた。
 それに伴い日給小銀貨一枚と子供ながらに精一杯の額を出しますと誠実さをアピールし、ウーゴとスヴェンの圧力面接で不躾な輩をふるい落したその結果、残ったのはこの強面のホアンただ一人。

 些か顔は怖いが、スヴェンとウーゴが問題ないというのならば大丈夫なのであろう。


「ほれ! ちんたらしてっと逃げっちまうぞ!」

 なるべく音を立てずに獲物の巣に近づき、最初に狙いを定めたのは小ぶりなブレーロだった。
 狸のような見た目を持つブレーロは異変を感じたのか長細い二つの尻尾を振りこちらを警戒し、素早く草むらへと姿を隠す。
 けれども狩りのプロ、ホアンからすれば隠れた場所など丸見えで、ウィルとセシルに的確な指示を出していた。

「それ、今だ!」

 ウィルはホアンの声と同時に巣穴からちょこんと顔を伺わせたブレーロにナイフを投げ、セシルは急いでその場に駆け寄り巣の中に手を突っ込む。
 巣穴から無理矢理出されたブレーロの体にはナイフが深々と突き刺さり、キューキュー鳴くその姿に少し可哀想だと思ってしまうものだ。
 しかしながら世の中弱肉強食、弱いものは捕食される立場からは逃れられやしない。
 ブレーロの両手足を縛り上げ私が強者なのだと心を強く持ち、その首元にナイフの刃を当てスルリと滑らせた。

 鳴き叫び暴れるブレーロの首からは脈を打つたびドクドクと血が溢れ、頭を逆さまにして最後の一滴まで血を絞り出す。
 ピクピクと痙攣するその腹を切り捌いて内臓を取り出し、簡単な処理を行えばそれはただの肉塊。
 溢れた血と取り出した内臓に獣が集まってこないように地中に埋め、ようやく私はほっと息をついた。

「おまんさんは手馴れとんなぁ。 誰に教わった?」

「祖父に教わりました。 でも狩りはからっきしなのでウィルとセシル、後デリアに仕込んでやってください。 私は処理班なので!」

 はははと笑いながらブレーロを麻布に放り込み、初めての狩りにしてはあっさりと獲物を狩れたものだと感心した。それはホアンの追い込みや誘導、指示が良かったからで間違いはなく、きっと私たちでは獲物の巣すら見つけることは出来なかった筈だからである。

「さてちびっ子諸君。 顔を青くしてるところに申し訳ないが、ちゃっちゃと次行くよー! 生きるという事は食べるという事。 そして心と体を丈夫にするには栄養のある美味しいご飯が重要だ。それ即ち食育!」

 私は平然と笑って言ってみるがどうも三人の顔は青白いままだ。
 その姿にそう言えば私も最初はこんなだったなと懐かしく思うも、甘やかしてばかりはいられない。

「初めてやった狩りに見た解体に気持ちが追いつかないのは分かるけど、これからは君らがコレをするんだよ。 まさか私に狩りをさせて処理させて調理させて、美味しいご飯が食べれるとでも思ってるの? 折角私持ちで狩りを教えてもらえるのに、それすら無駄にするの? そんなんなら一緒にいる意味ないからパーティ解散する?」

「ーーヤダ」

「じゃあ、理解しなさい」

 俯く三人の頭を一度づつ小突き、そしてその口にクッキーを放り込んで行く。
 私に恩を着せるように言ってはいるが、彼らがいないと私が美味しいお肉が食べられないので本来ならば私の方が頭を下げてお願いするべきなのであろう。
 だがしかし、彼らとしても狩りを覚えれば家族孤児達を腹一杯にする事も、自分達でより多くの食べ物を調達することが可能になるのだ。
 そこを理解してもらえれば、私よりも彼らが私に頭を垂れるのは間違いではない。

「あ、ホアンさんも一枚どうです? このクッキー、なかなか美味しいですよ!」

 三人に気を取られながらもホアンにきっちりと媚を売る。
 強え女だと言いながら私からクッキーを受け取ったホアンはそれを小さな布切れで包み、腰のホルダーへとそっとしまった。

「んだば、そろそろ動くぞ。 血に獣が寄ってくる」

「はいさーい! ほれ、行くよー」

 そんな些細な行動に若干の違和感を抱きながらも私達はホアンの後に続いて森の奥へと足を進めたのであった。


 足音を立てずに息を殺し、そっと獣の動きに耳を傾ける。
 自分で行動して初めてその苦労は分かるもので、祖父やスヴェン、アルノーはこんな事を平然とやってのけていた事に尊敬すら抱けてくる。
 そして何より、私の方こそ甘やかされて生きてきたのだと実感するしかなかった。

 歩けば歩くほど足は重くなる。
 息を殺せば息苦しさを感じ、気分も落ち込んでくるものだ。
 当たり前のように毎日ファングを狩ってきた
 祖父はこんな苦労をしていたという事実に漸く気づけたのである。
 しかしまぁ、余りある筋肉エネルギーを使っての狩りだった事も私は知っている故に、やはり庭の食べ物の偉大さが分かるだけになるのたが。

 料理を作る苦労もあるが獲物を狩る苦労もある。けれども結局全てを持って行くのは庭の食べ物でしかないようだ。

 はぁ、とため息を吐くとギロリと鋭い視線をホアンから向けられ、少しながらびくりと肩が揺れた。

 そしてその結果、警戒心の強い動物達は森の中を駆け抜けて、私はホアンのお説教を聞く羽目になったのだ?

「こんなかで一番狩りに向いてねぇのはおまんだな」

「いやぁ、まぁ。ーーすいません」

 本当に、私には狩りの才能はないのだと再認識したのである。



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