リズエッタのチート飯

10期

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買い物

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「何か食べたいのある? 作ってあげるからきますそんな顔すんなよぉ」

 ブスリと顔を背けたまま苛立ちを隠せずにいたスヴェンは、たこと大声をあげて振り向いた。

「たこ飯以外のものが食ってみてぇ!」

「ーー了解。 じゃあ買い物でも行こうか!」

 行くよ、と私が声をかけると先ほどまでの顔つきとは真逆の笑顔を振りまいて、鼻歌まじりに私の隣をスヴェンは歩く。

 どうやらスヴェンは家まで帰るその道中、美味しいご飯を食べられなかったのが相当不満だったようだ。
 私が庭へ続く扉をくぐった時にはすでにそこにスヴェンはいて、レド以外の亜人達が困惑していた。商人としてハウシュタットと家を行き来するのは当たり前なのだが、一度美味い飯を知ってしまうとどんなに私の作るジャーキーやジャム、乾飯が美味くとも満足はできない舌や腹になってしまったらしい。

 それもそれで困ったものだが、一番困るのはこうも不機嫌になられる事だ。

 久々にあったスヴェンが私に言い放った言葉はただいまでもなければ挨拶でもない、飯、の一言。
 それもとてつもなく不機嫌そうに眉をひそめて。

 八つ当たりをされる私からしたら迷惑極まりないが、元を正せば原因は私にあるのだから多少大目に見るしかあるまい。

 ふぅとスヴェンに気づかれないようにひっそりとため息をつき、私達が向かったのはハウシュタットの魚市場だ。そこは何時も買物をする場所で、最近では私の顔を覚えてくれている店もそこそこ出てきている。
 たまにオマケを付けてくれるところもあればまけてくれる所もあり、今回はその中で一番気の利くお店に向かっているのだ。

「そういや気になってたんだが、あの餓鬼どもはなんだ?」

「あ、いや、あれば色々ありまして。 友人?知人? 被験体? とでも言っておこうかなぁ、ははっ」

「……お前、またなんかしただろ」

「…………私は悪くない、良いことしただけだし?」

 チラリと後ろを確認すると路地の影から複数の子供達が目に入る。彼らは私が釣りに行くときに連れて行った子や薬を与えた子らで、ギルドの扉から出て来るとしょっちゅう後をついて来るようになったのだ。
 後を追う彼らからしてみれば、私は仕事を与え食べ物を与え、病気さえも直してくれる恩人であり、役に立てば何かをくれる良い人なのだろう。
 しかし私自身は使い勝手のいい子供としか認識していないためこんな時は大変迷惑である。
 今日は見知らぬ大人が私の隣にいるからか側には来ないが、つけられるのは良い気はしない。

 引きつった顔でもう一度笑うとスヴェンは私の頭に拳を振り下ろし、痛がる私の後ろではギリリとデリアがスヴェンを睨みつけてた。
 彼女も私を思って睨んでいるのだろうが、身内に敵意を向けられるのは、全くもって良い気はしないものだ。

 ため息をつきながら混雑している大通りを抜けるとようやく目的の店にたどり着いた。厳ついおじさんと膨よかで少し目つきの鋭いおばさんが何時ものように商売をしており、私も何時ものようにこんにちは、と声をかける。
 するとまた来たのかと豪快に二人は笑い、そして隣にいるスヴェンへと視線をずらし首を傾げた。

「んにゃ、みねぇ顔だなぁ。 嬢ちゃんの連れかい?」

 眉をひそめて笑うおばさんに連れだよと答えればそれはそれで珍しいとおばさんは豪快に笑った。
 私がハウシュタットに来てから今の今まで、ほとんど一人で出歩いている事を知っているおばさんだからこそ、珍しく面白く思ったのだろう。
 私はおばさんにの笑顔につらて笑いながら店主であるおじさんに、欲しいものがあるんだけどと言葉を投げかけた。

「今日はこのスヴェンがプルプタコを食べたいらしくて、ありますかね? あとターシュンプ青い海老のようなものペッティネ帆立のような貝もあったらください!」

「んまぁ変わったもん食うやっちゃね。 プルプはありあまっとるから持ってきぃ。 ターシュンプとペッティネはどんくらい欲しいさね?」

 店主ほ声に私はスヴェンに向き合い、どのくらい食べる予定かを訪ねた。
 スヴェンは少し悩むそぶりを見せたが最後にはニヤリと笑い、亭主の手に五枚の大銅貨を乗せたのである。

「兄さん、太っ腹だねぇ!」

「うちには大飯食らいが多くてね。 これで買えるだけ頼むよ」

 大銅貨一枚百ダイム。
 ファング一頭二百ダイムとすれば丸々二頭は買っても余る額である。
 それを躊躇いなくポンと出してしまうあたり、スヴェンは金は困っていないのだろう、私のおかげで。

 代金をもらってせっせと樽の中に商品を詰めていく夫婦をよそに、私はスヴェンの足をグリグリと踏みつけついでに筋肉だらけの腹を小突いた。

「そんなに買ってどうするの? 食べきれるの?」

「食うのは俺だけじゃねぇだろ。  俺だけ好き勝手食ってると反感食らうだろうし、なら最初からアイツらの分も確保した方がいいに決まってる。 俺も手伝うからいいだろ?」

「それならいいけど……。 ならそのついでに保冷庫も買って! そうすれば長持ちするからもっと海産物を楽しめるよ!」

 生で魚を食べる料理や冷たいお菓子、長持ちが可能になった時の利点を囁くとスヴェンの口元は半月状の弧を描く。
 そしてわかったと、小さく頷いた。
 私はその答えに満足して頷き返し、店主からターシュンプとペッティネ、おまけの魚が入った樽をスヴェンに持たせて帰路に着いたのである。


 勿論帰りはギルドの扉を通って帰るのだが、その最後の最後まで孤児達は私達をついて来たのには驚きだ。
 それになりより、彼らのあの悔しそうな羨ましそうな表情に、私の心がほんのちょっぴり動いたのにも驚きである。

 どうやら私にも偽善の心はあるらしい。




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