リズエッタのチート飯

10期

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おっさん

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 ガタゴトと揺れる荷馬車の中、私は縮こまって麻袋の中いる。
 両手足を丸め、ときおり何かに当たることもあるがアルノーが気を使って話しかけてくれる為、今の所問題はない。

 なぜ私がこんなところに隠れなければならないのかだが、あのクソ男に見つからないためだ。クソ男ことラルスは案の定エスターのギルドの前で陣取って私たちを待っており、荷台の中を覗き込んでは私を探していたようだった。

「リズエッタはいないのか?」

「いねぇよ。 おれは今からアルノーをハウシュタットに連れてくんだ、そこを退け」

 荷馬車の荷台にはハウシュタットに持って行く商品とアルノーの荷物が詰め込まれているが、その中の一つに私が隠れているとは思わないだろう。
 そう見越しての行動だったのだが、ラルスは不安そうな顔をしながらもスヴェンを商業ギルド内へ案内し、数分後には二、三名の冒険者を連れてスヴェンは荷馬車を動かす。
 遠くで誰から行ってらっしゃいと声をかけ、アルノーやスヴェン、冒険者たちはその声に応えていたが、私は早くこの布袋の中から出たくて堪らなく、小声でアルノーに誰も居なくなったらすぐ出してねと声をかけた。

 それから十数分経った頃アルノーは布袋の紐を開け、もういいよと、誰も居ないよと私を引っ張り出し、私はプハッと生温い息を吐き出し背伸びをし、固まっていた筋肉をほぐしていく。カチカチになったら筋肉はポキポキとおとを鳴らし、幾らぶりに吸った空気は透き通って清々しい。
 動く荷台の上で軽く身体を動かしながら視線を左右に向ければ、そこには堅いのいいおっさんが三人。事前のスヴェンの情報から見立てれば今回雇った護衛のカール、クヌート、ティモの三人なのだろう。
 ランクはシルバーでそれなりに強く、今回のような商人の護衛はあまりしない。それなら何故スヴェンの依頼を受けたのかといえば、スヴェンが冒険者の中で名の通った商人だからだろう。

 まあしかし、その商品を作っているのは私な訳なのだが。

「こんにちは、おじ様方! 私はリズエッタ、ハウシュタットまでよろしくお願いしますね!」

 にっこり笑ってお辞儀をし、変な詮索はしないでくれると助かると言葉を付け加える。
 私は認めたくないのだがエスターではラルスの嫁認定されていて、尚且つ嫁と入りを断ったと噂されている。挙げ句の果てにラルスや他の住人達が態々私に会いに来る始末だ。
 とても迷惑極まりない行為の果ての逃避行。それを台無しにされたくはない。

「ーーよろしくな、嬢ちゃん」

 私のお願いを聞いてくれたのか、はたまた無駄な詮索は無用と考えてくれたのかは定かではないが良い冒険者達であることは確かなのだろう。何よりその無駄な脂肪のない筋肉は見ていて素晴らしい。ただ健康体なだけでなく、洗練された筋肉だ。是非ともハウシュタットに着く前に肩車をしていただきたい。

 ハウシュタットまでは馬で二週間、荷台を引いた馬車でも三週間かからない程度の距離で、荷馬車には私達は三人と護衛の荷物や食料が多く用意されている。
 今まではグルムンドまでだったが護衛は要らないと断っていたスヴェンもハウシュタットまでだと荷物が多くなる為に用心し、護衛としてこの三人を雇ったようだ。
 エスターからハウシュタットまでの行き帰りの護衛の依頼で、三分の一を前金として渡し、最後に残りの依頼金を支払う取り決めである。

 シルバーランクを三人雇う事で結構な金額を支払ったらしいが今のスヴェンには問題はなく、冒険者達はスヴェンという商人の護衛とだけあって取り合いまで発展したらしい。
 彼らから聞くに、スヴェンは最初はブロンズランクの冒険者を指名していたのだが、ダンジョンにいた冒険者はこぞってエスターのギルドまでやって来たみたいだ。

 冒険者ギルドじゃなくて、商業ギルドの依頼なのに。

「そしてよく見ろ嬢ちゃん、ここに飯付きって書いてあんだろ? っても読めねぇか」

「文字の読み書きはできますよ。 んでもって本当に飯付きって書いてありますねぇ」

 渡された依頼書には依頼内容と金額、その他情報として一日二食の飯付きと記載されているが、私は飯を作るとは聞いてはいないし言ってない。
 と言うことはスヴェンが勝手にそう認識してたあるだけかもしれないが果たしてどうなのだろうか。

 依頼書をクヌートに貸してもらい、スヴェン元へ向かいどう言うことかと問えばさも当たり前のように言葉が返って来た。

「俺に不味い飯を食えと?」

 その場合はお前も不味い飯だがな、というだろう顔で。

「いや、だって。 わざわざあの人達の分まで用意する必要なくない? 私らだけ別じゃダメなの?」

「まあそれでもいいが、お前は隣で美味そうな食い物を食ってるやつを見てどう思う? 自分がクソ不味い飯食ってんのにだぞ」

「それは、腹立つ」

「だからだ」

 要はわだかまりを作らない為、とも言えるのだろうか。
 確かに私達だけ通常のご飯を食べて彼らに恨まれるのは嫌だ。ハウシュタットに着くまでに護衛してもらわなければならないのに、それすら放棄されかねない。

 美味い飯とは人の感情なんていとも簡単に動かすものなのだ。

 ため息をつきながらクヌートの元に戻り依頼書を返し、飯付きは確かな情報だったと苦笑いし、ご飯は私が担当するが肉を沢山食べたい場合は狩ってくる様にと釘をさす。
 干し肉もベーコンもそこそこな量は持って来たがアルノーに餞別する分でもあり、増えた大人三人を賄える量ではない。
 冒険者は大食いのイメージをしているが、本当にそうなら自分達で狩って来てもらわないと直ぐに足りなくなるだろう。

「俺たちは大食いだからなぁ、最初から腹一杯まで食わしてもらおうなんて思っちゃいねぇよ。 夜か昼に狩れたら狩ってくるさぁ」

「お願いします。 取り敢えず私もアルノーも解体は出来ますので安心して狩ってきてください」

 出来れば食い扶持は自分で稼いでいただきたい。

 乾いた笑いを見せながら後ろに下がり、私はひっそりと隠し持っていた干し芋にかぶりついた。
 丸まんま蒸したさつまいもを三日間天日干しした干し芋はねっとりとしていて柔らかい。
 平干しの固めのものも好きだが、最近はもっぱら丸干し派だ。

 うまうまと荷台の端でひっそりと食していれば案の定アルノーに見つかり、今度は二人で食べ始める。
 ミルクが欲しくなるが手持ちにはない。ので、渋々普通の緑茶を口にふくんだ。
 もちろんこの緑茶も庭で栽培されているもので、我が家では定番だといえよう。

「美味しいねぇ」

「うまうまだねぇ」

 のほほんと食べていればやはり気づかれるもので、ティモと御者を変わったスヴェンに頭を叩かれ、手に持っていた干し芋を奪われ食われてしまった。
 全くもって食い意地のはった奴には困ったものだ。

「いっつもいっつも、一人で食ってんじゃねぇよ。 俺にも寄越せ」

「一人じゃないもーん、アルノーも一緒だもーん」

 揚げ足をとる様に言えばもう一度私の頭を叩き、ついでにアルノーの頭までもスヴェンは叩いた。
 その態度にブスッと顔をしかめていると干し芋の入った袋を奪われ中身をあっという間に三人に配り、もれなく彼らは干し芋の虜になったのはいうまでもないだろう。





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