リズエッタのチート飯

10期

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ひきつる笑顔

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「ふふふーん!」

 天気は快晴、私はご機嫌。
 小さな可愛らしい花を花瓶にいけ、鼻歌まじりにうっとりとそれを見つめた。

 可能か不可能か定かではない時、または自身に悪影響をもたらさないならやってみべきだと私は思う。しない後悔よりした後悔。出来ないからやらないより、やったけど出来ないの方がいい言い訳にもなる。

「精霊よ、我に力を与えん!」

 昨夜の私の行動に呆れていたスヴェンはその結果を羨ましく思ったのか、私を真似て窓辺にお菓子を置き、見えない精霊達に祈っている。
 とはいったもののそんな頼み方じゃ精霊だって応えてはくれないと思うけれど。

 見えなくても精霊がそこに存在している以上、上から目線の頼み方ではあまりにも失礼なのではないのだろうか。
 せめて私に力を与えてくださいとか、私に力を貸してくださいとか頼む側は下手に出るのが正しいはずだ。
 それなのに魔導書がそう示していると言ってスヴェンは言葉を改めることはない。アルノーは私に習ってお願いしますとか仲良くしてくださいとかを言いながら魔法に励んでいるというのに、頭の固い大人はこれだから困る。

「アルノー、私、レドのとこ行くけど一緒に行くー?」

「行くー!」

 そんな大人は放っておき、私は可愛い可愛いレドの元へ、可愛い可愛いアルノーと共に向かう。
 幾ら庭には食べ物があって困らないとはいえ、レドはどう見ても肉食動物だ、そろそろ肉を食べたいに違いない。

 そう思った私は目覚めた瞬間に今日の天気を理解し、朝っぱらからレドのために分厚いステーキを焼き上げていたのだ。
 そのほかにも自家製マヨネーズを使ったマッシュポテトと桃の入ったパンケーキ、林檎果汁百パーセントのジュース、デザートには葡萄をたっぷりと使ったゼリー(ゼラチンも庭には生えていた)を用意した。
 何食べても美味しいとデレデレするレドに私はとことん甘いのである。

 祖父は朝方がファングやルクルーを狩ってくると意気込んだきりまだ帰ってこないが、ここ数日家に閉じこもってたせいかストックしておいた肉が減っており、その分の調達にまでいったのだろう。
 私としては森の中にまだ食べたことのない未知の生物がいるのだから、それらを獲ってきてくれると嬉しいのにと思うところだ。

 ゲテモノ食いと呼ばれそうだがアスピデと呼ばれる二つ頭の蛇や、パトラチェと呼ばれるネバネバ蛙を食べてみたいとか思っている。
 何故そんなもの食べたいのか問われれば、迷わず好奇心と私は答えよう。

 前々から気になってたんだよ、蛇や蛙の肉。日本じゃあんまりおいてる場所なくてあっても高い。祖父とスヴェンの話では冒険者なら一度は食べたことあるみたいだし、私も食べてみたい。
 ぶっちゃけカンガルーとかワニも食べてみたかったが、この世界にそれらがいるか分からないし、取り敢えずの二種は食べておきたいのだ。


「レドー! 会いにきたよー! 出ておいでー!」

 庭に着いてすぐ大声でレドを呼べば、大きな耳をピンと立て、フサフサな尻尾をフリフリとさせてレドは私の前に跪いた。

「お嬢、お元気そうでなによりです!」

 うっとりと目を細めるレドの頭を抱きしめワシワシと撫で回し、ふわふわな頭に小さな口づけをおとす。
 チュッと音を立てた行為にこそレドは驚いたようだが反抗はないようだ。

「さぁ、レド。 ご飯にしよう! アルノー手伝ってー」

 少し離れていたアルノーに手招きをし、林檎の木の下に持ってきたものを広げた。
 アルノーとレドは互いをチラチラと気にしてるようだがまだ距離感はあり、もう少し慣れるまで時間はかかりそうな雰囲気だ。しかしだからと言って会わせない話させないなんてことはしないので、スヴェンや祖父とは違いアルノーは事あるごとに私に着いきてもらう予定でいる。

 多分レドも大人の男はまだ怖いだろうけど、幼いアルノーには慣れられるかなという私の判断だ。

 レドは広げられた料理に目を輝かせ食べていいのと首をかしげるその姿のなんと可愛い事!
 近くにあったフォークで肉を刺し、あーんと口元に近づけると勢いよくそれを噛みちぎる。ペチッと私の頬に肉汁が飛んでくるがそんなみみっちい事は気にしない。

「レド、これもあげる、どぞ」

 アルノーはそわそわとマッシュポテトを差し出し、レドもレドでありがとうとどもりながらお皿を受け取る。

「え、ああ、ア、アー……?」

「俺は”アルノー”!」

 覚えて! と繰り返し自分の名前を何度も何度も言い、レドもそれを繰り返す。
 ショタとシベリアンハスキーはとても絵になって可愛らしく、私は始終ニヤニヤが止まらなかった。

 そんなやりとりとしながらもレドは美味い美味いと料理を堪能し、お腹が膨れたところで思い出したかのようにおもむろに私に近づいた。

「お嬢に見てもらいたいもんがあるですが、着いてきてもらえますか?」

「ん! いーよ!」

 移動するなら抱っこしてねと両腕を伸ばすとレドは軽々しく私を抱き上げ、チラリとアルノーを見て坊ちゃんもと手を差し出した。
 アルノーはぱぁーと花が咲いたように笑いその手を取り、レドは何処か恥ずかしそうに笑って私はそんな二人の姿を見て頬が緩むのを感じる。
 何故か気分は両者の親だ。

 二人を抱えたレドが向かったのは森の奥、私達があまり足を踏み入れない場所だ。
 所々に果物の木や多分私が望んだのであろう竹が生息しており筍も食べられるとほくそ笑んだのはいうまでもないだろうが、そんな奥深くにそれはあった。

 深緑の葉に毒々しい赤紫の斑点模様、よく耳をすますとギーギーとそれを中心な音がする。
 ここは私の庭だ。
 故に私が望んだ物しか出来ることはないのだが、私の見たこともないものが生えている。これは一体どういうこのだのだろうか。

 レドに近くにおろして貰いその植物を観察してみても私の中にある知識と合致するものはなく、いっその事引っこ抜いてしまえ葉を掴み力を込めーー。

「駄目だ!」

「ふぇい!?」

 レドは草に力をかけた私を怒鳴り、体を持ち上げその場から離した。
 私は私で怒鳴られた事に驚き心なしか瞳からは涙が溢れてきている気がし、右手でそれを拭う。精神的には大人であっても身体は幼女だ、自分で思ってるより身体は正直になるのだろう。

「お、お嬢、すいやせん。 でもアレは抜いちゃヤベェやつなんです」

「そなのかー。 止めてくれてありがとー」

 内心ドギマギしているが、わたしを心配して怒鳴ったのならば責めることはあるまい。
 同じく驚いた顔をしていたアルノーの手をぎゅっと握り、レドに視線を向けそれの説明を仰いだ。

「これは長寿草というもので、ポーションの材料になるものです。ですが抜くときに悲鳴があがり、それを聞いたものは気を失い下手をすれば養分にされちまいます」

「なるほど、私も下手すれば養分にされてた訳か」

「はい。……でも驚かせてすいやせん。先に俺がお伝えしとけばよかったのに」


 ガクッと肩を落としたレドの肩を気にするなと叩き、じゃあどうすればこれを採取できるのかを考える。
 耳を塞ぐにも片手じゃ無理だし、誰か一人が引っこ抜く役をしてもその他二人が気絶しないとは限らない。となると私達に出来ることはただ一つ。

「アルノー、これから私の言う魔法使ってくれる?」

 有難い事に私には出来のいい弟がいる。
 その弟に魔法を使ってもらえばいいのだ。

 いいよと頷いたアルノーに地面をびちゃびちゃになる程の水魔法を使って貰い、水分を大量に含んだところで雷魔法を続けて放つ。
 水は電気をよく通すのは知っての通り、地面の下ではギャギャギャと先ほどのは違った呻き声が聞こえてきた。
 電気ショックを食らわした状態で抜いてもいいのだが念には念を押し、レドにそこら辺に落ちたいた長い棒でグサグサと何度もソレを釘刺し状態になるまで刺してもらう。
 その頃には地面の下から聞こえてくる声はか細く辛うじて聞こえてくる程度だった。


「よっこいせー!」

 もう大丈夫だろうと再び草に手をかけ、思いっきり引っこ抜く。すぼっと出てきたソレは悲鳴にならない嗚咽を零し、ボロボロの歪んだ根をピクピクと動かした。
 根の色は茶色く小人のような形をしていて、口と目に見えるところが恐怖で震えているように見える。グサグサに刺されたからか手足に見えるところは今にももぎれ取れそうで、血のような汁がポタポタと滴り落ちた。
  
「みてみてー! 取れたよー!」

 ニコッこり笑い振り返れば、アルノーはレドの足元で半泣きの顔をしており、レドは少し引いた表情をしている。
 アルノーからしてみれば長寿草が怖かったのかもしれないが、レドの顔の原因は私だろうか?

「お、お見事です、お嬢」

 ギギギと呻く長寿草を麻袋に入れ黙らすように一度地面に叩きつけ、物音しなくなったところでレドにソレを渡す。
 やはりレドは引きつった顔でソレを受け取りハハッと乾いた笑みを向けた。

「……とりあえず、果物と野菜の採取にかかろうか」

 空気は重いがそれに構ってやる必要などない。例えその空気を作ったのが私であっても。
 戻るよーと手を取り歩き、途中で筍を掘りながら私たちはその場を後にしたのだ。



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