リズエッタのチート飯

10期

文字の大きさ
上 下
23 / 149

鶏がらスープ

しおりを挟む

 
 



「レドー、肩車してー」

 両手をハイと伸ばし、亜人であり奴隷のレドに持ち上げてもらう。
 ちなみに”レド”というのは彼の名前で、私がつけた名前ではない。
 奴隷の名前を呼ぶ主人はあまりいないと言われているらしいが、私はちゃんと名前で呼びたいし教えてもらったのだ。

「お嬢、今日は何を作るおつもりで?」

「鶏ガラスープを作ります! でもその前に葡萄が食べたい!」

 片方の肩の上に座るような形で葡萄に手を伸ばせば、前までは梯子を使わなければ取れない場所にあったものでも簡単に取れるようになった。
 一房の葡萄を摘み取り一粒を私の口の口へ放り込むと、甘さと酸味が口の中で踊りだす。
 下にいるレドの口にも葡萄の粒を放り込み美味しいか問えば、尻尾を千切るのではないかと思うくらいに振りながら頷いた。

「ここの食いもんはみんな美味いっす」

「そりゃ品種改良されまくってるからねー」

 この世界の果物はやはりそこまで甘くなかったり変に渋かったりする。それに比べてここの植物は全て私が知ってるもので、知ってる味だ。ただそれのせいでスヴェンからは街のメシが不味く感じると苦情が出ているし、私自身も前回街に行ったときの食文化の低さに唖然したのを覚えている。

 葡萄をむしゃむしゃと食べながらスープ用の林檎とレドのおやつ用の桃を採り、その他ににんにく、ネギ、生姜といったその他香辛料を採取する。鶏ガラは今朝方に祖父とアルノーが獲ってきたルクルーを使うことにした。

 調理場は家ではなく此処で、数日前に出現した第二のキッチンをつかっての調理だ。
 そのキッチンには竃はもちろん石窯までついている優れもので、もっと早くに望んで入ればよかったと後悔したのは記憶に新しい。


 事前に沸かしておいた熱湯に既に締めてあるルクルーを入れ、羽根が抜けやすくなったのを確認してむしり取っていく。少し残った産毛は焚き火で焼き肉と骨を分けるように捌いて、肉の部位は唐揚げや親子丼ように別保存。

 そのうち一緒に煮る野菜を変えてブイヨンを作るのも有りかもしれない。

「レドレドー!骨を綺麗に洗ってー」

 一緒に作業するレドは私に従順で、ルクルーにヨダレを垂らしながらも言われた通りに水で骨を洗う。
 除ききれなかった血の塊やちょっとした内臓のかけらは臭みの原因にもなるのでとても大切な作業なのだ。
 しかしながらヨダレを垂れ流しにするのは衛生的に良くないので、一枚のジャーキーをレドの口に放り込んだ。

 一瞬驚いたように耳をピンと立てるか、モグモグと噛んでるうちにその耳は下がっていき、目を細め、口元を歪め嬉しそうな顔をする。ヨシヨシと頭を撫でてやると私の手に擦りつけるようにグイグイと頭を押し付け、美味いっす最高っすとやんちゃな笑顔を見せてくれた。

「綺麗に洗えたね? んじゃ一回煮るよー」

 レドから受け取った鶏ガラを一度鍋に放り込み、全体が白く火が通ったら鍋から出してもう一度水洗いをする。
 血の塊などが取れたらレドに骨ごとぶつ切りにしてもらい、その間に私は一緒に煮る野菜切り水の張った鍋に入れ、そしてぶつ切りになった骨を入れて鍋に火をつけた。

 沸騰したら竃の日の量を減らし弱火にし、丹念に灰汁を取りながら後はひたすら煮る。

「レド、此処からは君に任せるよ。じっくり煮込んで美味しいスープを作ってね」

「分かりやした、お嬢!」

 ヨシヨシとまた頭を撫でるとレドは尻尾をブンブンと振り回し、私はそんなレドに灰汁は取るんだよ、焦がさないんだよ、おやつの桃は好きなだけお食べと言付けその場所を離れた。



 私はふふふーんと鼻歌いながら塩や砂糖を摘み取っては麻袋に投げ込む。
 これは次回スヴェンにに売ってきてもらう分だ。定期的に用意するならば暇な時に採取していかなければならないし、この作業もレドに覚えてもらわなければならないだろう。けれども一度に沢山の事を覚えるのも無理があるだろうし、私が面倒くさい。
 取り敢えず今はのんびりも出来る仕事を与えて、庭にもっと慣れてもらうことが最善だ。

「なんやかんやで私には尻尾振るんだけどなぁ」

 ”お嬢”と私を呼ぶように、レドは私に懐いている。
 尻尾をブンブン振り、私が庭に入ると走ってくるくらいに懐いていると思う。

 だかその反面、私以外には未だに敵意を向けるのだ。

 スヴェンが話してみようとしても睨みつけ、アルノーが尻尾を撫でようとしてもガン付け、祖父が近寄ろうものなら戦闘体制になり、私にだけは尻尾をふる。

「私を主人と認めてはいるんだろうけど、せめてお爺ちゃんの指示を聞いてくれるくらいにしないと私がサボれない!」

 サボるというか、勉強に手をつけられない。
 アルノーは着々と魔導書を読み進めてるのに対して、私はまだ一ページ目に目を通してたレベルで文字を覚えていない。覚えたくて祖父にレドの事を任せると、レドが威嚇をするか姿を見せないかで祖父は直ぐ帰宅してくるし、覚える暇がない。

「うぐー。 むしろレドに文字教わる? いやでも、文字は一緒なの? 読めるの? 会話は出来るし一緒……? あ、でも奴隷に教わる主人ってどうよ」

 繰り返される自問自答。けれどもそれに答えは見つからず、私はため息をつくだけだった。

 そんな私のところに慌てて走り寄ってきたのは誰でもないレドで、その姿は慌ただしい。


「お嬢! すいやせん! やっちまいました!」

 ゼェゼェと肩で息をするレドは地面に顔を沈めるんじゃないかと思うくらいに頭を深く下げ、尻尾と耳も垂れ下がっている。
 どうしたの屈んで頭を撫でてやれば、鼻をすすりながらやっちまいましたすいやせんと繰り返すばかりで、しょうがなく手を繋いでキッチンへと戻ることにした。

 キッチンに戻るとそこにあったのは床にぶちまけられた鶏ガラスープとそれを突き食べる我が家の鶏達で、レドはスープを台無しにした事を謝っているのだと悟った。

「……はぁ」

 頭をかきながらため息をつくと繋いだ手の先のレドはビクリと体を揺らし、どんよりとした暗い視線を私に向ける。耳も尻尾も下がったままでまるで怯えた子犬のようだ。

「お、お嬢。ああああの」

「うん?」

 大きな体の大きな犬。
 それなのに小さな子供の私に怯える姿はとても可愛いくみえる。
 もしかしたわたしはサディストなのか? いや、そんなはずはないと思うが、レドが可愛すぎるのが悪い。

「どうしてこうなったのかな?」

「と、鳥がですね! 足元にチョロチョロしてて! それを避けようとして!」

「零した、と」

「……っす」

 レドはガクッと肩を落とし、私を見ることはない。反省はしているけど私にどう謝ればいいかわからないといったところだろう。
 そんなレドの頭を私は再び撫で繰り返し、ぎゅっと抱きしめた。

「怪我はないね? まぁスープはまた今度作ればいいよ。でもその前にちゃんとしたニワトリ小屋を作ろうか」

「……お嬢、俺」

「大丈夫、怒ってないし私も鶏を放置して悪かった」

 まさか鶏がレドに向かって行くなんて予想していなかった。普通の鶏なら肉食獣の所へ進んで行くとは考えない。それが仇になったのだ。

「掃除しちゃおう。レド、手伝って?」

「お嬢!」

 先程までの悲しそうな表情は消え、レドは尻尾をブンブンと振り回す。その姿の可愛いこと可愛いこと。

 アルノーは弟として可愛いが、レドは忠犬で可愛い。
 うちの子が可愛すぎて悶えそうだ。

 きっとそのうち私以外の人間にも慣れて行くだろう。今まで奴隷だったのだ、そう簡単に人に懐かないのは仕方ない。私に懐いているのだから良しとしよう。

「レドー、雑巾でちゃんと拭くんだよー」

「ハイ! お嬢!」


 ワンと鳴くように私に返事をするレドは本当にただの大型犬にしか見えない。


 もう、レドが可愛すぎて辛い。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...