リズエッタのチート飯

10期

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釣り

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「今日はみんなで魚を獲ります!」


 朝早くにそんな発言をして向かったのは徒歩十分程の近さにある川。
 光の加減で魚の鱗が反射し泳いでいる姿が見てとれる。

 最近食べてるの肉ばっかだし、魚食べたくて仕方ないのだ。川魚で構わないからなんとしてでも取らなければなるまい。

 川の一部を石で塞き止め祖父は網を、私とアルノーは釣り竿を持ち挑んだ。
 スヴェンは昨日エスターで買い取った織物をヒエムス(エスターと一緒で縫い職人の村だったらしい)まで売りに行き、昼過ぎには帰ってくるようなので一人一匹、計四匹は釣らなきゃお魚戦争の勃発になる。

「振りかぶってー、なげるー!」

「なげるー!」

 私の知っている竿より大分劣った竿だが、背に腹は変えられない。
 ポチャンと音を立てた先を川上から川下へ流し餌が流れているように見せ、二、三分放置して駄目だったらまた川上へ。
 途中餌の虫だけ取られる事もあり、そしたら川辺の石をひっくり返て虫を獲り、針先へつける。
 そんな単純作業を何度も何度も繰り返し、最初にさかなを釣り上げたのはアルノーだった。

「リズ! 釣れたよ!」

「よくやった! その調子で乱獲だー!」

 魚の口から針を外し、川辺につないである網の袋へ移す。網の目が若干広めだが魚よりは小さいし逃げることはなく、川に直接魚を入れているから調理直前まで生かしておけるという便利道具の一つだ。
 死ぬと鮮度は下がるし、帰るまで生きてたら庭の池に放ちたいしバケツ(といっても鍋)に入れるよりもずっといいのである。

 アルノーに負けじと私も何度も挑戦し、やっと一匹釣れた頃にはすでにアルノーは三匹目、祖父は五匹を釣っており、私は自分に釣りの才能などないと悟った。

 がっくりと肩を落としてるのもつかの間、その時点で十匹の魚が網の中を泳いでいたので一先ず釣りを止め、魚の調理に取り掛かる事にした。

 生き餌にかかるということは雑食の魚なのだろう。藻を食べる鮎とは違い内臓は食べられなので、腹を開き取り除き綺麗に水洗いをする。
 竹串なんてものはないから落ちてた枝の皮を剥ぎ先を尖らせ、魚の目玉から背骨に沿って曲げて刺し、尾びれと背びれに塩をたっぷりとつけ、魚の全体にも塩を振る。

 私事だが塩で魚の皮が見えなくなるくらいが大好きで、塩を躊躇なく使うのはデフォだ。

 祖父がつけてくれた焚き火の周りに串刺しにした魚を並べ、後は焼けるまで時より向きを変えながら放置するだけ。ただ待っているだけでは時間が勿体無いので魚の焼き加減は祖父に任せアルノーと二人で再度川辺へ向かい、池に入れるための魚の数を増やしていった。
 とはいってはその殆どを釣り上げるのはアルノーで、私は役にたっていなかったのだけど。

 辺りに魚の焼けるいい香りがし始めた頃、タイミングを図ったかのようにスヴェンが帰り、当たり前のように焼きたての魚に齧り付く。それを見ていた私達は狡いと叫び、我先にと串を手に取った。

 パクリと齧り付くとパリッと皮が音を立て、中から白身のふわふわの魚肉が顔を出す。
 臭みもなく淡白な身は甘く、ホクホクとしていて美味いの一言だ。塩味と一緒になった皮もパリパリとしてそれも美味い。やはり塩焼きは至高の逸品である。

「魚美味しいよー! 塩焼きうまー! 当分魚で暮らしたいー」

 心の底からの願いだ。
 私の体は日本人のものではないが、精神的には日本人といっても過言ではないだろう。醤油や味噌、みりんや日本酒があるのに魚が無いなんて無理。肉文化よりも魚と野菜文化だったのだ、私の家は。

 そう思うと不思議なものだ。
 私の腐った根性と根付いた生活はどんなに周りが変わったとしても変わらない。所詮私は”私”といったとこか。
 やはり神に中途半端な力なんて貰わなくてよかった。

 最後の一口を食べきり手についていた塩の塊をペロリと舐めとると、それに反応してか唾液が溢れた。もう一匹食べたいところだが、庭にいる彼にお昼ご飯をあげなくてはならないし一旦家に帰るのが正しい選択な気もする。

「お爺ちゃん、アルノー。魚がいっぱい獲ったら庭に持ってきてね? 生きたままで!」

「池に放つの?」

「そ。養殖できるか試してみようかなって」

 川魚も海の魚も簡単に養殖できるわけないし、ましては知識の全く無い私なんかが成功するなんて思ってるわけでは無い。
 けれども庭ならどうにかなりそうだし、やりたい事をするのが一番だ。

「んじゃスヴェン、行くよ!」

「え、俺もか?」

「そそ! 魔法使えるのスヴェンだけだしね」

 彼の身体は臭うし汚い。
 スヴェンにお湯を作ってもらって毛を綺麗にしたい。

 頼んだよと祖父達に手を振り、スヴェンと二人庭に向かう。

 道中ヒエムスはどうだったとか、ザイデシュピネのいるダンジョン以外にも売り行きたい等の話をし、牛乳やチーズといった乳製品も欲しいとスヴェンに頼み、行き着いた庭に入ると相変わらずの風景がそこにある。

 木々も草花も風に揺れのんびりとした雰囲気の中、一本の木の下で横たわる彼は異質でそこだけ世界が違うようにみえた。
 彼はこちらに気づいたのかピクピクと耳を動かし目を開けこちらを確認し、私がご飯だよと声をかけると尻尾を微かに持ち上げ返事をする。
 昨日と同じように桃の皮を剥き少しずつ与え、今日は身体を拭くから暴れないようにと告げると彼はまた尻尾を軽く振った。
 どうやらこれが今できる精一杯の返事のようだ。

「スヴェーン、お湯準備してー! 人肌の温度でお願い!」

「はいよー」

 事前に庭に用意しておいた桶にスヴェンの魔法でお湯を溜め、麻布をつけ絞る。
 そして上から下へ毛並に逆らわぬ様に汚れを拭っていくと、二、三度拭いたところで布が黒く染まった。

「あっちゃー。相当なもんだね」

「……俺も手伝うか?」

「いいの? んじゃお願い!」

 持っていた布をビリビリと二つに分け、二人で彼を綺麗にしていく。
 彼も彼で嫌がる素振りも見せず、むしろ気持ちよさそうに目を細めウトウトとし、もはや警戒心のかけらさえ残っていなそうだ。
 毛にこびりついた土や血の塊を拭っていくと赤茶色だった毛は黒と白のツートンカラーに戻り、心なしか艶まで感じるまでになった。

 その姿はまるでシベリアンハスキーで、とても格好いい。

「君はなかなかのイケメンだ。私の目に狂いはなかった!」

 小型犬より大型犬の方が好きだった私にはもう可愛くみえてしょうがない。
 頭を優しく抱きしめてヨシヨシと撫でくり回すと彼は耳をピクピク動かし、尻尾を左右に振る。その姿もなんとも可愛くて私はもうぞっこんだ。

「早く元気になぁれ」

 もっとふわふわになった毛に顔をうずめたい、尻尾をわさわさしたい。
 勿論仕事もしてもらうが、まずは私を満足させてくれ。

 スースーといつの間にか寝息を立てている彼の姿にニマニマとしていると、スヴェンはそんな私を見て呆れた様に溜息を零した。
 何が問題でもあるのかと問いかければ、お前気持ち悪いとスヴェンは笑う。

「デロッデロに甘やかしてどうするんだ。飼犬にでもする気か?」

「勿論飼犬にするよ? 犬は主人に忠実だし、甘やかしてモフモフするんだー」

「本当に、犬としか思ってないんだな」

 私が行っている行為は非道なのかもしれない。
 幾ら犬の様な見た目をしてても彼は亜人といった種族で、人と同じ様な背丈の人種ともいえる。それを堂々と飼犬扱いなんて人権侵害しまくりだ。
 けれども彼は奴隷で、私が買った。故に誰に文句言われようと問題ない。

 こんな世界が悪いのだ、私は悪くない。

 かけた耳をフサフサと撫で、庭の入り口で私を呼ぶ声を聞く。
 その声に軽く返事をし私は彼の側から離れ、祖父とアルノーの釣ってきた魚を庭の池へと放ち庭を後にした。


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