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三日と変化
しおりを挟むその後スヴェンと今後の話をしている最中、魔法を使えるかと試しに聞いてみれば簡単なものならば使えるという返事が返ってきた。
それならばとジャーキーとついでにドライフルーツを沢山用意したいから四、五日滞在して欲しい。
食事も此方で用意するし、出来るならアルノーに基礎的な魔法を教えて欲しいと頭を下げると、私の下がった頭を撫でお安い御用さと気軽に引き受けてくれた。
ジャーキーもドライフルーツもやろうと思えば三日でできるが、それよりもスヴェン自身に試したいことがあるのだ。祖父やアルノー、鶏に私が作る食事。それは身内以外にも”三日”で変化が出るのかということ。
別に人体実験ではないと声高らかに言いたい。
その日の夕食は祖父にバレないように隠しておいたファングの角煮と大根サラダ。マヨから作ったごまダレは自慢の一品だ。
角煮の具材はお肉はもちろん、味の染みた大根とゆで卵もいれており、祖父とスヴェンのお酒のつまみにもぴったりだろう。
ただ一つ問題があるとしたらアルノーの顔が浮かないことだ。
昨日今日ともルクルーが獲れなかった事が悔しいのだろう。
「アルノー、明日からスヴェンが魔法教えてくれるって。 だから今日もいっぱい食べて明日も頑張って」
「スヴェン、僕、魔法ちゃんと使えればルクルー捕まえられるかな?」
「二羽でも三羽でも捕まえられらぁ」
スヴェンはグシャグシャとアルノーの頭を撫で、アルノーのスヴェンの答えに満足したのか目を煌めかせ力強く頷いた。その姿に私も満足しお皿の角煮を食べようとするがそこに肉はなく、少し気を抜いたうちに祖父の腹に消えた事を察する。
「お爺ちゃん!」
「スマンスマン、美味くてのー」
舌打ちを打ちながら立ち上がり皿にもう一度よそえば、それはそれでスヴェンとアルノーの腹の中へ消えていくのは予想のつく事である。
それを踏まえて大皿におかずを用意するのではなく、個々に分けるべきだと学習した。
翌日からはアルノーとスヴェンは魔法練習がてらルクルー狩り、祖父と私はジャーキーとドライフルーツ作りに没頭した。
しかしここで嬉しい誤算が発生したのだ。それは昨日神頼みした池が出来ていたのである。
その池に手を入れればひんやりとしていて、試しに飲んでみれば真水だとわかる。
しかしだ。しかしなぜだか水底に海藻らしきものがしかと見える。
ゆらゆらと揺れるそれはまるでワカメか昆布。もしくはそのどちらともかもしれない。海水ではないところに海藻が生えるなんてあり得る事なのだろうか? いや、でも、ここはなんでも起こる摩訶不思議空間なのだ、そんな事あってもおかしくない。
今はただ昆布ダシが作れることを喜ぼう。
放心することをやめ一人で作業をしていた祖父の隣に戻り、談笑しながらジャーキー加工をひたすら続けた。
加工する事はや三日。
ジャーキーを作りながらも途中でベーコンの塩抜きする事もあったが、初日に作ったぶんのジャーキーは当たり前だが完成している。
大きさ十センチほどの肉を十枚ワンセットとし次々と大きめの麻袋に入れて出荷の準備だ。
量としては全体で二百束ほどあるんじゃないだろうか。だとすると一束五十ダイムだから一万ダイム、硬貨にすると銀貨一枚。そこに新たにドライフルーツも加わればさらに硬貨は増える。素晴らしい成果だといえよう。
これを全部売り切った暁にはアルノーに魔導書と言われるものを買ってあげたい。
確定されていない収入を思い浮かべニヤニヤと笑っているとアルノーの嬉しそうな声が聞こえ、振り向くと巨大な鳥を抱えたアルノーがそこにいた。
「リズー! ルクルー捕まえたよー!」
「すっごいねー!」
ルクルーと言われたそれは私ほどの大きさの真っ黒い鳥。
ぱっと見カラスに見えるが瞳は黒ではなく赤く、少し長めの尾っぽには白い線が何本も入っている。
これを捌くのは大きさ的に私には無理そうだし、力自慢で筋肉バカの祖父に頼むしかあるまい。
「お爺ちゃん、ルクルー捌いでもらっていい? そんで今日は念願の唐揚げにしよう!」
「唐揚げー!」
「唐揚げじゃー!」
祖父とアルノーはまだ食べたことのない唐揚げのために意気揚々とルクルーの足に縄をかけて、林檎の木に吊るす。ルクルーは失神しているのか、はたまたアルノーの魔法に掛かったからか時よりビクッと足先を動かすもされるがままだ。
何度かファングの解体にも付き合ったが、こういうのを見ると命を食って生きてんだなと不意に思うこともしばしばだ。
「私は唐揚げの準備するからよろしくねー」
二人の返事など聞かずに背中を向け、所々でニンニクと生姜、薄緑色をした蜜柑を二、三個もぎ取る。
実はこの蜜柑、果汁が日本酒な不思議果実であり、色の違いによって様々な酒にかわるので祖父が大喜びの代物だ。
しかしなんだ。
ルクルーに気を取られ何かを忘れているような気がする。
何を忘れているかの考えながら庭を出るとそこには呆然と立ち尽くすスヴェンがおり、スヴェンの存在をすっかり忘れていた事にようやく気付いた。
「スヴェンスヴェン、唐揚げ作るから手伝ってくれる?」
「リズ、エッタ? お前どこから……」
スヴェンからすればなんの変哲ない木の縦穴からいきなり私が出てきたらそりゃ驚きもするだろう。
今後色々と商売をしていくにあたってスヴェンには庭のことを教えておいてもいいのかもしれない。
いまだ戸惑うスヴェンの手を取り、以前祖父にもしたように縦穴に連れ込む。
青い空、白い雲。風にそよいで音を鳴らす青々とした木々、足元には様々な野菜と花が咲き誇っている。
私には見慣れた”私の庭”だ。
「ここが私の秘密の庭でね、塩も砂糖も果物も酒も全部ここで取れるんだよ。凄いでしょー」
自信満々の顔でスヴェンをみれば何時ぞやの祖父のような顔をしていた。
「嗚呼、そういえばスヴェン。身体に何かを変化ない?」
「変化……?」
「そう、変化!」
目をキョロキョロさせながらスヴェンは特に変化はないといい、私はその返答に愕然と肩を落とす。
どうやら三日クオリティは身内限定みたいだ。
「スヴェンならお爺ちゃん型だと思ったんだけどなぁ。アルノー型でもないのか。残念」
でもまあ仕方がないことだと気を取り直し唐揚げの準備をするよとスヴェンの手を引き家まで向かう。
久々に食べられる唐揚げに期待していた私には、その時のスヴェンの表情など知る由もなかった。
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