6 / 149
三つの条件
しおりを挟む考えなければならない事が三つある。
一つ。
死にかけていた祖父が何故あそこまで回復し、より逞しくなったか。
二つ。
あの空間は私が望んだ物を生み出すが、その上限はあるのか。
三つ。
そもそもあの空間は何なのか。
その一について。
仮にあの空間から生産される物を食べたからという事で祖父が元気になったのだとしたら、同じ食事をしている私やアルノーの体に変化がみられてもおかしくはない。しかしながら今の所私たち二人には変化らしい変化はなく、それこそいたって普通の六歳児である。
そう考えてみると祖父が特別なのかもしれない。
その考えのが正しいのか試すため、私は一羽の老いた雌鶏にあの場所で取れる野菜のクズを試しに与えてみたることにした。
一日目、二日目と雌鶏に変化はなかったが三日目の朝から毎日卵を産むようになり、試しにもう一羽の雌鶏の餌も変えてみたらより濃厚なオレンジ色の黄身を持つ卵になった。
これで食べる卵かけご飯はこれまた最高で、アルノーと祖父で毎日取り合いをするほどだ。
結果あそこで出来たものを食わすと雌鶏はより良い卵を産み、雄鶏はムキムキボディーになる事が判明した。雄鶏は闘鶏に出してもおかしくないほどだと言える。
そうなると私はともかく、アルノーはムキムキになっても良いのではないかと思うのだがその傾向は未だみられなず、六歳児がムキムキでも嫌だけども納得は出来ない。
「はたまた、大人だけに反応するか、か?」
鶏も祖父もそこそこ高齢であったことが唯一の共通点だ。ならばあと数年もすればアルノーの体にも何らかの異変が見られるのかもしれない。
見たくはないけど。
その二。
どんなものが生み出せるかだが鶏と同時進行で実験した所大体の野菜、果物、調味料はなる事が分かった。
植物は私が知ってる知識のように実ったりまとまって一つの木にどばっと出来たりしている。調味料に関しては樹液だったりと醤油と同じで葡萄型になることが多い傾向が見られた。
その中で特殊なのが塩と砂糖であり、白い花びらが結晶化して取れるものだ。
一つ残念なことはここには”肉”はならない。当たり前と言っては当たり前なのだが、何でもなるからもも肉とか牛タンとかならないかな期待はした。
つまりは生き物はならない、と言った所だろうか。
だがしかし! 残念な事柄とともに嬉しい事もある。それは願えば器具が落ちているという事だ!
冗談でフライパン欲しいわぁと呟いたあくる日、不安そうに私を見つめるアルノーの手にはフライパンが握られていたのだ。
「それ、どうしたの?」
「んー。落ちてた?」
そう、落ちてた。
どうでも良さそうにあの秘密基地の中に、適当に落ちてたのだ!
私は躊躇わず神に祈ったさ。
おお神よ! 私はあなたに感謝します! とね!
うちで使ってた鉄鍋はもうボロボロで、新しいのを買うにも街まで行くかスヴェンを待つかだったからとても素晴らしい贈り物だ。
その日は食材の他にコンロっぽいのもと出来ればレンジっぽいのも欲しいと願ったのだが、落ちていた物はなく、出来すぎた現代電子機器は”落ちはしない”ということだろうと私は考えた。
そしてその三。
これに関しては未だにはっきりとは分からないが、一、二の内容をふまえて考えるとあの場所では望むもの(生物を除く)を生産でき、なおかつ”料理”に関する”電気”を利用しない器具がならば手に入れる事ができる摩訶不思議空間であり、祖父曰く私のみの願いが叶えられる場所、らしい。
試しに祖父も酒が欲しいと願ってはみたがそこに出来ることはなく、代わりに私が願えば出来たのだ。
便利で使い勝手がいい場所だがあまりにも色んなものが生産できる為に他者には言わない方がいいと祖父は言う。迂闊に領主や国に知られてしまえば良くて没収、悪くて私が拉致監禁だそうだ。
「でもお爺ちゃん、塩や砂糖。その他諸々を売ると多分稼げるよ?」
「うーむ。そうじゃのぅ、スヴェンが来た時にでも頼んでみるか? まぁ、アイツならば悪いようにはすまい」
「お金はあるに越したことはないしね」
つまりはスヴェンという商人を隠れ蓑にするわけだ。何か良くないことがあってもスヴェンに押し付けてしまえばいいという私自身の悪い考えもあるが、祖父はスヴェンを信用しているしスヴェンも私たち双子を可愛がってくれている。私を売るような真似はしないだろう。
いずれ私がそれらを使って商売を始めるときにスヴェンを特別扱いし、商売繁盛に導いてやれば万々歳。ギブアンドテイクで事を運びたい。
「それはさておきリズエッタ、今日の夕食はなんだね?」
「唐突だねお爺ちゃん。今日は他人丼だよ」
結局のところ今の私や祖父にとっては先の事より今の事を、ご飯のことが大切だ。
今日の夕ご飯のために昨日一昨日と卵を死守し、鳥は潰せないから代わりにファングの肉を使う。
親子丼ならぬ他人丼だ。祖父もアルノーも意味など分からないだろうけれども、美味けりゃいい、それだけなのだ。
話を一旦切り上げ台所へ向かい、アルノーにスープを温めてもらいながら夕食の支度に取り掛かる。小さなフライパンに砂糖と醤油、みりんを入れ、本来ならば出汁を入れたいのだけれどもんなものはない。
と 言っても出汁は欲しい。そこで登場するのは二、三種類のキノコ達だ。
キノコはそのままでも出汁の出る食材だが、沸騰したお湯から煮ると出汁は出ないから水からじゃないと駄目。故に調味料のはいった鍋に水とキノコを加えて軽く煮立てるのが重大なポイントだろう。
「リズゥー! スープあったまった!」
「じゃあよそってテーブルに持ってってー! それが終わったらご飯もよそって持ってきて!」
「わかったー!」
嬉しそうに私を手伝うアルノーはきっと良い旦那さんになるだろう。だが、そうそう嫁など取らせん。
いつか来るだろう未来にコトメ精神丸出しになりながら鍋に細切りにしたファングと玉ねぎを入れ、火が通ってきたところでオレンジ色の溶き卵を投入。トロトロ好きなアルノーの為に卵は柔らかめにしてホカホカご飯の上に乗せ、ハイ完成。
テーブルの上にドン! と乗せれば祖父もアルノーもヨダレが溢れんばかりの顔で私が着席するのを持っていた。
「それでは頂きます!」
パンと両手を叩けば二人はガツガツとご飯を食べ始めていく。
こんな毎日に慣れやしたけど、まぁアレだ。
私、メシマズだったんだがな。
脳内にレシピが浮かぶのも、スムーズに手が動くのも全て神様のおかげなのだろうね。
「神よ、あなたに感謝します」
メシマズはもう嫌だ。
0
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる