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三つの条件
しおりを挟む考えなければならない事が三つある。
一つ。
死にかけていた祖父が何故あそこまで回復し、より逞しくなったか。
二つ。
あの空間は私が望んだ物を生み出すが、その上限はあるのか。
三つ。
そもそもあの空間は何なのか。
その一について。
仮にあの空間から生産される物を食べたからという事で祖父が元気になったのだとしたら、同じ食事をしている私やアルノーの体に変化がみられてもおかしくはない。しかしながら今の所私たち二人には変化らしい変化はなく、それこそいたって普通の六歳児である。
そう考えてみると祖父が特別なのかもしれない。
その考えのが正しいのか試すため、私は一羽の老いた雌鶏にあの場所で取れる野菜のクズを試しに与えてみたることにした。
一日目、二日目と雌鶏に変化はなかったが三日目の朝から毎日卵を産むようになり、試しにもう一羽の雌鶏の餌も変えてみたらより濃厚なオレンジ色の黄身を持つ卵になった。
これで食べる卵かけご飯はこれまた最高で、アルノーと祖父で毎日取り合いをするほどだ。
結果あそこで出来たものを食わすと雌鶏はより良い卵を産み、雄鶏はムキムキボディーになる事が判明した。雄鶏は闘鶏に出してもおかしくないほどだと言える。
そうなると私はともかく、アルノーはムキムキになっても良いのではないかと思うのだがその傾向は未だみられなず、六歳児がムキムキでも嫌だけども納得は出来ない。
「はたまた、大人だけに反応するか、か?」
鶏も祖父もそこそこ高齢であったことが唯一の共通点だ。ならばあと数年もすればアルノーの体にも何らかの異変が見られるのかもしれない。
見たくはないけど。
その二。
どんなものが生み出せるかだが鶏と同時進行で実験した所大体の野菜、果物、調味料はなる事が分かった。
植物は私が知ってる知識のように実ったりまとまって一つの木にどばっと出来たりしている。調味料に関しては樹液だったりと醤油と同じで葡萄型になることが多い傾向が見られた。
その中で特殊なのが塩と砂糖であり、白い花びらが結晶化して取れるものだ。
一つ残念なことはここには”肉”はならない。当たり前と言っては当たり前なのだが、何でもなるからもも肉とか牛タンとかならないかな期待はした。
つまりは生き物はならない、と言った所だろうか。
だがしかし! 残念な事柄とともに嬉しい事もある。それは願えば器具が落ちているという事だ!
冗談でフライパン欲しいわぁと呟いたあくる日、不安そうに私を見つめるアルノーの手にはフライパンが握られていたのだ。
「それ、どうしたの?」
「んー。落ちてた?」
そう、落ちてた。
どうでも良さそうにあの秘密基地の中に、適当に落ちてたのだ!
私は躊躇わず神に祈ったさ。
おお神よ! 私はあなたに感謝します! とね!
うちで使ってた鉄鍋はもうボロボロで、新しいのを買うにも街まで行くかスヴェンを待つかだったからとても素晴らしい贈り物だ。
その日は食材の他にコンロっぽいのもと出来ればレンジっぽいのも欲しいと願ったのだが、落ちていた物はなく、出来すぎた現代電子機器は”落ちはしない”ということだろうと私は考えた。
そしてその三。
これに関しては未だにはっきりとは分からないが、一、二の内容をふまえて考えるとあの場所では望むもの(生物を除く)を生産でき、なおかつ”料理”に関する”電気”を利用しない器具がならば手に入れる事ができる摩訶不思議空間であり、祖父曰く私のみの願いが叶えられる場所、らしい。
試しに祖父も酒が欲しいと願ってはみたがそこに出来ることはなく、代わりに私が願えば出来たのだ。
便利で使い勝手がいい場所だがあまりにも色んなものが生産できる為に他者には言わない方がいいと祖父は言う。迂闊に領主や国に知られてしまえば良くて没収、悪くて私が拉致監禁だそうだ。
「でもお爺ちゃん、塩や砂糖。その他諸々を売ると多分稼げるよ?」
「うーむ。そうじゃのぅ、スヴェンが来た時にでも頼んでみるか? まぁ、アイツならば悪いようにはすまい」
「お金はあるに越したことはないしね」
つまりはスヴェンという商人を隠れ蓑にするわけだ。何か良くないことがあってもスヴェンに押し付けてしまえばいいという私自身の悪い考えもあるが、祖父はスヴェンを信用しているしスヴェンも私たち双子を可愛がってくれている。私を売るような真似はしないだろう。
いずれ私がそれらを使って商売を始めるときにスヴェンを特別扱いし、商売繁盛に導いてやれば万々歳。ギブアンドテイクで事を運びたい。
「それはさておきリズエッタ、今日の夕食はなんだね?」
「唐突だねお爺ちゃん。今日は他人丼だよ」
結局のところ今の私や祖父にとっては先の事より今の事を、ご飯のことが大切だ。
今日の夕ご飯のために昨日一昨日と卵を死守し、鳥は潰せないから代わりにファングの肉を使う。
親子丼ならぬ他人丼だ。祖父もアルノーも意味など分からないだろうけれども、美味けりゃいい、それだけなのだ。
話を一旦切り上げ台所へ向かい、アルノーにスープを温めてもらいながら夕食の支度に取り掛かる。小さなフライパンに砂糖と醤油、みりんを入れ、本来ならば出汁を入れたいのだけれどもんなものはない。
と 言っても出汁は欲しい。そこで登場するのは二、三種類のキノコ達だ。
キノコはそのままでも出汁の出る食材だが、沸騰したお湯から煮ると出汁は出ないから水からじゃないと駄目。故に調味料のはいった鍋に水とキノコを加えて軽く煮立てるのが重大なポイントだろう。
「リズゥー! スープあったまった!」
「じゃあよそってテーブルに持ってってー! それが終わったらご飯もよそって持ってきて!」
「わかったー!」
嬉しそうに私を手伝うアルノーはきっと良い旦那さんになるだろう。だが、そうそう嫁など取らせん。
いつか来るだろう未来にコトメ精神丸出しになりながら鍋に細切りにしたファングと玉ねぎを入れ、火が通ってきたところでオレンジ色の溶き卵を投入。トロトロ好きなアルノーの為に卵は柔らかめにしてホカホカご飯の上に乗せ、ハイ完成。
テーブルの上にドン! と乗せれば祖父もアルノーもヨダレが溢れんばかりの顔で私が着席するのを持っていた。
「それでは頂きます!」
パンと両手を叩けば二人はガツガツとご飯を食べ始めていく。
こんな毎日に慣れやしたけど、まぁアレだ。
私、メシマズだったんだがな。
脳内にレシピが浮かぶのも、スムーズに手が動くのも全て神様のおかげなのだろうね。
「神よ、あなたに感謝します」
メシマズはもう嫌だ。
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