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エピローグ
しおりを挟むもえぎさんへ…とボールペンで書かれたそのベージュ色の封筒は、ホテルの女性支配人によってわたしの部屋へ届けられた。
彼女の顔には見覚えがあった。五十代前半、目鼻立ちのはっきりした美しいひとで…西洋人の血が流れているのかもしれなかった。
「最後に滞在された日、寝室のナイトテーブルの上に置いてありました。登録された電話番号が通じず、お名前だけしか存じ上げなかったので、こちらからは連絡のしようがなかったのです」
平林もえぎさん
再び、あなたに会うことは叶わないでしょう。近い将来、おそらく数年のうちに、ぼくは死ぬことになっています。約束してしまったのだから、仕方ありません。だけど、そんな自由のきかないぼくにだって、決められることがあります。それは、誰に遺産を相続するかです。ずいぶんと働き、平均的な会社員の生涯年収くらいは稼ぎました。どうか、あなたに受け取ってほしい。弁護士に相談して、法的な手続きは済ませました。連絡先の名刺を同封しておきます。
窪田拓斗
その手紙を三回読みかえして、わたしは弁護士の名刺と共に同封されてあった、一枚の色褪せた写真を見た。
…坊主頭の学生服姿の中学生が、音楽室のピアノの椅子に座っていた。何処にでもいる、田舎の普通の少年という感じだった。
しかし、それが拓斗なのだと、わたしにはすぐに分かった。すっかり顔は違っていたけれど、なんとも優しい…あの独特の目元だけは同じだったから。
そうして、わたしは、働くことと無縁の人間になることが出来た。貧しかった子供のころに抱いた夢の通りに。
同時に、欲しいものや、やりたいことが何も無くなってしまった。
それでも、なるべく規則正しく、健全な生活を心がけている。
「きみは幸せか?」
と誰かに質問されたら、分かりません……としか答えられないと思う。
もしかしたら、金持ちになるというのは、そういうことなのかもしれない。
The End
ー天使の愛人ー
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