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第一章 転生者、ルーク・グランバート
11 葛藤
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『筋萎縮性側索硬化症(ALS)』
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気のこと。 しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をけるため、神経が治れば病気も治るため、前世では薬などで回復させることができるようになってきた。──ウィキ〇ディアより引用
しかしここは異世界。
そんな薬なんてない。
もしかかった場合は絶望的であることは明白である。
しかし幸運な事に僕はこの病気について詳しく知っている。
その知識だけでベルさんを治すことが出来るかどうか·····
え?なんでそんなに詳しいのかって?
それは前世では名門大学の医学部に所属してたからね。不本意ながら。
その理由は、いつかまたの時ということで。
とにかく、どうやってこの異世界という地で治すかだけど······
「ベルさん。今から僕の指示の通りに体を動かしてください」
うまく状況が飲み込めていない様子だったが仮にも国の王子から言われたことであるため素直に肯首する。
「寝た状態で構いません。足の先から順番に動かしたり、力を入れたりして特に違和感を感じるところや感覚が無くなっている部分があるか確認してください。自分で確認しにくい部分があれば言ってください。手で抑えたりしてこちらから確認するので。とりあえず頭以外を動かして確認してみてください」
何をするつもりなのかわかっていない様子のベルさんだったが、とりあえず、と言われた通りに身体の至るところを動かして確認する。
「あ·····あの、腰を······力···入らなくて·····」
「わかりました。ちょっと失礼しますね」
指圧で腰の部分を確認する。
一般的な腰と比べて、ベルさんの腰は明らかに硬さにムラがあった。凸凹という程ではないが、やはり神経が部分的に固まっている。
「腰の部分はわかりました。胸元や肩はどうですか?」
「あ·····はい。凝っている、ような感覚は····でも、腰ほどでは······」
ふむふむ。
「足はどうでしたか?」
「足をつっているような感じは·····はい」
足の太ももを確認してみる。
確かに、まるで太ももをつるように筋肉が強ばっている。
ただ、これに関してはALSが原因と言うよりかは、ALSによる二次被害──無理に歩こうとして足の変な部分に力が加わってしまった結果──であるように思える。
肩も同じだと思う。
つまり、根源は足や肩ではないということだ。
だとすると、『腰』か『脳』か。
待てよ?先程から舌の動きが鈍くなっている気がする。つまり、脳(もしくは頭の何処か)にALSが絡んできてるということ。
つまり
「腰と脳にALSが潜んでいます」
これは厄介なことになった。
腰と脳の両方を魔法で治療すればいいのでは
と思う人がいるかもしれない。
だが、出来ることならそれは避けたいのが僕の本音である。
というのも、魔法はイメージが最重要だからだ。兄様の怪我を治すことが出来たのは、僕に知識があっただけではなく『外傷』があったからでもある。外から見て具体的な治療場所、一番最初の治す前の状態のイメージが付けやすいことが難なく成功した理由と言えよう。
しかし、今回は違う。
外傷は無く、怪我じゃない病気である。
病気は「再生する」ことで治る訳では無いため、もっと具体的なイメージが必要であると予想出来る。
もし脳に大元の根源があるなら、イメージが困難であることは容易であろう。
ただでさえ脳は超精密機械であり、脳に少しでも異常があれば手術となる。それほどに腰や足と違って難しい。
より強いイメージで魔法を使うとなると、いくら僕でも未知の世界であり、
魔力が足りなくなる可能性が───
「お母さん·····治るよね·····?」
ハッとして僕は振り返った。
今にも泣きそうなのを祈るように固く握った手で必死に堪えるシャルルの姿が目に映った。
「こら!ルーク王子に急に話しかけてはダメだぞ!」
クロロが妹に小さく指摘する声がした。
ただ、僕にはそれよりも彼の言った
「ルーク王子」の部分が引っかかった。ただ、いつもなら王子なんて付けなくても···、と思うのだが気になったのはそれではなかった。
(そうだよ)
(僕はもう一般人じゃない)
(じゃあなんだ?)
(僕は一国の王子なんだ)
(王子はなんのために存在するのか)
(無論───······)
「国民を守るためだろうが····!」
声には出さなかったが、全力で叫んだあとのように、心の中のモヤモヤしたものは完全になくなっていた。
「キーン先生!」
後ろで兄妹をなだめていた先生は呼ばれてこちらの方を向いた。
「今から治療します!!手伝ってもらえませんか」
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気のこと。 しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をけるため、神経が治れば病気も治るため、前世では薬などで回復させることができるようになってきた。──ウィキ〇ディアより引用
しかしここは異世界。
そんな薬なんてない。
もしかかった場合は絶望的であることは明白である。
しかし幸運な事に僕はこの病気について詳しく知っている。
その知識だけでベルさんを治すことが出来るかどうか·····
え?なんでそんなに詳しいのかって?
それは前世では名門大学の医学部に所属してたからね。不本意ながら。
その理由は、いつかまたの時ということで。
とにかく、どうやってこの異世界という地で治すかだけど······
「ベルさん。今から僕の指示の通りに体を動かしてください」
うまく状況が飲み込めていない様子だったが仮にも国の王子から言われたことであるため素直に肯首する。
「寝た状態で構いません。足の先から順番に動かしたり、力を入れたりして特に違和感を感じるところや感覚が無くなっている部分があるか確認してください。自分で確認しにくい部分があれば言ってください。手で抑えたりしてこちらから確認するので。とりあえず頭以外を動かして確認してみてください」
何をするつもりなのかわかっていない様子のベルさんだったが、とりあえず、と言われた通りに身体の至るところを動かして確認する。
「あ·····あの、腰を······力···入らなくて·····」
「わかりました。ちょっと失礼しますね」
指圧で腰の部分を確認する。
一般的な腰と比べて、ベルさんの腰は明らかに硬さにムラがあった。凸凹という程ではないが、やはり神経が部分的に固まっている。
「腰の部分はわかりました。胸元や肩はどうですか?」
「あ·····はい。凝っている、ような感覚は····でも、腰ほどでは······」
ふむふむ。
「足はどうでしたか?」
「足をつっているような感じは·····はい」
足の太ももを確認してみる。
確かに、まるで太ももをつるように筋肉が強ばっている。
ただ、これに関してはALSが原因と言うよりかは、ALSによる二次被害──無理に歩こうとして足の変な部分に力が加わってしまった結果──であるように思える。
肩も同じだと思う。
つまり、根源は足や肩ではないということだ。
だとすると、『腰』か『脳』か。
待てよ?先程から舌の動きが鈍くなっている気がする。つまり、脳(もしくは頭の何処か)にALSが絡んできてるということ。
つまり
「腰と脳にALSが潜んでいます」
これは厄介なことになった。
腰と脳の両方を魔法で治療すればいいのでは
と思う人がいるかもしれない。
だが、出来ることならそれは避けたいのが僕の本音である。
というのも、魔法はイメージが最重要だからだ。兄様の怪我を治すことが出来たのは、僕に知識があっただけではなく『外傷』があったからでもある。外から見て具体的な治療場所、一番最初の治す前の状態のイメージが付けやすいことが難なく成功した理由と言えよう。
しかし、今回は違う。
外傷は無く、怪我じゃない病気である。
病気は「再生する」ことで治る訳では無いため、もっと具体的なイメージが必要であると予想出来る。
もし脳に大元の根源があるなら、イメージが困難であることは容易であろう。
ただでさえ脳は超精密機械であり、脳に少しでも異常があれば手術となる。それほどに腰や足と違って難しい。
より強いイメージで魔法を使うとなると、いくら僕でも未知の世界であり、
魔力が足りなくなる可能性が───
「お母さん·····治るよね·····?」
ハッとして僕は振り返った。
今にも泣きそうなのを祈るように固く握った手で必死に堪えるシャルルの姿が目に映った。
「こら!ルーク王子に急に話しかけてはダメだぞ!」
クロロが妹に小さく指摘する声がした。
ただ、僕にはそれよりも彼の言った
「ルーク王子」の部分が引っかかった。ただ、いつもなら王子なんて付けなくても···、と思うのだが気になったのはそれではなかった。
(そうだよ)
(僕はもう一般人じゃない)
(じゃあなんだ?)
(僕は一国の王子なんだ)
(王子はなんのために存在するのか)
(無論───······)
「国民を守るためだろうが····!」
声には出さなかったが、全力で叫んだあとのように、心の中のモヤモヤしたものは完全になくなっていた。
「キーン先生!」
後ろで兄妹をなだめていた先生は呼ばれてこちらの方を向いた。
「今から治療します!!手伝ってもらえませんか」
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