本当の私

第一章

第四話 話し合い

校長室に着く。
福田さんの親の姿はもういなかった。校長先生は少し深刻な顔している。
「福田さん。もっと早く決めるべきでしたね。」
「いや、わたしは男の子ですから…生物学的には…」
「そうじゃなくて、男の子でも外見は女の子なんだ。お母様から聴いたんだ。」
「何をですか？」
「君の状況についてね」
～16年前～
とある病院で福田澪は産声をあげた。
「うぎゃーうぎゃー」
元気な男のですよ！
男の子だった。でも、彼が成長していくにつれて家族はだんだん異変に気づいた。
彼は全く男性が好むようなことをしなかった、その上振る舞い方も女性そのもで父親に何度も男らしくしろと言われていた。
しかし、中年生になると、彼の容姿でさえ女の子に近づいた。さらには胸までも膨らんできた。
流石におかしいと気づいた家族は彼を病院に連れて行った。
「性分化疾患の可能性がありますね。一応男性ホルモンの薬を出すことは可能ですが、本人の希望は…」
「わたしは女の子がいい…」
「何言っているんだ！？お前は男だろ！ゆうすけ！」
隣で父親がかなり大声で怒鳴った。
「お父様、そう怒らずに。これはれっきとした病気です。そう考えるのは仕方ないことです。」
しかし、その後も父親は彼が女になることに反対し、最終的には離婚となってしまった。離婚後、母親は彼女の要望で改名などを行ったが、父親から浴びされた暴言のせいでいつまで経っても彼女は性転換の勇気が出なかった。
それでも、彼女は明るく振る舞い母親に心配をかけたくなかったのだ。
～～～
「福田さん、あなたはすごく辛かったでしょう…」
校長の先生の話をほとんど聞かずに福田さんは窓の外の風景を眺めていた。校庭ではクラスメートたちが楽しそうに体育の授業を受けていたのだ。
「わたしも参加したかったな…」
「福田さん…あなたは自分の性をはっきりする必要があります。そうでなければ、迷惑がかかるのは周りのみんななのです。」
「…」
性
今までそんな概念なんて消えてしまえばいい、考えなくてもいいと彼女は思っていた。しかし、現実はそう甘くなかった。
はっきりしろって言われたって…わたしにはどうすることも…
父親の暴言が蘇った。
「はあ～まあ、すぐには決められないでしょう。決めれるまで体育の授業は参加しないでください。」
「はい…」
彼女は校長室から解放された。ちょうど授業ももうすぐ終わりそうで、次はランチタイムーだ。
チャイムがなり、クラスメートたちがぞくぞくと教室へと帰ってきた。
彼女は孤立していた。他のクラスメートが集まってご飯を食べているのに、彼女だけが1人でご飯を食べている。
初日だから仕方ないさ、と彼女は自分自身を騙した。
長い長い1日も終わり、彼女は駅に行く道に立った。
「はあ～」
深いため息を吐き、彼女は電車へと乗る。そして、改札を通り自分の住む街へと着く。
「やっぱりここは落ち着くな～」
家に着き、ただいまも言わずに彼女は自分の部屋に入る。
制服を一つ一つ脱ぎ、パジャマに着替えた。
「んんん～」
「現実逃避しよ」
勉強机に置いてある安眠薬を飲み、彼女はベッドに横たわった。
夢の中なら何も考える必要はなかった…
しかし、今日は悪夢だったようだ。あの懐かしい背中が見えた。小さい頃まではすごく優しい父親だった。でも、中学生になって、病気だと診断されてから、彼女を人扱いしなくなって、「気持ち悪い」「お前はなんなんだよ」「親として恥ずかしい」などと暴言をぶつけられていた。
そんな彼女はいつも安眠薬を飲んで現実逃避するようになった。いつしかそれは習慣となり、夜は眠れなくなって安眠薬を摂取し続けた。
もう嫌だ。起こさないでくれ、しかし現実はそういかなかった。
もうすでに日は暮れていた。彼女はベッドから出て、リビングへと向かう。ご飯が置いてある。母親は仕事だろう…
テレビをつけてご飯を食べながら見る。
『今朝、市内で12人を指し殺した通り魔の古田雄介容疑者の情報が出回っております。みなさま、ご注意ください』
「ゆうすけって、前のわたしの名前じゃん…もう…」
彼女はイライラしてテレビを消し、無音の中でご飯を食べた。