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サプライズの行方 <後編>
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「きゃあっ!」
「わっ! なんだ!」
「なんだとは私が聞きたいですね。リアム、これは一体どういうことですか?」
「えっ――! そ、ソフィア……なんでここに? まだ帰ってくる日じゃ……」
「お父さまの仕事が早く終わったのでリアムに会いにきたのですが、お邪魔だったようですね」
「いや、これは違うんだっ! 誤解なんだっ!」
「何が誤解ですか? そこの裸の女性、ああ……誰かと思えばヴェセリー男爵令嬢のゾーイさんでは? あなた、リアムに私という婚約者がいるのはご存知でしょう?」
必死に布団で身を隠しながらぶるぶると震える彼女の姿にもう笑いしか出てこない。
「リアム、今回の婚約は無かったことにいたしましょう。婚約破棄の慰謝料は後で請求いたしますので楽しみにしていらして。もちろんゾーイさんにも慰謝料を請求させていただきますわ」
「そ、そんな……ソフィア! 考え直してくれ! たった一度の過ちじゃないかっ! 私が本当に愛しているのはソフィアだけなんだ! 今回はただ、君がいないのが寂しくてつい……。だから許してくれ!! 頼むっ!!」
「リアム……私がリアムを一人にさせてしまったから寂しい思いをさせてしまったのですね」
「ソフィア、わかってくれるのか! そうなんだ、寂しかったんだ。だから婚約解消だなんて――」
「なんて、わかるわけないでしょう! 私を馬鹿にするのもいい加減にしてくださらない? 今回の件はお父さまにもしっかりと伝えて、シュルーダー伯爵にもお知らせしますのでどうぞお楽しみに」
「ソフィア……そんな……」
私は裸のままガックリと項垂れるリアムをその場に放置して踵を返した。
ああ、あんな男を信用して婚約したのが間違いだったのだわ。
「ソフィアさま。申し訳ございません」
玄関に土下座して床に額を擦り付け、謝るヨハンに
「あなたが悪いのではないわ。でも、リアムとはもう終わりよ」
と告げ、屋敷を出た。
シュルーダー家の馬車を借りる気にもなれず歩いて帰ろうとしたけれど、護衛騎士の馬に乗せられ私は家へと戻った。
あまりにも早く帰ってきた私を見て驚くお父さまに、事の顛末を説明すると顔を真っ赤にして怒り狂った。
「ソフィア、お前にそんな辛い思いをさせて申し訳なかった。リアムのことも、そしてゾーイのことも全て私に任せてくれ」
「お父さま……ありがとうございます」
私は部屋に戻ると、張り詰めていたものが切れたのか涙が止まらなくなっていた。
最初からリアムとは合わない気がしていた。
リアムの言葉に惑わされて、自分の直感を信じなかった私が悪いのだわ。
私は本当に大馬鹿者よ。
何もする気にもなれず、ぼーっとソファーに座っているとトントントンと扉を叩く音が聞こえた。
涙で顔も腫れているに違いない。
こんな顔、誰にも見せたくない。
そう思って、
「ごめんなさい、今は一人でいたいの」
と声をかけると、
「申し訳ありません。ソフィアさま。少しお話がしたくて……」
と聞こえてきた声に、あの護衛騎士だと気づいた。
そうだ、彼にお礼を言ってなかった。
彼がいたから、リアムと話ができたんだ。
私はすっかり力の抜けた足に必死に力を入れて立ち上がり、扉へと向かった。
扉を開けるとやはりあの護衛騎士がいた。
「ソフィアさま、大丈夫ですか?」
「ええ。心配してくれてありがとう。それにあの時、あなたがそばにいてくれたからリアムに言いたいことが言えたわ。怯まずに話せたのもあなたのおかげよ。ありがとう。でも、少しだけそっとしておいて」
「申し訳ありません。ソフィアさま……ほんの少しだけよろしいですか?」
そういうと、彼はへやの中に入り、入口に座り込んだ。
「どうしたの?」
「このような時に付け入るようで申し訳ないとは思いますが、ずっとソフィアさまをお慕いしておりました。あなたが心に受けた傷は私が癒して見せます。どうか、私の妻になっていただけませんか?」
「えっ? そんな……急に」
「急ではございません。ずっとあなたに思いを寄せておりました。あなたが真摯に仕事に向き合う姿も、平民たちに寄り添う姿も、そして美しい笑顔も、全て私の心を掴んで離さないのです。必ず幸せにします。絶対にあなたを泣かせるようなことはしません。ですから、私の妻になっていただけませんか?」
こんなにも私を思ってくれる人がいるとは思っても見なかった。
それにリアムの仕打ちに傷ついた心を彼の優しい言葉が癒してくれる。
そこまで望んでくれるなら私もはいと言いたい。
けれど、私は一人娘。
「あなたは騎士をやめて侯爵家に入る覚悟があるのですか?」
「はい。ソフィアさまがそれをお望みなら、騎士団など辞めて見せます」
彼の胸についているたくさんの勲章を見れば、彼が騎士団でどれほどの力を持っているのかがわかる。
でもその実績も全て投げ打って侯爵家に入ってくれるというならば、もう断る理由もない。
「……泣かせないでくださいね」
そう一言告げると、彼は満面の笑みで立ち上がり私を抱きしめた。
「きゃっ」
「ああ、驚かせてすみません。ですが、絶対に幸せにします」
あまりの力強さに驚いて声を上げてしまったけれど彼の温もりが心地よくて、私たちはしばらくの間抱きしめあっていた。
「えっ? 第4王子? あなたが?」
「はい。実はそうなんです。ですが王位継承順位も低いですから婿に行っても構わないのですよ。現に騎士として働いていますし」
護衛騎士をしてくれていたのがまさか、第4王子のオリバーさまだとは思っても見なかった。
お父さまにはオリバーさまとの結婚を決めたと報告すると流石に驚いていたけれど、私の傷が癒えるのならと賛成してくれた。
私は心から愛を与えてくれるオリバーさまと幸せを掴んだのだ。
あんなリアムと結婚せずに済んで本当によかった。
最悪なサプライズをしてしまったと思ったけれど、私にとっては良いサプライズになったみたい。
そうそう、リアムとゾーイはその後、貴族籍から揃って離籍され平民となり、私への慰謝料を払うために必死に働いているらしい。
あまりにも高額で死ぬまで払えないかもしれないけれど、頑張って働き続けてもらいましょうか。
愛し合ってる二人ならきっとこの試練にも耐えられるでしょう。
「わっ! なんだ!」
「なんだとは私が聞きたいですね。リアム、これは一体どういうことですか?」
「えっ――! そ、ソフィア……なんでここに? まだ帰ってくる日じゃ……」
「お父さまの仕事が早く終わったのでリアムに会いにきたのですが、お邪魔だったようですね」
「いや、これは違うんだっ! 誤解なんだっ!」
「何が誤解ですか? そこの裸の女性、ああ……誰かと思えばヴェセリー男爵令嬢のゾーイさんでは? あなた、リアムに私という婚約者がいるのはご存知でしょう?」
必死に布団で身を隠しながらぶるぶると震える彼女の姿にもう笑いしか出てこない。
「リアム、今回の婚約は無かったことにいたしましょう。婚約破棄の慰謝料は後で請求いたしますので楽しみにしていらして。もちろんゾーイさんにも慰謝料を請求させていただきますわ」
「そ、そんな……ソフィア! 考え直してくれ! たった一度の過ちじゃないかっ! 私が本当に愛しているのはソフィアだけなんだ! 今回はただ、君がいないのが寂しくてつい……。だから許してくれ!! 頼むっ!!」
「リアム……私がリアムを一人にさせてしまったから寂しい思いをさせてしまったのですね」
「ソフィア、わかってくれるのか! そうなんだ、寂しかったんだ。だから婚約解消だなんて――」
「なんて、わかるわけないでしょう! 私を馬鹿にするのもいい加減にしてくださらない? 今回の件はお父さまにもしっかりと伝えて、シュルーダー伯爵にもお知らせしますのでどうぞお楽しみに」
「ソフィア……そんな……」
私は裸のままガックリと項垂れるリアムをその場に放置して踵を返した。
ああ、あんな男を信用して婚約したのが間違いだったのだわ。
「ソフィアさま。申し訳ございません」
玄関に土下座して床に額を擦り付け、謝るヨハンに
「あなたが悪いのではないわ。でも、リアムとはもう終わりよ」
と告げ、屋敷を出た。
シュルーダー家の馬車を借りる気にもなれず歩いて帰ろうとしたけれど、護衛騎士の馬に乗せられ私は家へと戻った。
あまりにも早く帰ってきた私を見て驚くお父さまに、事の顛末を説明すると顔を真っ赤にして怒り狂った。
「ソフィア、お前にそんな辛い思いをさせて申し訳なかった。リアムのことも、そしてゾーイのことも全て私に任せてくれ」
「お父さま……ありがとうございます」
私は部屋に戻ると、張り詰めていたものが切れたのか涙が止まらなくなっていた。
最初からリアムとは合わない気がしていた。
リアムの言葉に惑わされて、自分の直感を信じなかった私が悪いのだわ。
私は本当に大馬鹿者よ。
何もする気にもなれず、ぼーっとソファーに座っているとトントントンと扉を叩く音が聞こえた。
涙で顔も腫れているに違いない。
こんな顔、誰にも見せたくない。
そう思って、
「ごめんなさい、今は一人でいたいの」
と声をかけると、
「申し訳ありません。ソフィアさま。少しお話がしたくて……」
と聞こえてきた声に、あの護衛騎士だと気づいた。
そうだ、彼にお礼を言ってなかった。
彼がいたから、リアムと話ができたんだ。
私はすっかり力の抜けた足に必死に力を入れて立ち上がり、扉へと向かった。
扉を開けるとやはりあの護衛騎士がいた。
「ソフィアさま、大丈夫ですか?」
「ええ。心配してくれてありがとう。それにあの時、あなたがそばにいてくれたからリアムに言いたいことが言えたわ。怯まずに話せたのもあなたのおかげよ。ありがとう。でも、少しだけそっとしておいて」
「申し訳ありません。ソフィアさま……ほんの少しだけよろしいですか?」
そういうと、彼はへやの中に入り、入口に座り込んだ。
「どうしたの?」
「このような時に付け入るようで申し訳ないとは思いますが、ずっとソフィアさまをお慕いしておりました。あなたが心に受けた傷は私が癒して見せます。どうか、私の妻になっていただけませんか?」
「えっ? そんな……急に」
「急ではございません。ずっとあなたに思いを寄せておりました。あなたが真摯に仕事に向き合う姿も、平民たちに寄り添う姿も、そして美しい笑顔も、全て私の心を掴んで離さないのです。必ず幸せにします。絶対にあなたを泣かせるようなことはしません。ですから、私の妻になっていただけませんか?」
こんなにも私を思ってくれる人がいるとは思っても見なかった。
それにリアムの仕打ちに傷ついた心を彼の優しい言葉が癒してくれる。
そこまで望んでくれるなら私もはいと言いたい。
けれど、私は一人娘。
「あなたは騎士をやめて侯爵家に入る覚悟があるのですか?」
「はい。ソフィアさまがそれをお望みなら、騎士団など辞めて見せます」
彼の胸についているたくさんの勲章を見れば、彼が騎士団でどれほどの力を持っているのかがわかる。
でもその実績も全て投げ打って侯爵家に入ってくれるというならば、もう断る理由もない。
「……泣かせないでくださいね」
そう一言告げると、彼は満面の笑みで立ち上がり私を抱きしめた。
「きゃっ」
「ああ、驚かせてすみません。ですが、絶対に幸せにします」
あまりの力強さに驚いて声を上げてしまったけれど彼の温もりが心地よくて、私たちはしばらくの間抱きしめあっていた。
「えっ? 第4王子? あなたが?」
「はい。実はそうなんです。ですが王位継承順位も低いですから婿に行っても構わないのですよ。現に騎士として働いていますし」
護衛騎士をしてくれていたのがまさか、第4王子のオリバーさまだとは思っても見なかった。
お父さまにはオリバーさまとの結婚を決めたと報告すると流石に驚いていたけれど、私の傷が癒えるのならと賛成してくれた。
私は心から愛を与えてくれるオリバーさまと幸せを掴んだのだ。
あんなリアムと結婚せずに済んで本当によかった。
最悪なサプライズをしてしまったと思ったけれど、私にとっては良いサプライズになったみたい。
そうそう、リアムとゾーイはその後、貴族籍から揃って離籍され平民となり、私への慰謝料を払うために必死に働いているらしい。
あまりにも高額で死ぬまで払えないかもしれないけれど、頑張って働き続けてもらいましょうか。
愛し合ってる二人ならきっとこの試練にも耐えられるでしょう。
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