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銀の斧
しおりを挟むぐらりと世界が歪んで、どさりと受け止めて地面に共に投げ出される。
俺はちゃんとリロイを受け止めて、更に強く抱きしめる様にして顔を寄せる。目は閉じているが息はある。温かい。もう一度、今度は胸に顔を埋める様に抱きしめる。
「よかった」
歪みは元に戻った……?
閉ざされた空間の中でなく外の澄んだ空気の中に居る。凍えるほどではないが寒い。
……転移してしまったらしい。
夜空に鏡の様にぴかぴかに光る月がある。
その月を背景において大きな木がある。二つ寄り添ってぴったりくっ付いている。「お見事」
「何で居るんだよ」
振り返るとジョバンニ=カスティーリャが居る。
「君が連れて来てくれたんじゃないか。放っていかれるかとも思ったけれど」
ですよね~。
見るとそこここに人が倒れている。宝物庫に居た殆どの人間が見て取れた。ていうか多分全員。怪我してるのに転移は負担にならないのだろうか?
それより俺たちだけで良いじゃないか。何故全員連れて来る、俺?
そもそも何故敵の思惑通りに転移してしまう、俺?
それに変だ。全然疲れていない。魔力を使った時に起こる疲労感がない。
「いやいや、異世界人の魔力は半端ないと聞いてたが本当だね」
その時ジョバンニの傍の何やら黒い塊が、
「うぅ……」
と、呻いて身動ぎした。
ライトとヒヨリだ。抱き合って倒れている。少し向こうにキールも居る。こちらは月の光に銀の髪を輝かせて動かない。頭が沸騰しそうになるのを堪えて、一人立っているジョバンニを見据える。彼は何かを杖に少し斜めに傾いで立っている。
「ああ、これかい?」
俺の視線に気付いて支えていたそれを身体の前に持ち直した。
「斧?」
「銀の斧だよ、特注したんだ」
どうやって銀の斧なんて用意できたんだというのも気になるが。
女神の泉だからだろうか、童話か。多分違うな?
「色んなストーリー混ぜこぜにして台無しになんない?」
みたいな方が気になる。
「これで伐ろうかと思ってね」
俺の言う事聞いちゃいねぇ。
「何を?」
答えは予測ついたが取り敢えず聞いてみる。
「安心して、人じゃないよ」
「だろうね」
スプラッタにならなくて良かった、とはならないだろうな。
「そこの木蓮の枝を頂こうかと」
やっぱりか~。
「ご利益なくならないか、傷付けたら。それに枝なんて斧なんか使わなくても手でも折れるだろ」
例えそれが人ではなくても、神聖な木であれば伐るのは非常に拙いんじゃないか? 神聖でなくても拙い気がする。
「蓬莱の玉の枝も簪になってたじゃないか」
「あれが玉の枝か分からないし、多分絶対拙いだろ、それ」
ご利益を望めるどころか。
「呪いにでもかかりそうだ。
なんかそれ、色々混じってて色々間違ってんだろ」
同じ事を繰り返すが、やはり彼は聞いてはくれない。虚しいがそれでも繰り返さずにいられない。
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