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第十八話 色は案外の外
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葵は揚戸与と木蘭の話に聞き入っていて、ゴンと雨夜が眠ってしまっていたことも、雷雨が止んでいたことにも気づかなかった。
「その後、揚戸与さんと木蘭さんは一緒に店をやることにしたの?」
「そうや。俺は木蘭に初めて会った日、その足で木蘭の店に行くことにしたんや。店の旦那さんにも女将さんに別れも告げんと離れるのは辛いゆう思いはあったけど、店に帰ったら絶対に引き留められるん分かっとったし、会った方が辛くなる思て帰らんかった。ほんでそこから京の都にある木蘭の店に行ったわけやけど、これがまた仰天するようなでかい店でなあ。今でもあの衝撃は忘れられんわ」
揚戸与は遠くを見るような目で言った。
「揚戸与さんと木蘭さんの出会いってさ、運命の出会いって感じだよね。それで二人は一緒に店を切り盛りしていくうちに魅かれ合うようになって結婚するってことだよね。なんか憧れちゃうな、そういうの」
「いやいや、人間やったころ私らは夫婦やなかったんよ。私は京やその周りでは名の知れた大店の店主やったし、私と祝言挙げた男の噂なんかすぐに広まってしまうやろ。揚は奉公先から失踪してるわけやから、そうそう表に出られる立場やないし結婚なんかできひん」
「え!そうだったの。そんなの私だったら悲しすぎて耐えられない」
「けどまあ今はこうして狐になったから、そういうしがらみから解放されて一緒になれたいうことや」
「そっかじゃあ二人にとっては狐になれて逆に良かったんだね。でもどうして二人は狐になっちゃったんだろ」
「さあ、それは分からん。妖怪になるやつも神なるやつも理由なんぞ分かってるやつはおらん。けど私らの場合、きっかけはあったんや。二人で尾張まで取引に行ったときに、宿の近くでちょうど秋の祭りをしてはったんや。今から考えたらあの祭りはこっちの世界のものやったんやろな。その時はそんなん知らんとその祭りで売ってた酒をのんだあと、気づいたら二人とも狐になってしもてた」
「酒のせいかは分からんけど、とにかくその祭りで二人とも狐になってしもたんは確かや。ほんでどないしよか困り果ててたら、たまたまその祭りに来てたガマ仙人が俺らをこっちの世界に連れてきてくれたんや」
ガマ仙人とは昨日葵が祭りに行く途中で会った大きなカエルを連れた仙人のことだ。あの爺さん、良い人だったんだなと葵は思った。
「河童ちゃんも瑞穂君に拾ってもろて良かったなあ。あっちの世界で、君みたいなんが一人でほっつき歩いてたら消されてしまうとこやったで。瑞穂君に感謝しときや」
葵は部屋の隅で寝転がっている瑞穂をちらりと見た。確かに瑞穂にここに連れてきてもらわなかったら河童になった自分は今頃どうしていただろう。葵は助けてもらったことに関して、これまで一度も瑞穂にお礼を言ったことがないことに気づいた。
「うん…そうだね。今度お礼してみるよ」
葵はボソッと呟いた。
「その後、揚戸与さんと木蘭さんは一緒に店をやることにしたの?」
「そうや。俺は木蘭に初めて会った日、その足で木蘭の店に行くことにしたんや。店の旦那さんにも女将さんに別れも告げんと離れるのは辛いゆう思いはあったけど、店に帰ったら絶対に引き留められるん分かっとったし、会った方が辛くなる思て帰らんかった。ほんでそこから京の都にある木蘭の店に行ったわけやけど、これがまた仰天するようなでかい店でなあ。今でもあの衝撃は忘れられんわ」
揚戸与は遠くを見るような目で言った。
「揚戸与さんと木蘭さんの出会いってさ、運命の出会いって感じだよね。それで二人は一緒に店を切り盛りしていくうちに魅かれ合うようになって結婚するってことだよね。なんか憧れちゃうな、そういうの」
「いやいや、人間やったころ私らは夫婦やなかったんよ。私は京やその周りでは名の知れた大店の店主やったし、私と祝言挙げた男の噂なんかすぐに広まってしまうやろ。揚は奉公先から失踪してるわけやから、そうそう表に出られる立場やないし結婚なんかできひん」
「え!そうだったの。そんなの私だったら悲しすぎて耐えられない」
「けどまあ今はこうして狐になったから、そういうしがらみから解放されて一緒になれたいうことや」
「そっかじゃあ二人にとっては狐になれて逆に良かったんだね。でもどうして二人は狐になっちゃったんだろ」
「さあ、それは分からん。妖怪になるやつも神なるやつも理由なんぞ分かってるやつはおらん。けど私らの場合、きっかけはあったんや。二人で尾張まで取引に行ったときに、宿の近くでちょうど秋の祭りをしてはったんや。今から考えたらあの祭りはこっちの世界のものやったんやろな。その時はそんなん知らんとその祭りで売ってた酒をのんだあと、気づいたら二人とも狐になってしもてた」
「酒のせいかは分からんけど、とにかくその祭りで二人とも狐になってしもたんは確かや。ほんでどないしよか困り果ててたら、たまたまその祭りに来てたガマ仙人が俺らをこっちの世界に連れてきてくれたんや」
ガマ仙人とは昨日葵が祭りに行く途中で会った大きなカエルを連れた仙人のことだ。あの爺さん、良い人だったんだなと葵は思った。
「河童ちゃんも瑞穂君に拾ってもろて良かったなあ。あっちの世界で、君みたいなんが一人でほっつき歩いてたら消されてしまうとこやったで。瑞穂君に感謝しときや」
葵は部屋の隅で寝転がっている瑞穂をちらりと見た。確かに瑞穂にここに連れてきてもらわなかったら河童になった自分は今頃どうしていただろう。葵は助けてもらったことに関して、これまで一度も瑞穂にお礼を言ったことがないことに気づいた。
「うん…そうだね。今度お礼してみるよ」
葵はボソッと呟いた。
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