ー河童奇譚ーカッパになった私は神々と…

あきゅう

文字の大きさ
上 下
10 / 20

第十話 焼き餅は狐色

しおりを挟む
突然、真っ黒な浴衣を着た背の高い男が、葵とチンピラ猫の間に入ってきた。

「おいおい、それはないやろ。俺そこから見てたけど、あんた往来にしっぽ出しといてそんなん踏まれへん方が難しいやん。か弱い女の子やと思て、いちゃもん付けたらあかんで」

間に入ってきた男はチンピラ猫から葵を助けてくれた。
それにしても、背の高い人だなと葵は思った。180㎝はゆうに超えているだろう。葵の身長では、横に立たれると見上げなければ顔が見えない。そして、その男は年寄りというわけでもないのに、髪が真っ白だった。肩甲骨あたりまである髪はライオンの立髪のようだ。
その異様な出で立ちのせいか、葵はなぜか瑞穂やゴンには感じない威圧感を感じた。


「なんやお前やんのか!」チンピラ猫が吠えた。


白髪の男はニッコリ笑って、
「やってもええけど、丸焦げなっても恨まんといてや」
と言って青い火の玉をつくりだした。ゴンのよりもずいぶん火力が強そうだ。

猫はその火の玉を見るなり血相を変えて逃げて行った。
逃げ際に「くそ!なんであんなのがここにいるんや」と言うのが聞こえた。



「あの、ありがとうございました。助けていただいて」
葵は白髪の男にお礼を言った。


「全然ええよ、あれくらい。俺ああいうやつほんま嫌いやねん。けどまあタダっていうのもあれやしな。お姉さんが一晩遊んでくれたらチャラにしたげるわ」


(こ、これはナンパというやつなのだろうか!?)


葵は生れて初めてこんなに直球で誘われたものだから、びっくりして数秒間固まってしまった。



葵が固まっている間に、ゴンがこちらに駆けつけてきた。

「おい!葵何やってんだ!離れたら危ないだろ」


「あれま。ゴンちゃんの連れやったんか」


「え、揚戸与あげとよさん、こんなとこで何やってるんです?」



葵はゴンに先ほどの一部始終を説明した。

「あの猫か。最近ウワサはよく聞いてたんだよな。弱い妖怪見つけちゃケンカふっかけたり物盗ったりしてるらしい。葵はほんとに運がよかったな。揚戸与さんに助けてもらえるなんてさ」


「あのう、こちらの方は一体どなたなんでしょう」
ゴンが敬語になるなんて、かなり格上の神様なのだろうか。


「あぁ俺は揚戸与っていう狐や。君のことは思い出したわ、瑞穂君のとこに来た河童ちゃんやろ。ゴンと一緒やっていうのでぴんときたわ」


妖怪の世界というのは噂がすぐにまわるらしい。葵は自分が他の妖怪たちに一体どんな噂をされているのか気になった。


「そういや揚戸与さん。奥さんお元気ですか?」
ゴンが揚戸与に聞く。

「元気元気!もう、おっかないくらい元気やで。あのひとが元気なくなるんは商売が上手くいかんかったときくらいやしなあ」


「この前たくさん銀杏を頂いちゃって。ありがとうございましたって奥さんお伝えください」


「分かった言うとく!ほな俺そろそろ行くわ~瑞穂君によろしゅうな!また会いにいくって言うといて」


そう言ってひらひら手を振りながら、揚戸与は群衆の中に消えていった。




「もしかして今の揚戸与さんってすごい妖怪なの?」
今までに感じたことのない威圧感と、ゴンの対応から、葵はなんとなくそんな感じがした。

「とんでもない上位の妖怪だよ。そもそも狐は妖力が強いのに、その中でも別格だ。それでまたあのひとの奥さんがさらにすごい狐なんだ。瑞穂のことなんか『坊や』って呼ぶんだぜ」

「妖怪なのに神様を『坊や』?狐って神様の遣いなんじゃないの?」

「狐が皆んな神様に仕えてるわけじゃないさ。それにあのひとたちくらいになると、妖力だけで言ったら神様でも敵わないこともある。ま、瑞穂は若いから『坊や』って感じなんだろうな」

「そんなに強い妖怪なんだぁ。でも揚戸与さんてちょっとチャラそうだよね。私初めてナンパされちゃったよ。あんなことしてて奥さんに怒られないのかな」

「揚戸与さん女好きだからなあ。奥さんはすんごい恐いひとで揚戸与さんいつも尻に敷かれてるって言ってるんだけどさ、意外と女遊びには寛容らしい」

葵はあんなに強そうな揚戸与を尻に敷いている奥さんにぜひ一度会ってみたかった。



夜市からの帰り、ゴンはお土産に鯛焼きを買ってくれた。ゴンは小豆、葵の分は芋あん、そして瑞穂には桜あんの鯛焼きにした。
二人は鯛焼きが冷めないうちにと早足で屋敷に帰った。瑞穂にもらった匂い袋のおかげか道に迷うことなく真っすぐ屋敷に辿り着いた。



屋敷に着くと、知らない履き物が玄関の土間に置いてある。
二人は誰か来たのかと思いながら春の部屋の襖を開けると、



「やあ、お二人さんさっきぶり。遅かったやん」



と、ついさっき聞いた声が出迎えてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

みちのく銀山温泉

沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました! 2019年7月11日、書籍化されました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...