「神様はつらいよ」〜稲の神様に転生したら、世の中パン派ばかりでした。もう妖を癒すことにします〜

あきゅう

文字の大きさ
上 下
2 / 27

これが人の娘というものか…(前編)

しおりを挟む
「これが神様の家かぁ!」

 俺の家にやってきた楓はまるで遊園地にやってきた子どものようにはしゃいでいた。案内するまでもなく、炊事場から風呂場から勝手に見て回っている。

 実は、この家は神社の敷地内にあるわけではなく、天界に存在している。診療所の廊下の奥にある扉は直接天界に繋がっていて、その扉を通れば、「天界にある俺の家」と「下界にある診療所」を簡単に行き来できるのだ。

「え!神様の家にも炬燵こたつがある~!」

 楓が興味津々に家中を探索しているのを眺めていると、庭に干しっぱなしの洗濯物が目に入った。
 縁側のガラス戸を開け庭に降りると、雲一つない紺青の夜空には大きな満月が出ていて、洗濯物を取り込むくらいなら灯りは必要なかった。

「何か神様の家って、普通の田舎の古いおうちって感じなのね」

 洗濯物の乾き具合を確かめている俺に、楓が後ろから声をかけた。

「荘厳な城でも想像してたのか?まぁ現実というのはこんなもんだ」

 確かに人間の民家ともそう変わらないこの家は、神様の住まいとしては少々侘しく見えるかもしれなかった。だが俺は、この慎ましやかにひっそりと佇む我が家を気に入っているのだ。


 俺が洗濯物を取り込んで居間に上がると、楓は肩をすぼめながら火のない炬燵に入っていた。本来ならそろそろ炬燵に火を入れてもおかしくない季節なのだが、うちの家では暖房費節約のために、まだ炬燵の火入れはしていなかった。

 というのも炬燵の火には、それ専用の『炬燵石』というものが必要なのだ。『炬燵石』は保温が効くように妖術がかけられた石で、何度か石の表面を手でこすると数時間発熱し続けるという便利なものだ。ただ何度も使用できるわけではなく、その効果が得られるのは数回ほど。
 だから俺は寒くて耐えられなくなる限界ぎりぎりまで、その『炬燵石』は使わないことに決めていた。

「あのう、ところで私はどちらで寝させてもらったらいいかな?」

「そうか、お前の部屋がいるよな」

 住み込みということならば、この娘の部屋を用意してやらないといけない。といっても客間などというものはこの家には存在しないので、掃除道具やら使わなくなった物がしまってあった物置しかなかった。

「こ、ここが私の部屋?これって、部屋なの!?」

「しかたないだろ。いきなりやって来て、おあつらえ向きの部屋を与えてもらえるほど、世の中は甘くないんだ。嫌なら、俺は別にここに住んでくれなくても構わないぞ」

「うぅ。わかりました。ありがたくここで寝させて頂きます」

 楓は口をとんがらせて、渋々といった表情を作る。

「じゃあ、とりあえずその大量の荷物を置いたら、飯にしようか」

「夕ご飯?私が作るわ!一応、居候の身になるわけだし、できることはやる」

「おぉそうか。それじゃ頼もうか…?けどその前に。実はさっきからずっと思ってたんだが、君…なにか臭うもの持ってないか?その…言いにくいんだけど、なんか君臭うんだよな」

「あーっと、もしかしたら『くさや』の臭い…かな?最近一緒に寝てから」

「はい!?『くさや』と一緒に寝る?」

 俺の聞き間違いだろうか。この娘はあの匂う食べ物ランキング上位に入る『くさや』と一緒に寝ていると言ったのか?それとも『くさや』という名前の彼氏でもいるのだろうか。いや、そんなわけないだろう。

「就職活動がうまくいかなくて悩んでた時に占いに行ったのね。そしたら『くさや』を毎晩抱いて寝ると、あの独特の香りで邪気が祓われて運気が上がるって言われて。ここしばらく『くさや』と一緒に寝てたの。…その臭いかな?」

 俺は絶句した。うら若き乙女が『くさや』と添い寝しているだと!?誰だ『くさや』と寝たら運気があがるなんて言った占い師は。妖《あやかし》よりよっぽど狂っている。

「お、お前。よくその状態でバイトの面接に来たな…!」

「だって、どうしようもなかったんだもん。気づいたらガス止められててシャワーも浴びれなくてさ。たぶんカード使いすぎて銀行のお金なくなってたんだと思うんだけどね」

 こいつ確か面談した時、お金の計算はできるとか言ってなかったか?…会計は絶対に任せられないな。本当に雑用くらいしか使えないかもしれない。

「もう…何からツッコんだらいいのか分からないが…とりあえず飯は後回しだ。まず風呂に入ってこい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ー河童奇譚ーカッパになった私は神々と…

あきゅう
キャラ文芸
宮村葵。今日も会社への道のりを爆走中。途中、出会った猫に導かれ、とある神社に行くと、なぜか葵は河童になってしまっていた…。 その神社で出会った不思議な神様。つい見惚れてしまうしまうほど美しいのに、性格は高慢でイジワルな、いけ好かない神様だった! 河童になった葵はいったいこれからどうなってしまうのか!この神様はいったい葵を…!?

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

元虐げられ料理人は、帝都の大学食堂で謎を解く

あきゅう
キャラ文芸
 両親がおらず貧乏暮らしを余儀なくされている少女ココ。しかも弟妹はまだ幼く、ココは家計を支えるため、町の料理店で朝から晩まで必死に働いていた。  そんなある日、ココは、偶然町に来ていた医者に能力を見出され、その医者の紹介で帝都にある大学食堂で働くことになる。  大学では、一癖も二癖もある学生たちの悩みを解決し、食堂の収益を上げ、大学の一大イベント、ハロウィーンパーティでは一躍注目を集めることに。  そして気づけば、大学を揺るがす大きな事件に巻き込まれていたのだった。

あやかし猫の花嫁様

湊祥@書籍13冊発売中
キャラ文芸
アクセサリー作りが趣味の女子大生の茜(あかね)は、二十歳の誕生日にいきなり見知らぬ神秘的なイケメンに求婚される。 常盤(ときわ)と名乗る彼は、実は化け猫の総大将で、過去に婚約した茜が大人になったので迎えに来たのだという。 ――え⁉ 婚約って全く身に覚えがないんだけど! 無理! 全力で拒否する茜だったが、全く耳を貸さずに茜を愛でようとする常盤。 そして総大将の元へと頼りに来る化け猫たちの心の問題に、次々と巻き込まれていくことに。 あやかし×アクセサリー×猫 笑いあり涙あり恋愛ありの、ほっこりモフモフストーリー 第3回キャラ文芸大賞にエントリー中です!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...