きえいる君へ

yamadatarou

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暗闇の中

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「うわ」

 真っ暗だ・・・。それもそうだろう、屋上には辺りを照らすような明かりが無く、街の灯りは屋上の中央まで来るとまったく見えない・・・。街がある方向と逆の方角には山があり、深く夜の闇が見える。

「う・・・」

 さすがの一哉も、少し怖気づいてきた。この状況でコックリさんをやるには、勇気というより相当な破滅性が必要だろう。

「・・・・・・」

 一哉は少し考え、しかし大きく息を吸った、そして

「コックリさん!コックリさん!出てきてくださーい!!」

大きな声で一哉(バカ)は叫んだ。

『あ、そういえば・・・』

 右手にある、あいうえお・・・、と書かれた白い紙のことを思い出した一哉は、その紙をひろげようとした瞬間、強い風に煽られてしまい、白い紙はそのまま飛んでいってしまった。

「あ・・・・」

 それをただ呆然と見つめるしかない一哉。

『く・・・負けないぞ。』

 気を持ち直して、一哉はもう一度大きな声で叫んだ。

「コックリさん!コックリさん!出てきてください!」

 さきほどよりさらに風は強くなっており、一哉の声は思ったより響かない。木造の校舎が風に軋み、周りの木々も風に煽られ、なんだか今やってる一哉の行動をあざ笑うかのようだ。

「コックリさ・・・」

 言いかけて一哉は涙ぐんだ。今やっている事と周りの状況が与える恐怖が、一哉の中で臨界に達しようとしたとき、一哉はもう一度大きな声で叫んだ。

「峰原 雪子さん!峰原 雪子さん!出てきてください!!」

「何してるの?」

 風がやんだ・・・、今までの強い風が嘘のようだ・・・。一哉は後ろに感じる気配に対し、ゆっくりと振り向いた。

「あ・・・。」

 そこには、確かに彼女がいた。あの時の、その姿そのままに・・・。

「こんな遊び、しちゃダメだって言ったじゃない。」

 彼女は一哉を、軽く小突くような仕草をした。彼女の指が一哉に触れると、なんとも不思議な感じがした。物理的には小突かれてないのに、心では小突かれた感じがした。

「あ・・・」

 一哉は彼女に見とれてしまっていた。そして、思わず言ってしまったのだ。

「僕は・・・あなたが好きです!!」

 突然言われたその言葉に、彼女はしばらく目をパチクリさせていた。まさに目が点の状態だった。しかし次の瞬間、彼女は思わず吹き出した。

「あははははははは!!」

 と、笑い転げる彼女、それを呆然と見つめる一哉。

「あの・・・、俺、本気なんだけど・・・。」

 そう言われた彼女は、なんとか笑いをこらえ、

「あー、ご、ごめんなさい。」

 と言いながら涙目をぬぐった。
 少し、眉をひそめた一哉の姿を見て、彼女は手を振りながら、

「だって、あたしは幽霊なのよ、もう死んでるもの、あなたと付き合ってどうするのよ?」

 と、言った。

「どうする・・・て・・・・。」

 どうもこうも一哉は考えてなどいなかった。とにかく思いを告げたかったのだから・・・。

「それに私が生きてたら、あなたのお母さんぐらいの年齢なのよ?」

「そんな・・・」

 そう言われて、一哉はうったえるように言った。

「雪子さんは・・・・すごく綺麗です。」

 綺麗という言葉に、彼女は切なく反応した。

「きれい・・・・、あたしにはもったいない言葉、ね・・・・。」

「そんな・・・。」

「それに・・・ね」

 彼女は一哉に近づき、

「こうして・・・。」

 言いながら彼女は一哉にそっと手を添えた。

「触れることもできないのよ?」

「でも、あなたを感じることはできます。」

 その言葉を聞いて、さらに雪子は切ない顔となった。

「もう、お帰りなさい・・・、こうしてるだけで、あなたにとっては負担になるのだから・・・。」

そう言って、雪子はフワリと宙に浮いた。

「待っ・・・」

 再び吹き始めた風が、一哉の声をかき消した。そのまま遠ざかり消えてしまう雪子を、ただ悲しい顔で見つめる一哉。周りには彼をあざ笑うかのような、ギシギシと校舎が軋む音と、木々のざわめき、そして深い深い闇が広がっていた・・・・。

『だるい・・・・』

 帰り道一哉は、そうつぶやきながら歩いていた。あまりの体のだるさに、近所の家の塀に体を預け、少し体を引きずるようにしていた。

『あと少しだ・・・。』

 すっかり更けた夜に、犬の遠吠えがあたりに響いていた。

「ただいま。」

 かろうじて家に着いた一哉を迎えた母が、まくし立てるように聞いてきた。

「あんた、こんな時間までどこ行ってたのよ!?」

 一哉はだるいながらも答えた。

「ん?んー、が、学校だよ。」

「学校?!」

 予期せぬ答えが返ってきて、一哉の母はすっ頓狂な声を出した。

「学校に何しに行ったのよ?」

「何しにって、べ、勉強だよ!」

「勉強・・・」

 そう聞いて、母から一哉を責める感じが消えていった。

「そう、まぁ、勉強熱心なのはいいけどあんまり遅くなっちゃ駄目よ!」

「うん、分かったよ・・、もう疲れてるんだ、寝ていいかな?」

「そうなの・・・分かったわ、おやすみなさい。」

「おやすみ。」

 だるい体を引きずりながら一哉は、なんとか自分の部屋のベッドまで行き着いた。

「ふー・・・」

 そのままベッドに倒れこみ、一哉は泥のように深い眠りについた。
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