5 / 11
暗闇の中
しおりを挟む
「うわ」
真っ暗だ・・・。それもそうだろう、屋上には辺りを照らすような明かりが無く、街の灯りは屋上の中央まで来るとまったく見えない・・・。街がある方向と逆の方角には山があり、深く夜の闇が見える。
「う・・・」
さすがの一哉も、少し怖気づいてきた。この状況でコックリさんをやるには、勇気というより相当な破滅性が必要だろう。
「・・・・・・」
一哉は少し考え、しかし大きく息を吸った、そして
「コックリさん!コックリさん!出てきてくださーい!!」
大きな声で一哉(バカ)は叫んだ。
『あ、そういえば・・・』
右手にある、あいうえお・・・、と書かれた白い紙のことを思い出した一哉は、その紙をひろげようとした瞬間、強い風に煽られてしまい、白い紙はそのまま飛んでいってしまった。
「あ・・・・」
それをただ呆然と見つめるしかない一哉。
『く・・・負けないぞ。』
気を持ち直して、一哉はもう一度大きな声で叫んだ。
「コックリさん!コックリさん!出てきてください!」
さきほどよりさらに風は強くなっており、一哉の声は思ったより響かない。木造の校舎が風に軋み、周りの木々も風に煽られ、なんだか今やってる一哉の行動をあざ笑うかのようだ。
「コックリさ・・・」
言いかけて一哉は涙ぐんだ。今やっている事と周りの状況が与える恐怖が、一哉の中で臨界に達しようとしたとき、一哉はもう一度大きな声で叫んだ。
「峰原 雪子さん!峰原 雪子さん!出てきてください!!」
「何してるの?」
風がやんだ・・・、今までの強い風が嘘のようだ・・・。一哉は後ろに感じる気配に対し、ゆっくりと振り向いた。
「あ・・・。」
そこには、確かに彼女がいた。あの時の、その姿そのままに・・・。
「こんな遊び、しちゃダメだって言ったじゃない。」
彼女は一哉を、軽く小突くような仕草をした。彼女の指が一哉に触れると、なんとも不思議な感じがした。物理的には小突かれてないのに、心では小突かれた感じがした。
「あ・・・」
一哉は彼女に見とれてしまっていた。そして、思わず言ってしまったのだ。
「僕は・・・あなたが好きです!!」
突然言われたその言葉に、彼女はしばらく目をパチクリさせていた。まさに目が点の状態だった。しかし次の瞬間、彼女は思わず吹き出した。
「あははははははは!!」
と、笑い転げる彼女、それを呆然と見つめる一哉。
「あの・・・、俺、本気なんだけど・・・。」
そう言われた彼女は、なんとか笑いをこらえ、
「あー、ご、ごめんなさい。」
と言いながら涙目をぬぐった。
少し、眉をひそめた一哉の姿を見て、彼女は手を振りながら、
「だって、あたしは幽霊なのよ、もう死んでるもの、あなたと付き合ってどうするのよ?」
と、言った。
「どうする・・・て・・・・。」
どうもこうも一哉は考えてなどいなかった。とにかく思いを告げたかったのだから・・・。
「それに私が生きてたら、あなたのお母さんぐらいの年齢なのよ?」
「そんな・・・」
そう言われて、一哉はうったえるように言った。
「雪子さんは・・・・すごく綺麗です。」
綺麗という言葉に、彼女は切なく反応した。
「きれい・・・・、あたしにはもったいない言葉、ね・・・・。」
「そんな・・・。」
「それに・・・ね」
彼女は一哉に近づき、
「こうして・・・。」
言いながら彼女は一哉にそっと手を添えた。
「触れることもできないのよ?」
「でも、あなたを感じることはできます。」
その言葉を聞いて、さらに雪子は切ない顔となった。
「もう、お帰りなさい・・・、こうしてるだけで、あなたにとっては負担になるのだから・・・。」
そう言って、雪子はフワリと宙に浮いた。
「待っ・・・」
再び吹き始めた風が、一哉の声をかき消した。そのまま遠ざかり消えてしまう雪子を、ただ悲しい顔で見つめる一哉。周りには彼をあざ笑うかのような、ギシギシと校舎が軋む音と、木々のざわめき、そして深い深い闇が広がっていた・・・・。
『だるい・・・・』
帰り道一哉は、そうつぶやきながら歩いていた。あまりの体のだるさに、近所の家の塀に体を預け、少し体を引きずるようにしていた。
『あと少しだ・・・。』
すっかり更けた夜に、犬の遠吠えがあたりに響いていた。
「ただいま。」
かろうじて家に着いた一哉を迎えた母が、まくし立てるように聞いてきた。
「あんた、こんな時間までどこ行ってたのよ!?」
一哉はだるいながらも答えた。
「ん?んー、が、学校だよ。」
「学校?!」
予期せぬ答えが返ってきて、一哉の母はすっ頓狂な声を出した。
「学校に何しに行ったのよ?」
「何しにって、べ、勉強だよ!」
「勉強・・・」
そう聞いて、母から一哉を責める感じが消えていった。
「そう、まぁ、勉強熱心なのはいいけどあんまり遅くなっちゃ駄目よ!」
「うん、分かったよ・・、もう疲れてるんだ、寝ていいかな?」
「そうなの・・・分かったわ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
だるい体を引きずりながら一哉は、なんとか自分の部屋のベッドまで行き着いた。
「ふー・・・」
そのままベッドに倒れこみ、一哉は泥のように深い眠りについた。
真っ暗だ・・・。それもそうだろう、屋上には辺りを照らすような明かりが無く、街の灯りは屋上の中央まで来るとまったく見えない・・・。街がある方向と逆の方角には山があり、深く夜の闇が見える。
「う・・・」
さすがの一哉も、少し怖気づいてきた。この状況でコックリさんをやるには、勇気というより相当な破滅性が必要だろう。
「・・・・・・」
一哉は少し考え、しかし大きく息を吸った、そして
「コックリさん!コックリさん!出てきてくださーい!!」
大きな声で一哉(バカ)は叫んだ。
『あ、そういえば・・・』
右手にある、あいうえお・・・、と書かれた白い紙のことを思い出した一哉は、その紙をひろげようとした瞬間、強い風に煽られてしまい、白い紙はそのまま飛んでいってしまった。
「あ・・・・」
それをただ呆然と見つめるしかない一哉。
『く・・・負けないぞ。』
気を持ち直して、一哉はもう一度大きな声で叫んだ。
「コックリさん!コックリさん!出てきてください!」
さきほどよりさらに風は強くなっており、一哉の声は思ったより響かない。木造の校舎が風に軋み、周りの木々も風に煽られ、なんだか今やってる一哉の行動をあざ笑うかのようだ。
「コックリさ・・・」
言いかけて一哉は涙ぐんだ。今やっている事と周りの状況が与える恐怖が、一哉の中で臨界に達しようとしたとき、一哉はもう一度大きな声で叫んだ。
「峰原 雪子さん!峰原 雪子さん!出てきてください!!」
「何してるの?」
風がやんだ・・・、今までの強い風が嘘のようだ・・・。一哉は後ろに感じる気配に対し、ゆっくりと振り向いた。
「あ・・・。」
そこには、確かに彼女がいた。あの時の、その姿そのままに・・・。
「こんな遊び、しちゃダメだって言ったじゃない。」
彼女は一哉を、軽く小突くような仕草をした。彼女の指が一哉に触れると、なんとも不思議な感じがした。物理的には小突かれてないのに、心では小突かれた感じがした。
「あ・・・」
一哉は彼女に見とれてしまっていた。そして、思わず言ってしまったのだ。
「僕は・・・あなたが好きです!!」
突然言われたその言葉に、彼女はしばらく目をパチクリさせていた。まさに目が点の状態だった。しかし次の瞬間、彼女は思わず吹き出した。
「あははははははは!!」
と、笑い転げる彼女、それを呆然と見つめる一哉。
「あの・・・、俺、本気なんだけど・・・。」
そう言われた彼女は、なんとか笑いをこらえ、
「あー、ご、ごめんなさい。」
と言いながら涙目をぬぐった。
少し、眉をひそめた一哉の姿を見て、彼女は手を振りながら、
「だって、あたしは幽霊なのよ、もう死んでるもの、あなたと付き合ってどうするのよ?」
と、言った。
「どうする・・・て・・・・。」
どうもこうも一哉は考えてなどいなかった。とにかく思いを告げたかったのだから・・・。
「それに私が生きてたら、あなたのお母さんぐらいの年齢なのよ?」
「そんな・・・」
そう言われて、一哉はうったえるように言った。
「雪子さんは・・・・すごく綺麗です。」
綺麗という言葉に、彼女は切なく反応した。
「きれい・・・・、あたしにはもったいない言葉、ね・・・・。」
「そんな・・・。」
「それに・・・ね」
彼女は一哉に近づき、
「こうして・・・。」
言いながら彼女は一哉にそっと手を添えた。
「触れることもできないのよ?」
「でも、あなたを感じることはできます。」
その言葉を聞いて、さらに雪子は切ない顔となった。
「もう、お帰りなさい・・・、こうしてるだけで、あなたにとっては負担になるのだから・・・。」
そう言って、雪子はフワリと宙に浮いた。
「待っ・・・」
再び吹き始めた風が、一哉の声をかき消した。そのまま遠ざかり消えてしまう雪子を、ただ悲しい顔で見つめる一哉。周りには彼をあざ笑うかのような、ギシギシと校舎が軋む音と、木々のざわめき、そして深い深い闇が広がっていた・・・・。
『だるい・・・・』
帰り道一哉は、そうつぶやきながら歩いていた。あまりの体のだるさに、近所の家の塀に体を預け、少し体を引きずるようにしていた。
『あと少しだ・・・。』
すっかり更けた夜に、犬の遠吠えがあたりに響いていた。
「ただいま。」
かろうじて家に着いた一哉を迎えた母が、まくし立てるように聞いてきた。
「あんた、こんな時間までどこ行ってたのよ!?」
一哉はだるいながらも答えた。
「ん?んー、が、学校だよ。」
「学校?!」
予期せぬ答えが返ってきて、一哉の母はすっ頓狂な声を出した。
「学校に何しに行ったのよ?」
「何しにって、べ、勉強だよ!」
「勉強・・・」
そう聞いて、母から一哉を責める感じが消えていった。
「そう、まぁ、勉強熱心なのはいいけどあんまり遅くなっちゃ駄目よ!」
「うん、分かったよ・・、もう疲れてるんだ、寝ていいかな?」
「そうなの・・・分かったわ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
だるい体を引きずりながら一哉は、なんとか自分の部屋のベッドまで行き着いた。
「ふー・・・」
そのままベッドに倒れこみ、一哉は泥のように深い眠りについた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる