前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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第11章

163 終結3

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「カリム、外で捕えた男と護衛兵を頼む。マルコはワゴンの中に閉じ込められている者たちの保護、チャールズは指輪を使って公爵閣下へ現状報告と…ここにある遺体の確認だ。私が騎士団に指示を仰いで知らせる、各自通信用の魔導具を持て」

「「「はい!」」」


ゴードンの一声で、表情を引き締めた従者たちが散っていく。
その様子を一瞥したゴードンは、荷馬車の荷台に上ってアシュリーの前に跪いた。


「殿下、遅くなって申し訳ありません」

「大丈夫だ。騎士団と連携したのだから、寧ろ早いくらいだろう。皆よく動いてくれた。ゴードン、悪いがこのまま後処理を任せる。レティシアたちを、休める場所まですぐに運んでやりたい」

「では、正門前の魔法陣へ向かいましょう。イーサン様が殿下を待っておられるはずです」


ゴードンはコートを脱いでルークの肩に掛けた後、床に座り込むアシュリーが大事に抱えているレティシアを預かろうと…両手を差し出す。


「レティシアは、私が抱いて行く」

「分かりました。…ルーク、ぼんやりするな…お前も行くぞ」

「はい。…ゴードン、すみません」

「困った奴め、チャールズたちには謝っておけよ。…無事で何よりだ」




──────────




鼻先がこそばゆい。

レティシアは、モゾモゾと身をよじって鼻の前の物体を無意識に手で押しやった。


『…わっ!…アリス?!』

「…………」

『ねぇ、ねぇ…アリス?起きたの?…起きてよ』

「…ふぁ…ん…」

『アリス?…ア…あっ…オイ、何をする!』


聖女宮の治療室で、レティシアが眠る枕元にピッタリくっついて陣取っていたのは獣化したクオン。
鳴き声を上げてレティシアに擦り寄り、顔に肉球を押しつけているのを見るに見かねて…アシュリーがヒョイと抱え上げる。


「クオン様、少しの間離れていてください」

『このぉ、放せ!…大公っ…は・な・せ!』

「自然と魔法が解けるまで、しばらくお待ちください」

『分かった!待つよ、待つってば!……言葉が通じなーい!!』


威嚇しながら足をバタつかせるクオンをアシュリーが宥めていると、レティシアがゆっくりと瑠璃色の瞳を開く。


「………朝…?」

「レティシア、目覚めてよかった」

『アリス!すっごく心配したんだぞ!』

「…殿下、クオン様?…あれ…もしかして、聖女宮…?」

「あぁ、そうだ」


アシュリーは尻尾を振り回すクオンをベッドの上にそっと下ろし、ほんのり赤みを帯びたレティシアの頬に触れる…前に、毛を逆立てたクオンの前足によって手をピシャリと叩き落とされた。


「『…………』」

「…え…と…私、結構寝ていました?」

「私が魔法をかけたんだ。昨夜から眠っていて、もうすぐ昼になる。レティシア…怖い思いは二度とさせないと誓ったのに、君を危険な目に遭わせてしまった。守れなくて…本当にすまない」

「…殿下…」


レティシアは、最後に目にした血みどろの光景を思い出す。頭にこびりついて、忘れたくても拭えない残像が残っていた。


(…そうよ…目の前で…人が死んだんだわ…)


身体を起こそうとするレティシアの背中を、アシュリーが素早く支える。途端にクオンが胸に飛びついて、声高く鳴いた。


「…っ…クオン様…?!」


獣化した神獣の清らかな声には、不思議な力が宿っている。
クオンを抱き留めたレティシアは、纏わりつく強烈で鮮明な記憶が…徐々に色褪せて霞んでいくのを感じた。


『アリス、大丈夫?』

「……はい…」

「気分は?少し顔が赤いか…熱があるのかも…」

「すいません、皆さんにご心配をおかけしてしまいました」

『アリスは母上の妹なんだから、やっぱりここにいるべきだ。僕の世話係になって、僕の宮殿に住もう。絶対安全だから!』

「ええぇ…?」

『大公を庇護者に指名した母上だって、今ごろ後悔しているかもしれないよ。アリスが攫われた時…母上も僕も慌てちゃって大変だったんだ…』

「…ごめんなさい…」


白く柔らかな毛並みに沿って優しく撫でていた手を止め、青いビー玉のような潤んだ瞳でレティシアを見上げるクオンを…ギュッと抱き締めた。


『悪いのはアリスじゃない。…大公でもない…誘拐犯だって分かってる…けど、また悪いヤツが来たら嫌だから…』

「クオン様、今後は決して油断しないとお約束します。それに、私の護衛…とても強いんですよ」


(ロザリーはどうしているかしら?…ルークとは、あれから話せていないし)


「…殿下、ロザリーとルークは…」

「ロザリーは昨夜遅くに目覚めた。意識ははっきりしていて、身体にも異常はないそうだ。二人は別室で休ませている」

「何の問題もなくて…よかった」

「荷馬車にあったパラフィルという赤い花は、濃い香りに麻薬のような成分が含まれる…使い方によっては薬にも毒にもなる植物だ。黄色のアキュラスの花は香りが弱く、眠りを誘う作用がある。人によって効き目に差はあっても、毒性はない」

「そうだったんですね」

「…アリス様、失礼をいたします」

「エメリアさん」

「お目覚めになられて…ようございました。聖女様に、急ぎお伝えしてまいります」



    ♢



「あなたの無事を知るまで…気が狂いそうだったわ!」


今まで見たことのないスピードでレティシアに勢いよく抱きつくサオリは、泣き腫らした目をしていた。

レティシアとサオリの胸に、ギッチリと挟まれてしまったクオン。
やっとの思いで這い出し…ベッドから転がり落ちたところを、アシュリーに拾い上げられ治療室を出る。 


「今は、お二人だけのほうがいいでしょう」

『…うん…』

「クオン様の世話係が…ここにはいないようですね」

『…大公さ…僕が床に落ちる前に受け止められたよね?』

「また、お一人で抜け出して来られたのではありませんか?」

『そっか…わざとだ、そうだろう?!』

「私が、宮殿までお送りいたします。…っ…クオン様、尻尾が……結んでしまおうかな…」

『…?!!!…』




──────────




「レティシアは私の大切な妹、同じ異世界人で日本人の仲間…こんな辛い思いはもう嫌よ。
心配して泣いて、無事だと聞いて泣いて…私を慰めようとするサハラがオロオロする姿に驚いたって、エメリアが言っていたわ」

「…も…申し訳ありませんでした。でも、サオリさんにいただいた指輪が、私とロザリーを助けてくれたんです。ありがとうございます…って…指輪がない?!」 


右手に嵌めていたはずの大事な指輪がなくなっているのに気がついたレティシアは、サッと顔色を変える。


「レティシアの指輪はね、大公と契約した金の指輪が壊れた時…一緒に使い物にならなくなってしまったから外したの」

「…え…そんな…貴重なアーティファクトが…」

「あなたたちを救ったんだから、銀の指輪も役目を果たせて本望だったはずよ。指が淋しいのなら…そうね、大公に婚約指輪でも買って貰うといいんじゃない?」

「こっ…」


カァッと頬を真っ赤に染めるレティシアを見るサオリは、いつもの穏やかな微笑みを浮かべていた。



    ♢



「事件の後、どうなっているのか…サオリさんは何かご存知でしょうか?」

「レイヴンが、主犯の男を捕えたそうよ。怪しい術師だったみたいね。真相はまだこれから…」


(術師…あの“キュルス”という男が、真犯人に違いないわ)


「…サオリさん、私…ザックさんは、その男に魔術で操られていたんじゃないかと思うんです…」


不意に、サオリが目線を外したように思えて…レティシアは、今ここでザックの話を出すべきではなかったと少し後悔をする。


「ザックは…犯人ではないわ。彼は無実よ。レティシアを攫ったのは、ザックに化けた男だったのだから」

「…あっ…」


(そうか…ザックさんではなかった…魔法を使って、そっくりに姿を変えた別人だったのね!)


「…謎が解けて…ホッとしました…」

「今回狙われたのは、レティシアではなかったの。…あのメイドの女の子よ」

「……え?…えっ?…ロザリー?どうしてロザリーが?」

「特殊な血を持つ兄妹だそうね」


ルークが狼男の姿に変わるのは、実際に目で見て確認済み。当然、ルークの妹であるロザリーも…同じ血を引いているはず。
しかし、兄妹やアシュリーからそれについて何も聞かされていないレティシアは、どう答えていいのか分からない。

ただ、レティシアとザックがロザリーの誘拐に利用された…という事実だけは、はっきりしていた。


「私が詳しく知っているわけでも、話せる内容でもないわ。これは、直接本人から聞くべきでしょうね」

「…はい、そうします…」

「その前に…レティシアは食事と入浴かしら?聖水のお湯にしっかり浸かっていらっしゃい」










────────── next 164 終結4

いつも読んで下さいまして、誠にありがとうございます。







    
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