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感謝祭

108 異変2

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レティシアをガッチリ抱き込んだまま、意識を失ってしまったアシュリー。


「…うぐっ…」


レイヴンの魔術がレティシアの身体を圧迫感から守ってくれてはいても、五感が閉ざされているわけではないので、重みはそれなりに感じていた。


(急いでここから脱出して…助けを呼ばないと!)


アシュリーの身体を少しずつ横へ移動させながら、レティシアは何とか這い出ることに成功。



ビッ! 



ベッドに広がっていたスカートのどこかが、アシュリーのコートの装飾に引っかかったのか?裂けたような嫌な音がしたが、今はドレスよりも優先すべきことがある。


(こもった熱を、できるだけ逃がさないと…)


レティシアは、うつ伏せになっているアシュリーからコートと上着を剥ぎ、全身の力を使って仰向けに転がす。


「…ふぅ……殿下、しっかりして!」


アシュリーの頬や髪に触れても、反応はない。
びっしょりと汗をかき、眉根を寄せてハァハァと…苦しげな呼吸を繰り返している。


「…っ…殿下…」


レティシアはアシュリーのシャツのボタンを全て外し、室内に備えつけてあったタオルで汗を拭う。
硬く引き締まった鋼のような筋肉が、忙しなく上下していた。


(こんなにも…熱いなんて)



ベルトを緩める際、下半身の膨らみが顕著で…ここも熱く滾っていたことに…レティシアは赤面する。

ご立派なのは決して悪くない。寧ろ、男性機能が正常と分かり“よかった”と言うべき。



    ♢



─ ドン! ドン! ドン! ─



レティシアは鍵のかかった扉を、何度も激しく叩く。必死だった。


「誰か!ここを開けてください!!誰かっ!」


大騒ぎになるかならないかは、最初に駆けつけてくれた人の采配次第。

小ホールにいた護衛騎士ならば気付いてくれるはずだとレティシアは期待していたが、一向に助けに来る気配がしない。

再び扉を叩くが、結果は同じ。


(何かおかしい…叩いても音が響いていない?!)


レティシアは、ベッドに倒れているアシュリーをチラリと見て…『まさか』と、髪をくしゃくしゃに掻き乱す。


「…防音の…魔法?」


(鍵を締めて、防音魔法までかけたの?…それを判断する余裕すら…殿下にはなかったってこと…?)


「…でも…そんな…そんなの……もう…っ…」


魔力のない自分がいかに無力か、レティシアは思い知った。

大きな音や声を出せば必ず誰かに届く…そう信じていたために心が折れ、瑠璃色の瞳にジワッと涙が浮かんで視界が揺れる。
…が、レティシアは首をブルブルと振り、涙を吹き飛ばすと…頬をパンッ!と叩く。


「弱気になったらダメ!…諦めないわ…」



─ ハラリ ─



突然、ホルターネックのバンド部分が外れ、生地ごとずり下がって落ちてきた。首を振ったせいかと…再び留めようとしても上手くいかない。

よく見れば、留め金が歪んでしまっている。


「……壊れた…?」


アシュリーが首元に触れていたからだろう。彼は、力加減が少しおかしかったのだと思う。


「…っ…そうよ…ドレスには聖魔法がかかってる!!」


レティシアはドレスの破れに目をやると、しゃがみ込み…祈るように両手を合わせて額に擦りつけた。


「お願い…サオリさん、気付いて!…殿下を助けて!!」





閉じ込められた場所から救出される可能性が一つ出たことで、レティシアは俄然冷静になる。


ドレスの破損から、何かが起きたとサオリが感じ取ったとして…主催者である彼女は簡単に持ち場を離れられないかもしれない。


「でも、きっと来てくれる。だから…他にも、待つ間に私ができることを…考えないと」


今日、このパーティー会場内にいる人で、助けてくれるのは誰か?


「あっ、ゴードンさんとルーク!」


(護衛として私の側についていた。あの二人なら、絶対にこの控室の扉の近くにいるはず)


レティシアは再び扉の前に行って、外と連絡を取る手立てがないかを考え始めた。


(何を使えば連絡できる?!…伝える手段は…)


「手紙、紙を外へ出せないかな!」


室内を見回し、紙とペンがあるのを見つけたレティシアはパッと明るい表情になる。




──────────




ゴードンとルークは、王族が休憩に使う控室の一室…その扉の前に二人揃って立っていた。


「休憩なら、一時間くらいだろう」


ゴードンが時計を見ると、アシュリーとレティシアが入室してからまだ30分程度。


「レティシアを奪われて、殿下は不機嫌オーラが出まくっていたな。近付かないほうが身のためだ」

「俺は、廊下に飛び出して来たレティシアの早さにビビリましたけどね」


レティシアの護衛である二人は、相手が王族のアフィラムということで…バルコニーでは少し距離を取って控えていた。


「あぁ…脇目も振らず、殿下に突進したように見えた。
ルーク、このまま朝までだったらどうする?あの様子からすると、あっちゃいかんが…ありえるぞ」

「カリムに交代を頼みたいので、連絡してもいいですか?」


ルークは、ポケットから魔導具を取り出す。


「いいですか?じゃないよ、抜け駆けするな。先輩が先だろう?私だって交代したい」

「ゴードンは駄目でしょう?」

「…なぜだ…」

「駄目です。俺は、ロザリーのために帰ります」

「シスコンめ。私が一番年上なのに、ひどいぞ?」


シスコンと言われたからか、急に黙って静かになるルーク。


「…………ゴードン…」

「…だってな、お前がシスコ…」

「扉を開けてください…ゴードンは開けれますよね?」

「は?開ける??…急に何を言って…殺されるぞ?!」

「いいからっ!!!!」


ルークが床からサッと紙を拾い上げる。
そこに書かれた赤い文字を見たゴードンは、顔色を変えてすぐさま魔法を発動、扉の施錠を解除した。



    ♢



「殿下!!」

「レティシア!!」


室内へ飛び込んだゴードンとルーク。




「ゴードンさん!ルーク!…よかった…やっぱり外にいたのね!」


嬉々とした表情のレティシアに迎えられた二人だったが…

髪が乱れ、ドレスは胸元も露わになり、果物ナイフを手に持った姿に言葉を失う。


「殿下が、高熱で大変なの!!…お願い助けて…」


そう言って数歩進んだかと思うと、レティシアはヘナヘナと床に座り込む。


「……おいっ…レティシア!」

「ルーク、レティシアはお前に任せる!」


ゴードンは、ベッドに横たわるアシュリーの側へ駆け寄った。


「殿下っ!!」




アシュリーを一目見たゴードンは、通信用の魔導具で緊急事態が発生したことを従者全員へ伝達。

ゴードンとルークはレティシアの護衛で側にいたが、チャールズ、マルコ、カリムが会場内のどこにいるのか?ゴードンはそれぞれの現在地を報告させる。




『チャールズ、騒がず速やかに国王陛下にお知らせしろ。お前が一番近い。できるな?身分証を身につけることを忘れるな、でないと…死ぬぞ。
誰か、聖女様の居場所を教えて欲しい!』

【チャールズです。了解!】

【カリムです。聖女様はさっき舞台からいなくなったっきりです】

『いなくなった?殿下の治療は聖女様しか無理だ。何とか見つけてくれ』


ゴードンはアシュリーの着衣の乱れを直した後、他の控室が無人であることを確認。控室前の護衛騎士たちへ事情を説明し、部外者の立ち入りを控えるよう依頼した。


控室に戻ったゴードンは、ルークがレティシアを抱き締めている姿を目撃。

目が点になる。


「…ルーク…?!…どさくさに紛れて、何を…」

【マ、マルコです!聖女様が…ハァ…レティシアの下にサハラ様を向かわせたと…ハァ…そう皆に伝えるように言われました】

『…何?サハラ様を?!……りょ…了解した』

【カリムです。カインと補佐官殿を発見、どうしますか?】

『二人にも知らせろ、あ……ただし、ここへは来ないように伝えてくれ』

【了解】

【チャールズです!任務完了】

『ご苦労だった。全員待機して連絡を待て』




ゴードンが通信を終えると、室内にはアシュリーの喘ぐ息遣いしか聞こえない。




─ 殿下、あなたはお強い…大丈夫ですよね ─











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ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます!








    
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