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感謝祭

97 夜会は中止?

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「…お姉様…」

「レティシア…?」


室内へ入ろうとしたサオリが、テーブルとソファーの隙間、床の上に転がるアシュリー…の足…を発見。


「………大公?」


(…えっと…殿下は、おっぱいパニック中です…)


見てはいけないものを見てしまった…そんな表情をしたサオリは、そっと静かに部屋の扉を閉めて消える。


「あれ…お姉様…?」


(…え?…ヤダ…どうしたらいいの?)




──────────




「もう…落ち着かれましたか?」

「…あぁ…」



いろいろと恥ずかしくて悶え続けた結果、アシュリーは起き上がるタイミングを逃してしまっていた。

しかし…怪我をしたのか?と、レティシアがしきりに心配したため、現在はソファーに座っている。


レティシアの『心配し過ぎ大作戦』成功。



「…レティシア…」

「はい、殿下」


アシュリーはまだ少し赤い顔をして、レティシアをチラリと見た。


「本当にすまなかった。
何と言えばいいのか…全く経験したことのない刺激に咄嗟に対応できず、とんだ醜態を晒した…」


(そうですよね。ずっと、女性には触れてこなかったんですから。パニックにもなるってもんです)


「私は女性の扱いを習いはしたが、実践経験がほぼない。そんな私と触れ合う君には、負担ばかりをかけて…いや、正直に言おう…それを分かっていたが触れたかった。
恋人同士の付き合いは、ある程度見聞きして知ったつもりでいても、実際に女性同伴でパーティーに参加したことはない。
ドレス姿の女性をいきなり抱き締めるなんて、紳士としてあるまじき行為。本当にどうかしていた。
今一度、王族である己の行動をよく考える必要があると思う。レティシア…未熟な私のことを許して欲しい…」


(……反省文?……)


「殿下のお気持ちは…よく分かりました。
女性との触れ合いが経験不足であることは、そうならざるを得ない理由があったからで…殿下がサボっていたわけではないでしょう?

紳士として恥ずべき行動だと仰っている以上、些細なことだとは申しませんが…私は28歳、元いた世界ではそれなりに男女関係について学んでいる年齢ですから…」


レティシアは『大丈夫』だと伝えるように、アシュリーの結われた髪を指でサラリと梳く。


「…………」


無礼な行為を許され安堵したものの、彼女が…男女の深い接触を前世で経験済みなのだと思い知らされた気がして、アシュリーは何とも微妙な顔をしていた。



    ♢



「そういえば、今朝起きたら…クオン様が私のベッドで寝ていたんです。…私の胸に顔を埋めて…抱きついて…」

「…なっ…だ、抱きついて・・・・・?!」


同様の体験をしたアシュリーは“おっぱい星人”のクオンを責めていい立場ではない気もするが、たとえ子供であっても…確信犯・・・だと思うとやはり少々苛立ってしまう。


「私、人化したクオン様を見るのが初めてで…もうビックリして大声で叫んでしまって、大騒ぎに」


そこは、胸に顔を埋めていたから叫んだのではないのか?と…アシュリーのほうがビックリする。


「サハラ様に瓜二つで超可愛いクオン様が、お姉様に見つかって大目玉を食らってて…ちょっと可哀想でした。それで『エスコートはさせない』って」


エスコートといっても…クオンの場合は、レティシアと手を繋いで入場するという、ファミリー感覚のもの。

アシュリーにレティシアのエスコート役が回ってきた理由は、サオリが禁止したレティシアとの“添い寝”をクオンが強行したためだった。


「クオン様もそうですが…男性は、子供でも大人でも女性の胸に多少興味があるというか…それが普通ですよね」

「…ぅん、まぁ…」


“おっぱい星人”はレティシアの中で許容範囲なのかと、アシュリーは再びビックリする。


「でも、元・婚約者みたいに…女性を性欲の対象にしか見ない人間もいる」

「…………」

「殿下はお優しいお方です。私を…今の私の身体を大切に思ってくださっていると、ちゃんと分かっています」

「…ありがとう……でも、すまなかった…」


アシュリーは、真っ直ぐにレティシアを見つめ…許しを請うように…ほんのわずかだけ頬に触れた。


「レティシアは、女性的な魅力に溢れている。私だって、異性への関心や…欲望は…人並に持っているからね」

「…殿下…」



今まで、女性に直接触れないよう避けるしかなかったアシュリー。しかし、欲に負けそうになった覚えは一度もない。

レティシアに出会うまでは。

アシュリーはソファーの背もたれに身体を預け、そっと目を閉じ…レティシアのことを想って考えを巡らせていく。



「…だけど…君が好きだから…、嫌わ…たくなぃ…」


(…………え?)


後半やや不明瞭にそう呟いた三秒後、カッと目を見開いたアシュリーは、自分が何を口走ったのかに気付いて姿勢を正す。

視界の端に映る『化石化したレティシア』の姿を見て悟った…二度目・・・の告白をしたのだと。


「私は…思っていた以上に未熟だな…」


諦めたように静かに笑い…スッと肩の力が抜けたアシュリーは、とろけそうなほど甘い表情をレティシアに向ける。


(…ヒャーッ!!…な、何て顔をっ?!…)


無言のまま微動だにしないレティシアの柔らかな髪を愛しそうに撫でると、物憂げな声で囁き出した。


「レティシア、本当は…着飾った君を他の者たちに披露したくないんだ。私だって、ドレス姿は初めて見たのに…」


(…は…はいぃ…?)


「しかも、こんなに大胆なドレスを着て…はぁ…駄目だよ…このまま閉じ込めておきたい」


(…へええぇぇ…っ)


アシュリーの熱を帯びた眼差しと、本音と思われる言葉に、レティシアは次第に頬が紅潮するのを感じていた。

心臓が、再びドキドキと激しく騒ぎ出して止まらない。


(…お…落ち着け、私の心臓!冷静になれ!)




「…で…殿下…?」

「…ん?…」


レティシアは面映ゆい気持ちになって、甘さと妙な色気がダダ漏れ中のアシュリーからつい目線を外す。


(ちょっと待って…前の告白の時、殿下はこんな無防備な顔をしてなかったはずだけど?!)


『期間限定』の間柄なのに…どうも何かが変だ。
アシュリーが、急にこんなことを言い出すはずがない。

転倒の際に打ちどころが悪く、頭のネジがブッ飛んだか…ひどく緩んでいるのかもしれないと、レティシアは思った。いや、そう思いたかった。



「…ど…どこか具合がお悪いのでは…?」

「悪くない。……いや、悪いな…」


(…そうだと思いました!)


「恋煩いだ。胸が締めつけられる」

「…こ…」

「兄上たちが君を見つめているだけで、嫌で堪らなかった。苦しくて…頭がおかしくなるかと思ったよ」

「…頭が…おかしく?」


アシュリーは、レティシアの熟れた林檎のように真っ赤になった頬を両手で優しく包み込む。


「そう…君を取られるんじゃないかって、怖かった」

「…そ、え、わ…私のこと…好き過ぎじゃありません?」

「好きだよ。……やっと分かってくれた?」








『もう…感謝祭を止めて、結婚式にしようかしら?』



扉の外には、真剣にブライダルプランを考えるサオリがいた。










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