前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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第4章

44 アルティア王国

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今日、アルティア王国で国王に帰国の挨拶をするアシュリーは、朝からほぼ正装に近い服装だった。

高価な宝飾品を身に着け、濃紺色の生地に銀糸や宝石で装飾を施した上着と、毛皮ファー付きの真っ白なロングコートを難なく着こなし…レティシアの前に颯爽と現れる。

衣装にも負けないアシュリーの美しい顔と立派な体躯、気品溢れるその立ち姿にレティシアは興奮していた。


(…素敵!これは格が違うわ…)


「…カッコイイ…」

「ん?…何?」

「はっ!…えっと…とってもよくお似合いです、殿下」


レティシアは、パチパチと両手を叩いて称賛する。


「…褒めてくれてありがとう。今日は移動の合間に昼食と休憩を挟むだけだ、夕刻前には王国へ着く。では…行こうか」

「はい、殿下」



    ♢



今日も…仲のいい二人のやり取りを、ゴードン以下従者たちは眺めていた。


カ)「見ました?殿下、褒められてニヤけてましたよ。俺が手を叩いても、あんな顔してくれるんですかね?」

チ)「あの照れ笑いはレティシア専用に決まってんだろ。殿下って、見た目を褒められるの嫌がってた人なのにな」

ル)「モテ過ぎると、そんなこともあるんでしょう。俺たちには一生分かりませんて」

マ)「また、レティシアを先に馬車に乗せようとして…お、今日は押し問答してるわ…頑張れ、レティシア!」

ゴ)「殿下は顔色がいいな…昨夜の効果ありと見た。さぁ、俺たちも王国まであと少し頑張って行こう!」




──────────
──────────




「大公殿下、お帰りなさいませ。入国者名簿を確認いたしますと、出国時よりお一人お名前が増えて…ええぇぇーっ!!!!」


馬車の扉から顔だけを覗かせてアシュリーに声をかけた年若い入国管理の担当者は、静かに座席に座るレティシアの存在に気付くと叫び声を上げた。
アシュリーが馬車に女性を同乗させたことなど、過去に一度もなかったからだ。


「あぁ、増えたのはここにいる彼女だ。新しい秘書官として、他国から私の下に雇い入れた。以後、よろしく頼む」

「…あっ…えっ…こっ…こちらにょお方が…?!」


しれっと報告をするアシュリーの態度に目を白黒させている担当者は、驚きのあまり唇を震わせて言葉がおかしい。


「そうだ」

「レティシアと申します」


想像以上の反応を示す担当者の言動にレティシアは吹き出しそうになるのを必死で堪え、これでもかと…精一杯の微笑みを向けた。


「どうぞ、よろしくお願いいたします」

「しっ…しょっ…少々!お待ちください!」


レティシアの目映い笑顔を受けて急激に頬を紅潮させた担当者は、建物の奥へと引っ込んでしまう。


(…あら?出て来なくなっちゃった…)


別の年配の担当者が慌てて飛んで来て、一行は無事に入国手続きを済ませる。



    ♢



「では、私とゴードンは今から陛下に謁見を賜る。
ルークとカリムは、一足先に魔法陣を使ってラスティア国へ戻れ。レティシアが生活できるよう準備を整えておくことを忘れるな。チャールズとマルコは、レティシアを頼むぞ」

「「「「はっ!」」」」



王国に入ると、アシュリーは自身に保護魔法を施した。
抑えていた魔力を解放すると…その顔つきや声色はさらに凛々しくなり、王族らしい威厳と自信に満ち溢れて神々しい。

従者たちも気合を入れ直し、機敏な動きで主人からの“命令”を受ける。

周りの空気が一変した。


「レティシア…ここは私に与えられている部屋の一つだ。ゆっくり身体を休めておくように。いいか、どこへも行くなよ?」

「…はい…殿下…」


今の状況についていけず…一人取り残された気分のレティシアは、そう返事をするのがやっとだった。


「大丈夫だ…すぐに戻る」


アシュリーはレティシアの硬い表情を見て、優しく頬をひと撫ですると…足早に部屋を出て行った。


「「「「行ってらっしゃいませ」」」」




──────────




「チャールズさん、お庭に出てもいいですか?」

「あぁ、それなら…私も一緒に行こう」


チャールズは部屋周辺の小庭を散歩しながら、この王国についていろいろと話をしてくれる。
気楽なチャールズの語り口調が今のレティシアには有り難く、とても心地よかった。



アルティア王国には護り神である“神獣”がいて、“神樹”と呼ばれる…神の力が宿る珍しい樹もあるという。

『神に愛される、緑豊かな魔法の国』

レティシアが馬車の窓から見た街並は、建物がカラフルで人々には活気があり、元気で明るい印象の国だった。



「殿下は、王宮ではいつも警戒心が強くなる。いくら神様が守ってくださっていても、醜い人間の陰謀ってのは渦巻いてるものだからな。レティシアも気をつけろよ」

「時代劇の“大奥”みたいなこと?…伏魔殿ってやつ?」

「おお…おく?」

「えー…この世界だと、国王陛下にお妃様が何人もいて、子供の後継ぎ問題や貴族を巻き込んだ権力争いとかがあったり…暗殺や陰謀による蹴落とし合いが起こる感じ?」

「おお…おく、スゴい怖いな!」


やや大袈裟に、ブルブルッと震えて見せるチャールズ。


「でしょう?骨肉の争いなのよ」

「我が王国の王族だけの話なら、前国王陛下は側室をお持ちにならなかったし…殿下たち御兄弟は非常に良好な関係だよ」

「とてもいい王家ね」

「あぁ…だけど、権力が王族一点に集中してるからな。甘い汁を啜りたい外野がわちゃわちゃと喧しいんだ…ん?」



…ガサッ…ガサッ…



「…っ…!」

「そこにいるのは、誰だっ?!」


チャールズはサッとレティシアを背に庇い、二人で音のする方向を凝視する。



ポーン!



「…っ…キャーッ!!」


チャールズの頭上を通り越して、レティシアの顔面に白い塊が飛んで来た!








 
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