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第1章
13 魔導具と本
しおりを挟む「ん?あれ…レイ…ヴン…?」
明後日には除籍の手続きが済むと聞いていたレティシアは、侯爵夫人が用意してくれた衣類や生活小物などを“引っ越し荷物”としてほぼまとめ終わったところ。
開かずの引き出しから出てきた魔導具と魔法石、それから…一番奥に入っていた一冊の本。
これも持って出て行くべきかと机に並べて思案中、変わった形状をした魔導具の隠れた部分に、うっすらと光り輝く銀色の小さな文字を見つけた。
二つが対になっている魔導具の両方に“レイヴン”と記されている。
──────────
「私物として扱えるものといえば、この三つしかない」
先ずは、家族に宛てた手紙が挟まっていた本。この本には、魔法や魔導具についての事柄が多く書かれていた。
内容は全て読めるし理解もできるので、役に立ちそうな気がする。ただ、不思議なことに本の文字が赤い。
次に、レティシアにしか扱えない魔法石。
国王と交わした『門外不出』の契約がある以上、貴重品として侯爵家の金庫に預けるしかないのだろうかと悩む。
最後に魔導具。魔導具と魔法石は、レティシアの中では所謂『セット商品』。
もし、今後も魔導具を使う可能性があると仮定した場合…魔法石が手元になければ困った事態に陥る。
(うーん…魔導具と本はいいとして、魔法石と映像問題をどう解決しよう)
♢
「…レイヴン…普通に考えたら、こんな場所に刻まれる文字はMADE IN JAPAN的な感じだけど、多分…ただの名前かな?」
そう思ったのは、二つの“レイヴン”という文字にわずかな違いがあり、手書きであるという印象を受けたからだった。
(魔導具は誰かの所有物?…かなり高価な品らしいし…“レイヴン”から一時的に借りたとか?)
「…っ…そういえば…」
レティシアは、机に置いていた本の裏表紙を手早く捲る。
この本をまだ最後まで読んでいないレティシアであったが、時折…印をつけているかのようにキラッとページの端が光っていたのを思い出した。
「あった!レイヴン!!」
裏表紙を一枚捲ったところにその文字を見つけたレティシアは、これが名前であると確信して頷く。
(本に自分の名前を書くなら…やっぱりこの辺りよね。魔導具と本は“レイヴン”のもの。じゃあ、魔法石も?)
─ コン コン ─
「レティシア?」
軽いノック音と共に、侯爵夫人の声が聞こえる。
侯爵夫人はおっとりとした優しい女性。レティシアとは適度な距離を保っていて、遠い親戚のおば様といった雰囲気。
「どうぞ、お入りください」
「…失礼するわ。まぁ、もうすっかり片付いたようね。まさか一人で荷造りを?」
「はい。私のためにいろいろと品物をご用意いただきまして、感謝申し上げます」
「…それくらいは…させてちょうだい…」
侯爵夫人は寂し気な顔をしてそう言うと、レティシアが机に広げていた本に目を留めた。
「あ、今…本も持って行こうかと思っていたところだったので。そうだ、侯爵夫人はここに書いてある“レイヴン”という名前の人をご存知ではないでしょうか?」
「レイヴン?…一体どこに書かれているのかしら…?」
侯爵夫人は、レティシアが指し示す銀色の文字を探せない様子で…瞳をキョロキョロと彷徨わせる。
「あら、この本は帝国のものね。妃教育では帝国語も習っていたから、その時の教本かもしれないわ」
「帝国?帝国語は、また言葉や文字が違うのですか?」
「え?…えぇ…勿論そうよ」
侯爵夫人は少し首を傾げ、本棚から別の本を持ってきて並べて見せてくれた。
「ほら、こうして比べればよく分かるでしょう?文字は形も全然違うから」
「…あ、あぁ…ソウデスネ…」
(…形を比べるといっても…)
レティシアは少し曖昧な相槌を打った後、二冊の本の文字を改めて指でなぞる。
ルブラン王国の文字は黒色、帝国の文字は赤色。
転生者であるレティシアの目には、形など関係なく…日本語が国ごとに違う色で見えていたことが理解できた。
さらに、侯爵夫人には認識できない文字まで見えている。
(“レイヴン”って、魔法の文字なのかもしれない)
「さっき言っていた…レイヴン?…そのお名前は、帝国の大魔術師様だったと思うわ」
「えっ!…大魔術師…様?が…レイヴン?!」
「えぇ、どうしてそのお名前を知っているの?…確か、次の魔塔主様になるお方のはず…」
「…魔塔…主?」
「ルブラン王国には魔法を使える人が少ないけれど、魔法が盛んな国では、優秀な魔術師や魔法使いがたくさん魔塔に所属して活躍されていると聞くわ。そのトップが魔塔主。魔塔の顔となる、凄い実力者よ。帝国は、この大陸で最も大きくて強い国だから…雲の上のような存在かしらね」
「…雲の上…」
(な…何で?どうしてそんな有名な人と知り合いなの?!)
♢
「あっ、こうしてはいられないわ!」
レティシアが一人で頭を抱えていると、側にいた侯爵夫人が当初の目的を思い出したらしく…パンッ!と手を叩く。
「レティシア、今日は養護施設を訪問する日なのよ」
「養護施設ですか?」
「今のあなたには覚えがない話で…少し困惑するかもしれないわね。だけど、とても大切にしていたボランティア活動で、施設の子供たちもレティシアに会うのを楽しみにしているの。
今日は最後の日になるから…ご挨拶も兼ねて私も一緒について行くわ。心配しなくても大丈夫よ」
「ボ…ボランティア活動?」
(この世界にもあるんだ、ボランティア)
記憶のない状態で参加することに不安がないわけではないが、とりあえず…ワンピースで参加できそうだとレティシアはホッとする。
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