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おまけ話

それぞれの幸せ4 (フェルナンドSide)

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最近のイシスは、執務の合間に“お昼寝”を楽しんでいるようだ。


「イシス」


部屋の扉をノックしたが反応がなく、室内を覗いてみると…ソファーのクッションに上半身を預けた状態で休んでいた。


「…あれ…フェル?」

「起こしたか?…一緒に休憩しようと思って来たんだ」




今では互いに執務室を持つ『伯爵家当主とその夫人』。
私は時間ができると、こうしてイシスの元へと足を運ぶ。

以前は、イシスが私の執務室へクッキーや紅茶を差し入れしてくれていたのだが…度々襲っていたせいだろうか?…近ごろ避けられているように思う。


今日はイシスが私室に戻っていると聞いていたため、書類仕事が一区切りついたところで様子を見に来た。




側に行って優しく髪を撫でると、心地よさそうにすり寄ってくる。


…はぁ…妻が可愛い。


自分の頬が緩み過ぎていることに気付き、ハッとした。


「…コホン。義母上は執務室に?」


今後、邸の全てのことを把握し管理していくのはイシスとなる。今はその引き継ぎ作業中だ。


「今日は、午後からお休みなの」

「そうだったのか。じゃあ2人で休憩しよう」


タイミングよく、侍女が飲み物や菓子を運んで来た。

イシスと過ごす時間は、忙しい私に癒しと活力を与えてくれている。


「ん…?…このお茶は、何だかさっぱりとしているな」

「これはハーブティーなのよ。この間のパーティーで、妃殿下からいただいたの」


イシスは、皇后陛下の誕生日パーティーで『ナターリエ妃殿下に会えた!』と、うれしそうに話していた。

あの夜会からは…早いものでもう1ヶ月以上経つ。





「そういえば、皇太子妃殿下はご懐妊だそうだね」


コクリと頷くイシス。…やはり、知っていた…。
公表されるまではと、静かに見守っていたのだろうな。


「タチアナ様と私は、妃殿下から直接お聞きしていたわ。
お目出度いお話だけれど、だからこそ…ご負担にならないように、こういったことは内緒にしておかないとね」


イシスは私を横目で見ながら人差し指を口元に当て、ニッコリと笑う。
こういった仕草も以前なら可愛らしいと感じていただろうが、今では大人の色気たっぷりで…もう目眩がしそうだ。




「しかし、また随分と早くに授かったものだな」

「えぇ、皇帝陛下も望みが叶って喜んでおられるはずよ」

「…望み?……あ……」


そうか。皇帝陛下は、皇太子夫妻に子供ができることを心待ちにされていたのだ。


「あの時、イシスの“外出したい”という願いを聞き入れることで…皇帝陛下はご自分の望みを最速で叶えた…?」


私の言葉を聞いたイシスは…うーん…と、小首を傾げる。


「何もしなくても妃殿下は身籠ったわ。私は、皇帝陛下の少し欲深いところを…上手く利用させて貰っただけよ?」

「へ?」


変な声が出た。



皇帝陛下を手玉に取るとは…私の妻は大物だ。




──────────




「イシス、先生がお見えに…あら?」

「お義母様」

「義母上」

「フェルナンド、こちらへ来ていたの?」

「はい。少しイシスと休憩をしておりました。…義母上、そちらのお方は…?」


義母上の後ろには、大きな鞄を手にした赤髪の女性が立っていた。


「お医者様よ、イシスのために来ていただいたの」

「…っ…!…イシス、どこか具合が悪いのか?!」


焦った私は、イシスの頭の天辺から足の爪先までを何度も見た。

「落ち着きなさい、フェルナンド。イシスは大丈夫よ。
では、先生…後はお願いいたしますわね」







「おめでとうございます。ご懐妊です」



医師からそう言われ、待望の子を授かったことを知った。



夢じゃ…ないよな…?!…本当に、私とイシスの子が?!

心臓の音がいつもより騒がしく、身体中に鳴り響いているみたいだった。



「奥様は今とても大事な時期です。ご無理をなさいませんように、お気を付けください」

「フェルナンド、イシス…おめでとう。イシス、ゆっくり休むのよ」

「ありがとうございます。お義母様」
 
「…ありがとうございます…義母上」




義母上と医師が部屋を出て行った後、イシスはホッと安堵した表情でベッドに横たわる。


「フェル…私、赤ちゃんができた…」

「うん。…ヤッ…タ…!!」


私はベッドの端に座り、小さくガッツポーズをしていた。

込み上げてくる喜びをどう表現していいのか…自分でも分からない。自然にそうなってしまっていた。

そんな私の様子がおかしかったのか、イシスはクスクスと笑う。そのイシスの両手を…しっかりと握った。


「イシス…ありがとう。本当にうれしいよ。身体は?どこか辛い?」

「少し怠いわ。今日は…ずっと側にいて…?」

「分かった」


私はベッドに滑り込むと、愛しい妻を優しく抱き締めた。




    ♢


「タチアナ様に妊娠したとお知らせしたら、夜の営みができない時のアレコレ?って…謎のお手紙が届いたの…」


は…アレコレ…?

マルフェリウス公爵夫人は、どこからそんな情報を?!

いや、できればそういうことは隠しておいてくれ…でないと、変に期待してしまうだろう?


「タチアナ様は、クリストファー様に『好き』って告白をされたんですって。
何だかおかしいわよね、タチアナ様はずっとクリストファー様のことをお好きなのに…」

「……??……そうだったの…か…?」


公爵夫人は“ラブオーラ”を封印していた強者?!
夫からのド直球な告白に、さぞかし驚いたことだろう。


「多分“公の場”の社交が苦手なフリ・・をして、お妃候補からはわざと外れるようにしていたのよ。
タチアナ様なら、時が経てば第三皇子殿下の婚約者候補になるであろうことは…簡単に予想できたはずだもの」


2人は、まさかの両想い。


マルフェリウス公爵夫人も…なかなかの大物だった。


    ♢




イシスの体調が安定したころ、お腹の子供が双子・・だと分かる。
これは…より一層イシスの小さな身体を大切にしていかなければならない。




──────────




日に日に大きくなるお腹を見ていて、私は心配で仕方がなかったが…

イシスは、無事に元気な双子の兄妹を出産。



兄をレオナルド、妹をセレスティアと名付け…私とイシスはとにかく愛情いっぱいに育てた。


レオナルドは漆黒の髪に赤い瞳、セレスティアは黒紫の髪に金の瞳だった。




    ♢


─この時には─


将来、我が子が『黒獅子』やら『金魔女』などと呼ばれる日が来ようとは…全く想像していなかった。


    ♢





私とイシスは4人の子供に恵まれ、幸せに暮らした。







      (それぞれの幸せ)  ─ END ─



※これにて『完結』にしたいと思います。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました!









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