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おまけ話

結婚式から半年後 (イシスSide)

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「タチアナ様、イシス様、ごきげんよう」

「「ナターリエ様、お招きありがとうございます」」



今日は“3人でのお茶会”。
ご招待を受けたタチアナ様と私は、宮殿に来ていました。

エリック皇太子殿下と3ヶ月後にご結婚されるナターリエ様は、もう宮殿にお住まいなのです。



「タチアナ様、アカデミーの早期ご卒業おめでとうございます。成績優秀者として表彰もお受けになったそうね…本当に素晴らしいわ。
先日、クリストファー殿下と婚姻契約も結ばれたとお聞きいたしましたわよ。重ねてお祝い申し上げますわ」

「ありがとうございます、ナターリエ様。これで本当に大人の仲間入りができました。
私は宮殿には入らず、残り半年は領地経営をもっと深く学びたいと考えておりますの」



宮殿では…もう特に学ぶことがないというタチアナ様。

クリストファー殿下が臣籍降下されて“マルフェリウス公爵”となられるのは半年後。帝都からほど近い公爵家の領地で、お2人は結婚式を挙げるご予定です。

本来ならば、婚姻契約後は宮殿に入り半年後に公爵家へと移り住むのですが…タチアナ様は殿下より一足先に領地で“公爵夫人見習い”としての新生活を始めると決めたそうなのです。



「タチアナ様なら、立派な女主人として公爵家の領地を守っていけると思いますわ」

「ありがとうございます、イシス様」

「イシス様は、結婚式から半年が過ぎましたのね」

「はい、本当にあっという間で…。次はナターリエ様のご結婚式ですわね」


エリック皇太子殿下のご結婚は帝国の大きなイベント。隣国から王族も招かれ、盛大な祝宴となる。


「そうね」


あら?ナターリエ様の表情が少し曇った気がする。


「何か気になることがおありですの?」


私の問いかけに、眉根を下げ…俯くナターリエ様。


「殿下が立太子の儀を終えられて、結婚式が半年後に決まったと聞いた時は…特に問題はありませんでしたのよ。

宮殿での生活に慣れて、お式の準備が少し落ち着いたからかしら?最近何かと深く考え過ぎてしまうの」

「それは…マリッジブルーというものですわね。
嫁ぐ前の女性は不安になるのです。結婚後に環境が大きく変わるのですから当然のことで…私もそうでしたわ」

「不安?タチアナ様も私と同じでしたの?」

「はい、不安や焦り…でしょうか。公爵夫人になるといいましても、若く未熟な私が認めて貰えるのかと心配で。

それに…精神的に弱ったからといって、お忙しい殿下に縋り付くというわけにもまいりません」

「えぇ、殿下に何もかもをご相談するのは…難しいですわよね」


お2人は政略結婚。特にお相手が皇族ということで、会う時間も限られていて融通が利かない。


「結婚を喜ぶ家族には話し辛く、誰にも打ち明けられない悩みを1人で抱えてしまう。これがよくないのですわ。

幸いにも私の不安は“未熟”という部分でしたから、多くの情報を知識として吸収しながら解消してきました。自分で自分を強化することにしたのです」


だから…公爵家の領地に移って、実践しながら学ぼうとお考えになったのね。


「ナターリエ様は妃教育を終えられて、皇太子妃としてエリック皇太子殿下のお隣に立つ準備はお済みですわ。

でも…だからこそ周りの期待に応えたいというお気持ちが強いはず。公爵夫人になる私とは比べものにならない程のプレッシャーを抱えていらっしゃるのでは?」


タチアナ様の言葉を聞いて、ナターリエ様はフッと小さく息を吐く。


「そうね。きっと、1人で不安になってしまったのよね。
公務が務まるだろうか?失敗したらどうしよう?と…少し気弱になって、悪い考えばかり思い浮かんでいた気がいたしますもの」



宮殿には、ナターリエ様を近くで支え気遣ってくださる方は誰もいないのかしら…?

ナターリエ様は、仕えていた侍女に毒を盛られた経験がおありになる。
それに、気を失うまで誰にも体調不良を明かさなかった辛抱強いお方。心を許せる相手が側にいないのは心配だわ。



「ここへ来てから、気を張り詰め続けていたのかもしれませんわね。
何ていうのかしら…家族と交わしていた何気ない挨拶や会話は、とても大切なものだったと実感しておりますのよ。
ふふっ…私ったら、ホームシックなのかもしれませんわ」


『今日はお2人をお誘いしてよかった』と、ナターリエ様は照れたように笑った。





小さなお茶会を喜ぶナターリエ様を見ていて、決めた。

「ナターリエ様、タチアナ様、今度…ご一緒に1日お出かけいたしませんか?」

「「えぇっ?!」」

「ナターリエ様は今もご準備でお忙しいですけれど、ご結婚されたらもっと大変ですわ。
タチアナ様は半年間お勉強に集中されますし、私も半年後は伯爵夫人となります。

3人でのお出かけは、今を逃したら難しいと思うのです!だから、多少強引な手を使ってでも行きましょう!!」


私は片腕を突き上げ、ニッコリと笑顔でそう言いました。

お2人はポカンとされています。


「…イシス様のこのお姿…私、見覚えが。

今しかない…確かにそうですわね。いかがでしょう?ナターリエ様」

「え、えぇ…私も…お2人となら行ってみたいですわ」

「宮殿から離れて外へ出ましょう!場所は近くでも全然構わないし…私がいいところを探しますわ。
3人でいっぱいお喋りしながら、遊んで過ごすのです」


ナターリエ様とタチアナ様は、目をキラキラさせて頷いている。


「そうと決まれば、すぐに計画を…」

「…あ、ちょっと待って!…イシス様“伯爵夫人”って言ったかしら?!」 

「そ、そうですわ…私にもそう聞こえましてよ!」




「「どういうことですのっ!!」」




あ!…言っちゃったかもしれない…。







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