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第3章
46話
しおりを挟む魔物の森の状態は、かなり落ち着いてきた。
瘴気は聖魔力による浄化をすることでその力を完全に失うため、帝国神殿に聖女派遣の申し入れをしてみるとローウェン様が話していたわ。
来てくれるといいのだけれど。
私は、城の最上階から海を眺めることを…朝の日課にしていた。
こうしているだけでも、飛龍襲来のようなインパクトの強い出来事は感じ取れるの。
この辺境の地で、大きく混乱を招く元となっているのはやはり飛龍。だから念のため…。
「今日、飛龍は来ないわね」
ならば…海のほうまで行ってみることにする。
─────────
「場所は?」
「辺境伯様に、印をつけてもらったわ…」
私は地図を取り出し、バイセル王国の船が停泊していたところに付けたバツ印を指差す。
「…もう少し西側かな?…」
フェルナンド様が一緒でよかった。
海へ向かおうと簡単に考えていたけれど、距離もあるし…城では船を使っていないため、入江に向かう道も整備はされず草ボーボー。
躓いて転んだら…草に埋もれて行方不明になりそう。
ちょっとした探検みたいだわ。
そういえば…5年前は歩きやすいように一部草を刈り取り、木を切って、そこが絨毯を敷いた道みたいになっていた…と、ジェンキンス様から聞いていた気がする。
「イシス、手をこちらへ」
「…あ…ありがとう…」
腰の高さまで伸びた草をかき分け、歩くのに苦労している私を見兼ねてか…フェルナンド様が手を引いて誘導してくれる。
辺境伯夫人の話を聞いたからではないけれど…私の婚約者…最高に優しくて強くてカッコよくて、こんな人に愛されているなんて信じられない。いいのかな?
昔、1人でどうやって生きていたのか…思い出せないわ。
うん。今が幸せ。
「ここで…間違いないだろう」
「…わぁ…」
断崖絶壁とまではいかないけれど、かなりの高さがある岸壁に囲まれている大きな入江。
「フェル?…顔色が悪い…」
私もあまりの高さに、海を覗いてヒヤッとした気持ちにはなったけれど…フェルナンド様の様子はそれとは違う。
「…すまない、少し…気分が…」
咄嗟に宝石眼で視ると、黒いぼんやりした何かがフェルナンド様に絡まっている!
何これっ!これが原因?!
黒いモヤを瞳でしっかりと捉え“無力化”すると、眼が反応し激しくスパークした。
すぐにフェルナンド様に保護と状態異常回復の術をかけ、ダッシュで入江から離れる。休めそうな木の根元に座らせ、その一帯にバリアを張った。
目を閉じて額に少し汗をかき、短い間隔で急くように呼吸をするフェルナンド様…とても苦しそう。
身体を寝かせたほうがいいのかな?
私は膝枕をし…服を少し緩めたりして様子を見る。
私まで心臓を握り潰されたみたいに辛い。凄く不安。
もし…この人に何かあったら…どうする?!
嫌だ、怖い。絶対に失いたくない。
「…う…」
…少し顔色がよくなってきた…?
ハンカチで額の汗をそっと拭う。長い前髪をよける私の手を、フェルナンド様が強く掴んだ。
「…フェル…?」
「その声は、イシス…か…?……あぁ……」
濃いブルーの瞳が焦点を合わせるように…私を探している。
「大丈夫?私よ?」
「…ん…、…水…を…」
私はマジックバックから水筒を取り出し、冷たい水を口に含む。
フェルナンド様の頭を膝からそっと持ち上げて…口移しでゆっくりと水を飲ませた。
ゴクリ…と、喉を鳴らす音は…彼が生きていることを感じさせてくれる。
よかった。顔や唇の色が、本来の色に戻ってきた。
「…イシス…心配するな、もう大丈夫だ」
そう言って手を伸ばし、私の目尻に触れる。
濡れている感覚…気付かないうちに泣いていたみたい。
微笑むフェルナンド様には、ちゃんと生気が宿っている。
「本当?…じゃあ、いっぱいキスして…」
「え?…い…いっぱい…?…」
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