29 / 110
第2章
22話
しおりを挟むフェルナンド様とダンスを終えた後、アデリーナ様と一緒に少し休憩していた。
フェルナンド様は、私たちのために飲み物を取りに行くと言っていたわ。
「フェルナンドったら…3曲もイシスを独占して、本当にしょうがないわね」
「踊り過ぎたでしょうか?」
「普通は踊っても2曲までなのよ。それ以上は、かなり親しい間柄ってことを周りに知らしめるための…」
「母上、こちらをどうぞ。はい…イシスはこれ。お酒じゃないから安心して飲めるよ」
「ありがとう、フェル兄様」
「…フェルナンド…あなたって子は。ちょっとこちらへいらっしゃい!」
熱気溢れるパーティー会場で、よく冷えたドリンクが私の乾いた喉を潤してくれる。
落ち着いて周りをよく見ると…若いご令嬢やご令息たちは、互いにダンスの誘いを待ってソワソワしているようだった。
ということは…フェルナンド様と踊りたいご令嬢もたくさんいるはず。
ダンス好きなら、いろんなパートナーと踊りたいものよね?
滅多にパーティーに行かないフェルナンド様のせっかくのチャンスを、私が邪魔してしまったのかも。
「イシス嬢」
…この声は…。
「クリストファー殿下、タチアナ様、本日は誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
「ありがとう、イシス嬢」
「イシス様、お久しぶりですわ。今日もお会いできてうれしいです」
この日のために、タチアナ様は全身を磨き上げられてこられたに違いないわ。とってもお綺麗。
「タチアナ様、ドレスもよくお似合いで大変お美しいですわ。殿下とのお色合わせも素敵ですわね」
婚約者同士、互いの髪や瞳の色を取り入れて上品にコーディネートされている。
タチアナ様は恥ずかしそうに頬を染めておられます。
「イシス嬢、私と1曲…踊っていただけるかな?」
「まぁ…殿下。大変光栄でごさいますわ」
殿下から差し出された手をそっと取る。
「えーと、本当にいいか?
どっから来た、フェルナンド?…睨むな…怖すぎだろう」
いつの間にか、私の真後ろにフェルナンド様が立っていたみたい。
「睨んでいませんよ。タチアナ嬢…私と踊っていただけますか?」
「はい。よろしくお願いします」
今日の主役であるお2人と私たちは、パートナーを交換してダンスを1曲踊った。
────────
「キャッ!」
突然、ピンク色の頭が視界に飛び込んできました。
どこかのご令嬢が、躓いたのか…バランスを崩して、フェルナンド様へとまっしぐらに突っ込んで来たようなのです。
実際には、突っ込んで来るか来ないか?という早い段階で、フェルナンド様はサッと場所を移動しました。
これぞオーラの力?
その結果、ご令嬢は…フェルナンド様の少し後ろにいたご令息の股間辺りに体当たりされていました。
とても痛そう…どちらかというと…ご令息のほうが。飛び跳ねていらっしゃるもの。
「チェルシー!大丈夫か」
「わぁぁーん!バジル兄さん!」
チェルシー?
バジル?
あら、このお2人…アンデヴァイセン伯爵家の…。
それにしても…被害を被ったご令息に謝罪もしないで、ただ騒いでいるだけ?
高位貴族が集まるこのパーティーで、自ら恥をかこうというのかしら…家名を背負っているという自覚も、常識も欠如しているのね。
私は周りに集まった“眼”を…少し覗き視てみることにした。
『嫌だわ…あの娘、この前のデビュタントでも転ぶフリをして侯爵家の令息に抱き着いていたじゃない』
『可愛いなぁ…胸もデカい。バカそうだし、股もゆるいだろうな』
『恥ずかしいこと。アンデヴァイセン伯爵家も跡継ぎがアレじゃ…もう駄目ね』
『令息は家に内緒で娼館に通い詰めてるって』
『フェルナンド様って、近くで見たらやっぱり素敵!
可愛いチェルシーのことが好きになるに決まってるわ、ねぇこっちを見てぇ!』
『あの黒髪の女は誰だ?身体は駄目だが、顔はかなり好みだな。
このバジル様を見て惚れちまったか?』
─本っ当に…恐ろしく残念な兄妹だこと─
0
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜
王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。
彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。
自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。
アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──?
どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。
イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています!
※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)
話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。
雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。
※完結しました。全41話。
お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる