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58 ランセント侯爵家5(リュウside)
しおりを挟む「ミランダ、ご挨拶は済んだかい?」
「えぇ…。カイン、あなたもアドリアナ様にお会いになったかしら?」
ランセント侯爵と侯爵夫人は、しばらくの間…何やら2人で話し込んでいた。
その後、夕食も是非一緒に!と懇願され、俺は見事に押し切られてしまう。
「あ、リュウさん!」
「アナ、どうだった?かなり緊張しただろう?」
今日は朝早くからドレスや宝石で着飾り、馬車に揺られ…普段会わないような高貴な方々と過ごすことになった。
そろそろ疲れが溜まってきたのではないか?と、少々心配していたのだが…アドリアナは意外にも平気そうな様子。
…やっぱり、彼女は“貴族”ということだな…
俺は今すぐにでもこの堅苦しい服を脱ぎたいし、風呂に入ってベットへダイブしたいんだが。
「はい、最初は本当に緊張しました。でも、侯爵夫人がお優しい方で…いろいろとお話しができて楽しかったです!ランセント侯爵様にもお声をかけていただきましたわ。
それに、お庭でルーシアナ様に偶然お会いしたんです。侯爵夫人にそっくりで、とっても可愛かった~!」
疲れより、楽しさのほうが勝っているのか?…凄いな…。
「あ、そうだわ。リュウさん、私…ルーシアナ様にネックレスを差し上げましたの…」
そう言って、何もない首元に手をやる。
「ん?あれは形見なのに…よかったのか…?」
「ルーシアナ様は…今でも事故の夢を見るのだそうです。
夜眠れていないかもしれないでしょう?ちょっと心配になって。でも、あのネックレスがあれば、きっと大丈夫」
「ふーん…そうか…。まぁ、アナが大人になるまで守るというアイリーンさんの願いはもう叶っているからね。
アナがそう判断したのなら、いいんじゃないか?」
…ふと思う…
ひょっとすると…魔力封印も、アドリアナが成人するまでが強力なのかもしれない。
この先の人生をどう生きるのか?大人になった彼女が自由に選択することができるように。
今なら簡単に封印が解けるのではないだろうか?
だとすれば…後は、魔力量の確認が必要か…。
「アナ、明日一緒に魔塔へ行こう」
そう話したところで、殿下から声をかけられる。
「リュウ」
「…あ…殿下、もうお話は終わりましたか?」
ずっと宰相に捕まっていたからか、ぐったりしている。
「あぁ、結婚適齢期を過ぎた息子はいつ妻を娶るのか?と…陛下が気を揉んでいる。…という長話だった…」
余計なお世話だよと…小さな声で文句を言う。
殿下は闇属性なので、嫁取りは少しだけ厄介だ…主に子作りの面で。
魔力持ちの男性の“精”には当然魔力が混ざる。
闇属性は夜の象徴であるから…魔力が強過ぎるという難点があった。
殿下は、その影響をモロに受けるお相手の身体的負担を危惧して、閨教育における房事の実施を拒んだそうだ。
個人的には、あれこれ工夫をすれば方法はいくらでもあるように思うので…その辺りは、殿下が拗らせているだけという気もする。
まぁ…考え方は人それぞれだし、しかもかなりプライベートな部分。当然…俺が口を出すことではない。
「アナ、夫人とはゆっくり話せたかな?」
「はい、楽しかったです。殿下、今日はドレスまで用意していただき…大変お世話になりました。ありがとうございます」
「うむ。ドレスはもうアナのものだ、気にするな。
それより、今からが本番のティータイムらしいぞ。
…2人とも…まだ紅茶は飲めそうか?」
やっと全員揃っての歓談タイムとなった。
侯爵夫人は、アドリアナをデビュタントの時まで邸で預かりたい…諸々援助させて欲しいと申し出た。
これは、かなり強い後ろ盾を得たことになる。
アドリアナは恐縮していたが、事件は解決したのでそれもいいだろう…と、殿下が意見してニヤニヤしていた。
なぜだ?
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