65 / 75
60 闇の魔力
しおりを挟む「非常に魔力量が多いですね…これを封印していたなんて、とても信じられない…」
アドリアナの魔力検査を担当した検査員は、検査室の扉を隔ててもなお迫ってくる闇の魔力の影響か…じっとりと汗をかいていた。
「やはり。まだ…マナは全て全身を通ってはいないのに」
「グロリア様、それは…本当ですか?…これ以上の魔力量の検査となると…」
「もう十分でしょう」
アドリアナを検査室内に残し、グロリアは外で待つリュウの元へ報告に向かう。
「リュウ殿……予想以上の魔力量でした」
「そのようですね。アナの様子はどうでしょうか?」
「特に変わりないように見えます」
「そうですか。…すでに馴染んでいるということか…」
「ただ、今の状態では周りへの影響が大き過ぎますね」
溢れ出る魔力は抑えなければならないが、アドリアナはまだ何も知らない。
アイリーンは願うことで無意識ながらも魔力を制御し、隠すことなどはむしろ得意であったが…それはアイリーンの特性によるものだ。
「…困りましたね…」
「ここまで多いと…すぐに制御は難しいかと」
魔力を再び封印するのは勿体ない気がする…そう思ったリュウは、しばらく考えていた。
少なくとも、グロリアには…立ったまま1人で悩んでいるように見えた。
♢
『ナイト』
『主、お呼びでしょうか』
『お前は俺の“眷属のようなもの”だが…正式な眷属ではないよな。どうだ?大切なあの方のところへ行ってみないか?』
『主……それは、ご命令でしょうか』
ナイトは、リュウに切り離される命を受けずとも自由の身なのだが…リュウを気に入り、長く付き従ってきた。
『いやいや…まぁ、アナも眷属など今はまだ分からないだろう。
ネックレスも手放してしまったから、しばらく守ってやってはどうだ?…魔力量を調整してやらないとな…』
『影に潜み、魔力を喰えばいいのですね』
『アナは純粋な闇属性の魔力持ちだし、膨大な魔力を必要とするお前には合っているだろう…そう思ってな』
『あの方を…お守りいたします』
リュウの中からナイトの気配が消えた。
♢
「グロリア様、一度…アナを検査室の外へ連れ出してみてもよろしいでしょうか?」
「…それは…」
“危険である”そうグロリアは言いかけて…ピタリと口を閉ざす。
リュウが無意味な行動などするはずがない…それに、一瞬だが大きな魔力の揺らぎも感じていた。
ここでの答えは『YES』しかない。
「あ…失礼、では…そういたしましょう」
──────────
リュウとアドリアナは、再び豪華なグロリアの私室で薬草茶を飲んでいた。
「お疲れ様でした。後は、マナを導く手解きをいたしましたら…今日は終わりです」
グロリアは、側仕えの魔法使いクリスタを呼ぶと…隣りにあるグロリア専用“瞑想室”でアドリアナに指導するよう指示した。
マナは魔力の源となるものなので、魔法使い教育では必ず最初に指導を受ける。
瞑想室内はグロリアが魔導具で監視しているため、何も心配はいらない。
「リュウ殿…ご令嬢は16歳でしたね…」
「はい、アナは社交界デビューもこれからなので…」
「…気の早い話だと思われるかもしれませんが…」
グロリアの話では、6人いる闇属性の使い手の中で4人はすでに同属性のカップル。
つまり、女性は100%闇属性の男性と結ばれているということ。
魔力持ち同士は属性相性を気にすることもあるが…結婚自体は自由なはず。
そうなると…子作り事情によるものでは…と、リュウは嫌な感じがしていた。
「闇属性の男性が、闇属性の女性に固執してしまっている…なんてことは?」
ここでもアドリアナは狙われてしまうのだろうか?と、リュウは不安な気持ちになる。
グロリアは薬草茶を一口飲み…ふぅ…と息をつく。
「闇属性の男性は、どうしてか…同属性の女性を強く求めるのです。女性が拒めないくらいに深く愛情を注ぎ続ける姿を実際目にしました。
あれは…獣人族が番に求愛するのと似ていますね」
純血の獣人族は、特有のフェロモンで番う相手が分かるという。出会えば最後、離れることはできない。
闇属性の男性がそれに近いものだとすれば、子作りというか…そもそもそれが本能であり…抗えないということ。
「私の知る限り、闇属性の男性から一心な愛を受けた女性は皆幸せです。
ただ…リュウ殿もご存知の通り、ご令嬢のお相手となるのは第二皇子殿下です。もし、求婚されれば…拒むことは難しいかと思われます」
10年に1人といわれている闇属性の魔力持ち。16歳のアドリアナの相手が25歳の皇子殿下となるのは…必然的。
因みに、残る1人の男性は高齢で未婚である。
魔力の有無は生まれつきだが、遺伝ではない。
そのため、闇属性のカップルに子供が生まれても、魔力がなかったり他属性であったりする。
稀な属性はそれだけで要らぬ苦労も多い…『一代限りでループはしない』…これが神の采配というものか?
…だとするならば…アイリーンとアドリアナは奇跡の母娘といえるだろう。
「それほど強く求めるのですか…。殿下のことはさておき、封印を解く前にアナには話しておくべきだったような気がしますが…?」
グロリアは眉を下げ…少し申し訳なさそうな顔をした。
「お2人はもう出会ってしまわれた。
殿下は、ご令嬢への好意を隠せてはいませんでしたよ?
あのご様子では…たとえ魔力封印されていても、ご令嬢に惹かれていくのは時間の問題でしょう」
アドリアナへの好意?
リュウは、昨日の昼食会でアレクサンダーの言動がどうもオカシイと感じたことを…ここで思い出す。
「なるほど…知らぬ間に…殿下に“春”が来ていたのか。いや、俺が引き合わせてしまったのか?」
リュウは他人の色恋には超ニブい男だった。
「リュウ殿は、その…ご令嬢のことを?」
「は?いえいえ、母親代わりをしているようなものです」
「え?母親…?…アハハ、そうですか。ご令嬢は、リュウ殿を慕っているようですからね」
その後、指導を終えたアドリアナは…タイミングよくやってきたランセント侯爵家からの迎えの馬車で、リュウと共に一旦侯爵家へと戻った。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
レディバグの改変<L>
乱 江梨
ファンタジー
続編「レディバグの改変<W>」連載中です。https://www.alphapolis.co.jp/novel/608895805/303533485
悪魔が忌み嫌われ、差別される世界で「悪魔の愛し子」として生まれたアデルは理不尽な迫害、差別に耐えながら幼少期を過ごしていた。そんなある日、アデルはエルと名乗る亜人に出会う。そしてその出会いが、アデルの人生に大きな変化をもたらしていくのだが――。
――様々な経験を経て、仲間たちと出会い、大事な人を取り戻す為のアデルの旅が始まる。
※第一章の後半から主人公がチートになります。物語が本筋に入るのは16話からの予定です。
※本作は<L>と<W>の二部構成になっており、<L>の完結後は、別作品として「レディバグの改変<W>」を投稿予定です。
2021.9.29より、「レディバグの改変<W>」投稿開始いたします。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる