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60 闇の魔力

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「非常に魔力量が多いですね…これを封印していたなんて、とても信じられない…」


アドリアナの魔力検査を担当した検査員は、検査室の扉を隔ててもなお迫ってくる闇の魔力の影響か…じっとりと汗をかいていた。


「やはり。まだ…マナは全て全身を通ってはいないのに」

「グロリア様、それは…本当ですか?…これ以上の魔力量の検査となると…」

「もう十分でしょう」


アドリアナを検査室内に残し、グロリアは外で待つリュウの元へ報告に向かう。


「リュウ殿……予想以上の魔力量でした」

「そのようですね。アナの様子はどうでしょうか?」

「特に変わりないように見えます」

「そうですか。…すでに馴染んでいるということか…」

「ただ、今の状態では周りへの影響が大き過ぎますね」


溢れ出る魔力は抑えなければならないが、アドリアナはまだ何も知らない。

アイリーンは願うことで無意識ながらも魔力を制御し、隠すことなどはむしろ得意であったが…それはアイリーンの特性によるものだ。


「…困りましたね…」

「ここまで多いと…すぐに制御は難しいかと」


魔力を再び封印するのは勿体ない気がする…そう思ったリュウは、しばらく考えていた。

少なくとも、グロリアには…立ったまま1人・・で悩んでいるように見えた。


    ♢

『ナイト』

『主、お呼びでしょうか』

『お前は俺の“眷属のような・・・もの”だが…正式な眷属ではないよな。どうだ?大切なあの方のところへ行ってみないか?』

『主……それは、ご命令でしょうか』


ナイトは、リュウに切り離される命を受けずとも自由の身なのだが…リュウを気に入り、長く付き従ってきた。


『いやいや…まぁ、アナも眷属など今はまだ分からないだろう。
ネックレスも手放してしまったから、しばらく守ってやってはどうだ?…魔力量を調整してやらないとな…』

『影に潜み、魔力を喰えばいいのですね』

『アナは純粋な闇属性の魔力持ちだし、膨大な魔力を必要とするお前には合っているだろう…そう思ってな』

『あの方を…お守りいたします』


リュウの中からナイトの気配が消えた。

    ♢


「グロリア様、一度…アナを検査室の外へ連れ出してみてもよろしいでしょうか?」

「…それは…」


“危険である”そうグロリアは言いかけて…ピタリと口を閉ざす。

リュウが無意味な行動などするはずがない…それに、一瞬だが大きな魔力の揺らぎも感じていた。


ここでの答えは『YES』しかない。


「あ…失礼、では…そういたしましょう」


──────────


リュウとアドリアナは、再び豪華なグロリアの私室で薬草茶を飲んでいた。


「お疲れ様でした。後は、マナを導く手解きをいたしましたら…今日は終わりです」


グロリアは、側仕えの魔法使いクリスタを呼ぶと…隣りにあるグロリア専用“瞑想室”でアドリアナに指導するよう指示した。

マナは魔力の源となるものなので、魔法使い教育では必ず最初に指導を受ける。
瞑想室内はグロリアが魔導具で監視しているため、何も心配はいらない。




「リュウ殿…ご令嬢は16歳でしたね…」

「はい、アナは社交界デビューもこれからなので…」

「…気の早い話だと思われるかもしれませんが…」


グロリアの話では、6人いる闇属性の使い手の中で4人はすでに同属性のカップル。
つまり、女性は100%闇属性の男性と結ばれているということ。

魔力持ち同士は属性相性を気にすることもあるが…結婚自体は自由なはず。
そうなると…子作り事情によるものでは…と、リュウは嫌な感じがしていた。


「闇属性の男性が、闇属性の女性に固執してしまっている…なんてことは?」


ここでもアドリアナは狙われてしまうのだろうか?と、リュウは不安な気持ちになる。

グロリアは薬草茶を一口飲み…ふぅ…と息をつく。


「闇属性の男性は、どうしてか…同属性の女性を強く求めるのです。女性が拒めないくらいに深く愛情を注ぎ続ける姿を実際目にしました。

あれは…獣人族がつがいに求愛するのと似ていますね」


純血の獣人族は、特有のフェロモンで番う相手が分かるという。出会えば最後、離れることはできない。

闇属性の男性がそれに近いものだとすれば、子作りというか…そもそもそれが本能であり…抗えないということ。


「私の知る限り、闇属性の男性から一心な愛を受けた女性は皆幸せです。
ただ…リュウ殿もご存知の通り、ご令嬢のお相手となるのは第二皇子殿下です。もし、求婚されれば…拒むことは難しいかと思われます」


10年に1人といわれている闇属性の魔力持ち。16歳のアドリアナの相手が25歳の皇子殿下となるのは…必然的。

因みに、残る1人の男性は高齢で未婚である。



魔力の有無は生まれつきだが、遺伝ではない。
そのため、闇属性のカップルに子供が生まれても、魔力がなかったり他属性であったりする。

稀な属性はそれだけで要らぬ苦労も多い…『一代限りでループはしない』…これが神の采配というものか?

…だとするならば…アイリーンとアドリアナは奇跡の母娘といえるだろう。


「それほど強く求めるのですか…。殿下のことはさておき、封印を解く前にアナには話しておくべきだったような気がしますが…?」


グロリアは眉を下げ…少し申し訳なさそうな顔をした。


「お2人はもう出会ってしまわれた。
殿下は、ご令嬢への好意を隠せてはいませんでしたよ?
あのご様子では…たとえ魔力封印されていても、ご令嬢に惹かれていくのは時間の問題でしょう」


アドリアナへの好意?

リュウは、昨日の昼食会でアレクサンダーの言動がどうもオカシイ・・・・と感じたことを…ここで思い出す。


「なるほど…知らぬ間に…殿下に“春”が来ていたのか。いや、俺が引き合わせてしまったのか?」


リュウは他人の色恋には超ニブい男だった。


「リュウ殿は、その…ご令嬢のことを?」

「は?いえいえ、母親代わりをしているようなものです」

「え?母親…?…アハハ、そうですか。ご令嬢は、リュウ殿を慕っているようですからね」


その後、指導を終えたアドリアナは…タイミングよくやってきたランセント侯爵家からの迎えの馬車で、リュウと共に一旦侯爵家へと戻った。







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