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52 昼食会(アレクサンダーside)

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ランセント侯爵家へ行く前に、初対面のアドリアナ嬢との顔合わせも兼ねて…ランチを楽しむことにした。


俺がテラスに足を踏み入れると、メイドのアリサが…

『とても可愛らしいお嬢様です』

…と、俺にそっと報告してきた。


俺に仕えるメイドの中には、隠密部隊…特に“暗部”といわれる暗殺部隊に所属する者たちも護衛として紛れている。アリサもそうだ。

……へぇ…そうか……俺はテラスの奥へと目線を移す。

淡い紫色の大きな瞳をした銀髪の少女と目が合った。

頬はほんのりピンク色をして、少女の若々しく愛らしい容貌に色を添えていた。


……え……何だろう、目が離せない。


「…殿下、…社交スキルとやらは…どこにいきました?」


リュウの声でハッと我に返る。



アリサの言った通り、アドリアナ嬢は…何だか小動物のようでカワイイ。
つい…口までサンドイッチを持っていってしまったが、パクリと咥えて食べてくれる。

俺には弟妹がいないから…歳が離れている妹…みたいな気持ちで見てしまうのかな?

しかし、アドリアナ嬢の美しい銀髪に触れてみたい…そう思っている自分に…ちょっとゾワッとした。


「殿下、さては…寝てないんですね」


俺は疲れているのか…?


リュウと話していても、美味しそうにフルーツを食べるアドリアナ嬢に目がいく。

…次はもっと落ち着いたときにでも…ゆっくりと…。


「…つ…次…?…」


アドリアナ嬢は驚いた様子で俺を見てくる。


「…ん?…アドリアナ嬢は…嫌かな?」

「そんなっ、そのようなことは…ございません…」


ほんのりピンク色だった頬が、真っ赤になってしまった。


「殿下、アナを苛めないでください」


別に苛めてなんかないだろう…それよりも…。


「私も、アドリアナ嬢をアナ・・と呼んで構わないだろうか?」

「…………?」


おや?首を傾げたまま可愛く固まってしまった。


「殿下、本当にやめてください。アナが困っています」

「で、殿下の…お好きなように…どうぞ」

「ありがとう……アナ・・



──────────



昼食後…アドリアナ嬢は身支度を整えるため、アリサと一緒にサロンを出ていった。

俺とリュウは魔塔へと向かう。
魔塔の隣にある治療院には、バーグリッツ子爵家のサロンで被害にあった令嬢たちが一時保護されている。


「大魔法使い殿」

「…殿下、リュウ殿も…」


魔塔の附属施設である治療院には、魔塔に所属する治癒師が従事している。グロリアは治癒師たちを集めて、何やら話し合いをしている最中のようだった。


「皆も…ご苦労。令嬢たちの様子はどうだろうか…?」

「意識はあるのですが、意思の疎通が難しいといいますか…そう感じるご令嬢が4人いらっしゃいます」

「落ち着いている状態なら、私たちと会っても問題はないかな?」

「お会いになりますか?…では、こちらへ」


グロリアに案内され、治療室へと向かった。
2人の治癒師が令嬢たちの状態を常に診ているという。


「…人払いを…」

「畏まりました」


大きな部屋の中には4つのベットがあり、それぞれ衝立で仕切られていた。

どの令嬢も…上半身を起こした状態でぼんやりと正面を向いていて、周りの様子や他の令嬢には興味がないようだ。

俺とリュウが室内に入っても、気付いてはいるが特に反応しない…?…俺は一応皇子なのだが…。


「子爵夫人のサロンに参加していた令嬢たちだ。呪薬を飲まされていたことは分かっているが、この状態からどうするべきなのか…正直…判断に困っている」


俺は、誰よりもリュウの見解を聞きたいと思っていた。


「…様子を見てみますかね…」


リュウは『ご令嬢』と、1人ずつ声を掛けていく…緩慢な動きだが…3人は『ごきげんよう』などと当たり障りのない返事をしたり、目線を合わせることができるようだ。

1人は、かなり反応が鈍い。


「まぁ、確かに状態はよくありませんね。元の身体に戻すことは難しいですが、命を救うことなら…ギリギリどうにかできるかも」

「…っ!!…」


俺は…心の底では…もう聖魔法以外に頼るところはないと諦めていたし、それも万全ではないだろうと考えていた。
だから、リュウの言葉に信じられないくらい驚く。


「リュウ、それは本当か?!本当に…」


リュウは頷き…憐れむような眼差しで令嬢たちを眺めた。


「こうして、気力が弱った者から餌食になっていったのでしょう。こちらのご令嬢たちは、わずかですが目の奥に反応がありました。まだ…生きようとしている」

「…目…?」


何の感情もない虚ろな目だと思ったが…そうではなかったのか…。


「ただ…呪術による“傷”ができてしまっているので…毒や刺激に弱く、悪い気が通りやすい。
この先、不自由な思いをしなくてはならないでしょう。
聖魔法で回復をしてもらうことで、多少マシにはなるかもしれませんけれどね」


それから・・・・…とリュウは言葉を続けた。






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