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42 本当の話2(アドリアナside)

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リュウさんから話を聞いて、私の頭の中のいろんなところが大騒ぎしているわ。


ずっと私を愛して守ってくれていたお母様の気持ち…リュウさんは私を気遣って、言葉を選んで話してくださった。


教えて貰えてとてもうれしい。
邸ではお母様のことを話してはいけない雰囲気だったから、今まで誰にも聞けなかったもの。

お母様はもうこの世にはいない。魂の欠片だけを私の手元に残して…逝ってしまった。

お父様は、お母様に似た私を…毎日どんな気持ちで育てていたのかしら?
今さら遅いかもしれないけれど…いいえ、遅くたって構わない!お母様は『魔女ではない』と、お父様には絶対に知っておいて貰いたい。



バーグリッツ子爵家の話には愕然としたわ。悪質な計略に対しては怒りしかない。

マーチン様が望んで平民になった理由が、今になって分かった気がする。
異常な親や親族たちから…逃れたかったのよ。

心待ちにしていたというお相手の女性の懐妊…それも計画だったとは思いたくないけれど。

…何だかとても複雑な気持ち…。



それにしても、魔法って本当に不思議。

今までは『生活魔法という便利なものがある』とか…その程度の知識しかなかったわ。
それすら、身近には使える人なんていなかった。

リュウさんは、私とえにし?を結んだと言っていたし…何だかサラッと見たことも聞いたこともない魔法を使うのよね。
きっと、かなり強い魔法使いなんだと思う。

…どうして冒険者なのかしら…?


ふふっ、リュウさんはリュウさんでしかないわ。

どこか素っ気ない態度をするけれど、優しくて…心のあたたかい人。

私にも、魔力があるのなら…お母様やリュウさんのように…魔法を使いたい。


──────────


私は子爵家の使用人たちのことが気になって、リュウさんに聞いてみました。


「執事は頑張っていたし、料理人は食事の支度にだけ来ていたよ。メイドは…時々…?」

「馬丁は…?…馬はいましたか?」

「馬はいなかったな、売ったんじゃないか?」

「…あっ…」


詐欺にあったのだから…財政難の我が子爵家なら、馬を売ったと考えるのが妥当ね。

私が馬で森まで逃げた話をすると…リュウさんからとんでもない話が出た。


「アナが邸を出た時から、男たちが後を追いかけていたはずだよ。攫うつもりでね」

「えぇ?!」


まさか、ウソでしょう?


「家出をした子爵令嬢が行方不明になった…よくありそうな話だろう?
だけど、アイリーンさんはそんな悪事を許さなかった。夜の闇でアナを隠して…安全な森まで守り通した」

「あの真っ暗闇で無事に森へたどり着いたのは…お母様が導いてくださったから?…」

「男たちはアナを見失って焦っただろうね。5人の目があっても、アイリーンさんには敵わなかった。…本当によく無事で…」


私の無茶な行動にリュウさんも呆れたようで…苦笑していました。


「あ、ネックレスが力を使い過ぎて一時的に魔力不足になったんだろう。
それで…アナはその夜眠れなかったんじゃないのか?」

「え?…そういうこと…だった…の?」


私は何も気付かず、何も知らず…森で過ごしていたのね。


「知らないうちに、助けられていたんですね…。
そういえば…森では光が導いてくれたり…ユニコーンにも会いましたわ」

「ユニコーンまでいたのか…あれは、女性が好きなんだ。森の中で…光がアナを導いたって?」

「はい。行く先を案内してくれたんですよ」

「それは…森にいた精霊だと思うけどな。姿ではなくて、光だけ…精霊光を見たんだろうな」

「え!精霊でしたの?!」

「うん。母性というか…アイリーンさんの魂に共鳴したのかもしれない」


“土の精霊かな?”と、リュウさんが独り言ちています。

まさか精霊だとは…考えもしなかったわ。


「今思えば…森の中は快適だったのかも…」

「俺なんか、ずっと身体がピリピリしてたのに……めちゃくちゃ不公平だよな…全く」


冒険者なので穢れ確定でしたものね…しかも、皆に童貞扱いまでされて。

あら?思い出してしまったのかしら…リュウさんがムッとしたお顔に…。


「リュウさんが森にいてくださったから、私は今ガンダナ王国でこうして無事に過ごせているのですわ」


ありがとうございます…と、心から感謝の気持ちをお伝えしました。




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