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41 本当の話(リュウside)
しおりを挟む「俺の…想像の話にはなってしまうんだけど…」
「聞かせてください。私、お母様のことを…もっと知りたいですわ」
もう会えない母親でも、その存在を忘れたことなど…アドリアナはないのだろう。
ネックレスもずっと肌見離さず着けていたのだから。
「“厄災の魔女”と蔑まれてきたアイリーンさんは、自分が母親になったことで大きな不安を1つ抱え込んだんだ…
『この子が闇の魔力持ちで、魔女だと迫害されたらどうしよう』と。
とても心配で、毎日毎日強く願ったと思う…どうか魔力が出ませんように…って。
アイリーンさんは強い魔力を持っていたけれど、その正しい使い方を誰にも教わっていない。
だから…強く願うことで自分が魔法を発動していたとは気付かずにいた…」
「それは…どういう…?」
「…アナは…アイリーンさんによって魔力を封印されている状態なんだ」
ナイトはアドリアナにも闇の魔力があると言った。
今日…俺が彼女のステータスを再確認すると、やはり魔力には何も表示されていない。
そう、うっかりしていたが“0”とも表示されていないのだ。
「封印…?…それは、本来ならば私にも魔力がある…ということでしょうか?」
俺が黙って頷くと、アドリアナは両手で頬を覆い“まさか”といった表情をした。
「魔法についての知識が全くないのに…アイリーンさんは封印魔法を使った。強く願うことは…多分祈るような感じで…魔法を発動する引き金になったのだろうと思う。
普通では考えられない。そもそも魔力封印などは誰にでもできることではないからね。
奇跡に近い…凄い魔法使いだよ…」
「何だか信じられません。私が魔力持ちで…お母様は凄い魔法使いだと?」
「間違いないと、俺は思う」
アドリアナは目を閉じ、自分の身体をギュッと強く抱きしめた。
「私と…お母様は…同じ…?」
「アナは、お母さん似だったんだね」
「フフッ……そうみたいです」
「アイリーンさんは、アナをとても愛していた。それは、そのネックレスが証明している」
「ネックレスが?」
「アナが大人になるまで“守る”という強い想い…アイリーンさんの魂の欠片が入っているんだよ」
「魂?…これは…ずっと私の御守りで…」
アドリアナはネックレスの石を優しく握りしめた。
「その小さな石に、強い魔力が込められていた…普通なら石が保たずに壊れてしまうくらいのね。
アナはもう大人だから、力は少し弱まってしまったかな…」
魔法付与したものや魔導具と似てはいるが、本質は異なる。
「大人になるまでということなら、16歳になったあの日…リュウさんたちが助けてくれなかったら…私、危なかったですよね」
偶々にしても、そのタイミングで襲われてしまうとは。
今にして思えば、ナイトもアイリーンに呼ばれたようなものだろう。
「本当に奇妙な巡り合わせだったよ。
アイリーンさんは、無事に成長して欲しい…アナの側にはいられなくても守りたい、そう強く願ったんじゃないかな?
魂の欠片を残すほどだから…とても深い愛情を感じるね」
誰にも助けてもらえない…守ってもらえない…その悲しみを知っていたアイリーンは、幼い娘の平穏を強く願ったに違いない。
その想いは、魂の欠片となって魔力の核になった。
「…お母様…ありがとう」
こらえきれずにアドリアナは泣き出した。
…あぁ、また泣かせてしまった…。
俺は、母であるアイリーンの願いや想いを…正しく代弁できているだろうか…。
「魔法使いは属性で分けられるけれど、その特性や特殊能力は個々に違うんだ。
アイリーンさんは夜、そして隠密や隠蔽、後は母性とか…そういった特性が強いかな?と思う」
夜については、闇属性でもその影響力や強さに差はあるが一般的な特性だ。
隠密や隠蔽は、迫害を受け追われることがそうさせただろう。
実際、村からいなくなったアイリーンを帝国の魔法使いたちが捜したが…見つからなかったのだ。
母性はアドリアナさんへの愛である。
「夜…ネックレスの石が濃い紫に変わるのは、何か関係していますか?」
「魔力が強くはなっているかな…。夜、気になることはあった?」
「え…?…えっと…何でしょう。…毎日熟睡できるとか?悩みがあっても…眠れます…」
へへっとアドリアナが恥ずかしそうに笑った。
アイリーンの闇の魔力は、安らかな眠りに導く効果があるのだろうか。
「あ、でも森に入った日?…興奮していたからか眠れませんでしたわ。その日以外は今もぐっすり!」
「へぇ~凄いな。安眠効果はずっと続いているんだな」
胸を張り自慢気に話す様子を見て…俺がやや大袈裟に褒めると、アドリアナはクスッと笑った。
「さて、じゃあ次は…」
俺は、バーグリッツ子爵家の邪教信仰やハルブリック伯爵家の詐欺犯罪について簡単に説明した。
皇子殿下により調査中ではあるが、アドリアナは標的になっている…話さないわけにはいかない。
「それは…本当ですか?まさか、バークリッツ子爵家でそんなことが。恐ろしいわ…マーチン様と結婚しなくてよかったと心底思います。
婚約破棄と慰謝料、詐欺まで…全てが繋がっていたんですね」
「しばらく不安だろうけれど、この件は帝国の騎士団が動いているから問題はない。
アナは俺が守るよ、アイリーンさんの代わりにね」
「リュウさんには、出会ってからずっとお世話になっていますわ…」
「何だかんだで…手助けせざるを得なくなったなぁ…」
こんなはずではなかったのだが、気付けば深く入り込んでしまっていた。
ふぅ…と息を吐きながら、俺は指先で空間に複雑な魔法陣を一気に描いた。これは、すでに組立て済みの魔法陣を展開するのとは全くわけが違う。
「…アナ、手を出して…」
アドリアナは小さくキラキラ光るその魔法陣を見て、何が起こるのかと不思議そうにしながら両手を差し出す。
俺が左手の甲の部分に軽く触れると、魔法陣がスッと吸い込まれていった。
「わっ!えっ?」
「アナと縁を結んだんだ。何かあったら…これからは俺の“名”を喚ぶこと。
声に出さなくても、魂で喚べばいい。分かるね?」
アドリアナと目をしっかり合わせ…俺はそう言い聞かせた。
「は…はい。…これが…魔法…なんですね」
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