目立たず平和に暮らしたい最強冒険者、貴族令嬢の家出に巻き込まれる。

13 エルフの薬屋２（リュウside）

アドリアナのことはリンデルに任せようと、俺は重い腰を上げた。…が、リンデルから待ったがかかる。　


「知ってた？あの子、昨日で16になったんだって…とんだ誕生日だったわけよ…気の毒に。
傷は消毒して処置済み。今は入浴の許可を出せないから、軽く身体を拭いて服も着替えさせたけど…まだ清潔とはいえない。

ゆっくり休ませるにはさ、リュウがしてあげられることがあるんじゃない？腰まである長い髪は貴族の証みたいなものなのに…あれじゃ可哀想だよ…」


確かにリンデルの言う通りだ。


…ふむ…

俺は、処置を終えたアドリアナの元へ向かい声をかけた。


「アドリアナさん？」

「リュウさん」


アドリアナは簡易なベッドから上体を起こし、俺を見てうれしそうに笑った。

目が赤い？泣いていたのか？


「怪我が治るまで、しばらくはここで世話になるといい。彼女は俺の友人だから心配はいらない。
…それから…少しの間、目を瞑っていて欲しいんだが」


少し戸惑い…何か言いたげな様子ではあったが、素直に目を閉じてくれた。

俺は『手に触れるよ』と一声かけてアドリアナの両手をそっと握り、浄化作用のある魔法を発動した。

フワリと髪が舞い、一瞬で身体の汚れは消し飛んだ。


「目を開けて…体調は大丈夫？気分は？」


魔力を持たない者は、総じて身体に直接影響する強い魔力の波動に弱い。

身体の内部から作用する馴染みやすいポーションとは違い、外部から放つ浄化の魔法は周りが光るから目を瞑った方がいいし、合わない魔力によって体調を崩すことも珍しくない…。

十分注意して力をセーブしたが…？


「えぇ…大丈夫ですわ。今のは…？」


アドリアナは自分の両手や髪を触りながらそう答えた。どうやら問題なさそうだ。


「そうだな、風呂…みたいなものかな」

「ふろ？…あ、お風呂？…もしかして魔法を使われたんですの？」

「まぁ……うん。俺も風呂に入りたいから宿に戻るよ。夕方にまた顔を出す」

「あ!!」

「…ん？…」

「あの…ありがとうございました！」

「よく休んで」


ヒラヒラと手を振り処置室を出る。


廊下に出てホッと息をついた。
魔法に関してはあまり情報を与えたくないが、探ってはこなかったな。

上位貴族としての正しい教育を受ければ立派な淑女になりそうなのに…家を捨てたいとは…勿体ない話だ。


スープを運ぼうとしていたリンデルに、アドリアナを外には出さないようにと念押しして薬屋から脱出。


これは大成功といっていい。


さて、宿に戻って風呂と食事、後はギルドへ薬草を納品しに行って…デイルとも話をしなきゃな…で、また薬屋へ。


俺、超忙しくないか？
　

……はぁ～……寝たい……。