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最終章 そこに踏み入るには

第243話 飢えを満たす ※

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 まるで酩酊しているかのように、身体全体が熱を持つ。意地もプライドも羞恥も、ぐずぐずと崩れて溶けていく。
 今はただ、目の前の男のものでいたい。全て預けたい。注がれる愛に応えるように、想いが滲みだしてくる。

 唇を割って入ってきた舌が、優しく歯列を撫でる。ぞくぞくと尾骨が痺れ、唇の隙間から熱い吐息が漏れてしまう。

「……っは、あ……っ」

 その口づけに激しさは無く、労わるようなものだった。それなのに意識はとろりと蕩け、熱の籠った瞳でリーリュイを見つめてしまう。
 見つめられたリーリュイはそっと唇を離すと、穏やかに眉尻を下げた。

「……愛おしいな、光太朗。本当に、心の底から愛おしい」
「……俺、も……」

 愛おしいなんて言葉じゃ足りなかった。このまま溶けて、リーリュイの一部になりたい。溶けて混ざり合って、ずっと多幸感に包まれていたい。

 シャツの裾から、リーリュイの大きな手が潜り込んでくる。触れられた肌が火をともすように熱くなった。堪らず身を捩ると、リーリュイの唇が鼻梁に落ちてきた。

「すまない、光太朗。身体に負担が……」
「……大丈夫。……言ったろ? リュウに触れられると、身体が軽くなるんだ……」

 光太朗は少し顔をずらして、リーリュイの唇に吸いつく。目の前のリーリュイの瞳がゆらりと揺れるのが見えた。光太朗が唇を離すと、彼はくしゃりと顔を歪める。

「……愛している、光太朗」
「俺もだよ。死ぬほど愛してる」

 「死んだら許さない」リーリュイはそう言うと、光太朗を抱き込んだ。片手で光太朗の下穿きを取り払い、リーリュイの首に光太朗の腕を回させる。
 大きな手が中心に触れ、光太朗はリーリュイの首へと縋った。張り詰めていた屹立をゆるゆると撫でられると、太腿が痙攣する。先走りがぐちゅぐちゅと音を立てると、耳が侵されて快感が突き抜けた。

「___ っつあ? だめ、だ……俺……」
「達しそう?」
「……っ!? ……ッあ……あ……!」

 耳元で囁かれ、光太朗はあっという間に高みへ導かれた。腰が力を失くし、リーリュイへへたりと身を寄せる。

「上手だ。そのまま力を抜いていて」

 後孔にリーリュイの指が触れる。襞をゆっくりと撫でられると、ねばついた粘液の音がした。
 光太朗の放ったものを指に纏わせているのか、リーリュイの指はすんなりと中へ入ってくる。異物感が這い上がるが、不快ではなかった。

 何度が抜き差しされると、次第に感覚を思い出し、じわじわと快感がせり上がってくる。

「……っ、あ……ぁあ……ッ」

 光太朗が喘ぐと、リーリュイの指が動きを早めた。指が2本に増え、光太朗のいいところ
 を的確に攻めてくる。
 腰にも足にも力が入らず、快感が逃せない。光太朗は自身の手首に爪を立て、歯を食いしばった。

「こら、光太朗。我慢するな」
「……っあ、だってこれ……っだめなやつ……っ!」

 腰は重くて動かないのに、尾骨のあたりにどんどん熱が溜まっていく。無意識にリーリュイの指を締め付けて、快感を拾い上げてしまう。
 抗おうとした所で、リーリュイに耳をぞろりと舐められた。同時に3本目の指が差し入れられる。

「___ッう!? あぁあァ……っ!!」

 射精感を伴わない、激しい絶頂に身を震わせる。全身が痙攣した後は、激しい脱力感が襲う。もうどこにも力が入らない。

 リーリュイは膝の上に向かい合うように光太朗を座らせ、腰に手を回した。「しっかり掴まって」と一言呟くと、光太朗の後孔に屹立を押し当てた。
 中へと進む肉杭が熱くて、光太朗は圧迫感に身を捩る。しかし不思議と痛みはなく、歓喜だけが溢れ出る。

 目の前のリーリュイが、ただ愛おしい。腕を絡めて頬へと口づけると、リーリュイが噛みつくように唇を重ねてくる。
 リーリュイを確かめたくて、いま側に居ることを確信したくて、光太朗は夢中になって彼を求めた。
 飢えて渇望した身体が、精神が満たされていく。その感覚が、堪らなく幸せだった。



 ◇◇◇


 目を覚ました光太朗は、横になったまま、部屋中をぼんやりと見渡した。
 そこには光太朗以外誰もいない。
 しんと静まり返った部屋に、小鳥のさえずりが潜り込んでくる。
 
 思考を整理して、光太朗は小さく溜息を吐いた。

「朝か……朝だな……。んん、やっぱりそうか……夢だったか……」

 光太朗は身体を起こし、ブランケットをぺろりと捲る。そこに放った痕跡が無い事にほっと胸を撫でおろした。


 昨晩のリーリュイは、やはり夢だった。そうあっさりと結論付けてしまったのは、鬱々としていた気持ちが不思議と軽いからだ。体調もすこぶる良い。
 寂しかった気持ちも落ち着いて、満たされているように感じる。リーリュイの幻は、やはり未練を断ち切るために来てくれたのだろう。

 光太朗はぐっと伸びをすると、欠伸を一つ零す。一緒に笑いも零した。

(……にしてもだ。……俺もまだ若いなぁ。あんなエロい夢見るなんてさぁ……)

 リアルな夢だった。リーリュイの体温や吐息までもが鮮明に思い出せる。
 あんな夢ならば、毎晩見てもいい。そう思いながら、光太朗はまたくすくすと笑う。


「ああ、腹減ったな。なんか食うか?」

 腹の子に向かって話しかけていると、光太朗は自分の足元に釘付けになった。自分の寝ている敷物が、いつもの物ではない。
 触れてみるとかなり分厚く、手触りも滑らかだ。それは間違いなく『意地でも肌を傷つけない』あの素材が使われている。

 一瞬思考を止めていると、扉がコツコツと叩かれる。光太朗はびくりと肩を揺らし、ブランケットを引き上げた。


「____ 光太朗? 起きたのか?」
「……!」

 心臓がばくばくと暴れ出し、光太朗は座ったまま後退った。窓際の壁に背中が当たると、ひゅっと息を呑む。

(……う、嘘だろ。まさか……現実か……?)

 昨晩の光太朗は精神も身体もボロボロで、かなりぼんやりしている状態だった。しかも極度のリーリュイ不足で、飢餓状態でもあったのだ。

 リーリュイが自分を覚えていて、迎えに来てくれた。正に夢のような展開に、夢中でリーリュイを求めた事を覚えている。
 あれが現実であったとするなら、今更ながら身の置き所が無いほど恥ずかしい。

 恥ずかしいだけではない。リーリュイが自分を覚えているという、奇跡に近い事が現実になってしまった。
 意識が鮮明になった今、驚愕や歓喜を通り越して、訳の分からない思考にすり替わって行く。
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