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ゼロになる
第206話
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先ほどの話は聞こえていなかったとは思うが、相手はリーリュイだ。光太朗は焦るが、段々と見えてきたリーリュイの顔に驚いた。
光太朗を見て、リーリュイは嬉しそうに微笑んでいる。喜びを隠せず、溢れさせている顔だ。
「リュウ? どした?」
「光太朗! 戴冠式に、リガレイア国のカディール様が来るぞ!」
「カディール、さま?」
「リガレイア国王の伴侶だ」
光太朗が目をぱちくりさせていると、リーリュイがその身体を抱き上げた。光太朗の身体を高く抱え上げ、額と額をくっつける。
心底嬉しそうな顔を間近に見ていると、光太朗もつい頬が緩んでしまう。
「君の病の事を、やっと聞くことが出来る!」
「おいおい、そんなに喜んで大丈夫か? 解決策は無いかもしれないぞ?」
「またそういう事を言う。何か掴めるはずだ」
リーリュイは光太朗を抱えたまま進み、寝台に腰掛けた。腕に光太朗を抱いたまま、深く息を吐く。
「あとは……話せる機会があるのかどうかだ。マシュー兄上の事もあって、宴は開かれない。戴冠式だけとなると、時間がない」
「……ザキュリオとはあんまり仲良くないのに、来てくれるんだな?」
「ああ。意図が分からず父上は警戒しているが、あちらは新たな皇太子の誕生を祝いたいと言ってきている。こちらから拒むことは出来まい」
「……そっかぁ……」
「…………光太朗……?」
リーリュイは光太朗の頬を挟み、じっとその瞳を覗き込む。そして僅かに首を傾げて、不満そうに眉根を寄せた。
「君……また何か考えて込んでいるな? ……あれこれ思い詰めるのは止めなさい。光太朗は、身体を治すことが最優先だ。……朝食は食べた? 今日は体温が低いようだが、寒いんじゃないのか? そもそも君は、先ほど本を読んでいただろう? 読むのはいいが、寝台の中で読みなさいと何度も言ったはずだ」
諫める言葉を連ねながら、リーリュイは鮮やかな手並みで光太朗を寝台へと納めた。
ここで口答えをすると、更なる言葉の雨が降ってくる事になる。光太朗は、口を噤んだまま硬い笑顔を浮かべるしかなかった。
しかしリーリュイが自身の詰襟の釦を外し始めた途端、光太朗がその手を慌てて押さえる。
「リュウ、まだ仕事中だろ。今日は比較的体調が良いから、無理しなくていいぞ」
「……君は分かっていないな。これは私の為でもある」
「なんだそれ」
あっという間に裸になり、リーリュイは寝台の中に入り込んだ。
裸の彼に抱きしめられると、その身体の暖かさにほっと息が漏れる。自分の身体がこんなにも冷えていたことに、光太朗は気付きもしなかった。
ほっと息を吐いたのは光太朗だけではなく、リーリュイも安堵したように息を吐き出す。
「……この時間が、私にとって一番の幸せだ。君といると、生きていると実感できる」
「昼間、精力的に動いているのにか?」
「そうだ。だからこの行為は私の為でもある」
幸せそうに微笑むリーリュイを見ると、光太朗の胸はひどく痛む。
それを悟られないように微笑み返していると、リーリュイの顔が少しだけ歪んだ。突発的な痛みに耐えるような表情だ。
最近のリーリュイは、こうした表情を浮かべることが多くなった。
「リュウ、また頭痛か? 待ってて、薬を……」
「いや、良い。……このまま少し寝る」
寝台から出ていこうとする光太朗を引き寄せ、リーリュイはその腕の中に囲い込む。
断固として離さない。そんな想いを感じる腕を、光太朗は拒否する事は出来ない。
痛みに眉根を寄せたリーリュイに、光太朗は手を伸ばした。リーリュイの前髪を梳いて、少しでも痛みを和らげるように額を撫でる。
その手をぼんやりと見ていたリーリュイが、ぽつりと零した。
「……光太朗……? ……そ、の……傷……どうした……?」
「…………傷? 傷なんて無いよ……? 大丈夫だ、リュウ……」
リーリュイの眠りを誘うように、光太朗は静かに声を流した。抗えない睡魔に翻弄されていたリーリュイは、光太朗の声に導かれるように瞼を閉じる。
彼の髪を撫でながら、光太朗は今度こそくしゃりと顔を歪めた。自身の腕を見て、唇を噛み締める。
光太朗の左腕には、フェンデの焼き印がある。焼き印の下に走るのは、幾つもの傷跡だ。
(……リュウ、あんたが一番分かってるはずだ。……大好きな人が苦しんでいるのは、何よりも耐え難い……)
全ての思考を投げ出して、光太朗も瞼を閉じる。
今はただ、リーリュイの腕の中で幸せに眠りたかった。
光太朗を見て、リーリュイは嬉しそうに微笑んでいる。喜びを隠せず、溢れさせている顔だ。
「リュウ? どした?」
「光太朗! 戴冠式に、リガレイア国のカディール様が来るぞ!」
「カディール、さま?」
「リガレイア国王の伴侶だ」
光太朗が目をぱちくりさせていると、リーリュイがその身体を抱き上げた。光太朗の身体を高く抱え上げ、額と額をくっつける。
心底嬉しそうな顔を間近に見ていると、光太朗もつい頬が緩んでしまう。
「君の病の事を、やっと聞くことが出来る!」
「おいおい、そんなに喜んで大丈夫か? 解決策は無いかもしれないぞ?」
「またそういう事を言う。何か掴めるはずだ」
リーリュイは光太朗を抱えたまま進み、寝台に腰掛けた。腕に光太朗を抱いたまま、深く息を吐く。
「あとは……話せる機会があるのかどうかだ。マシュー兄上の事もあって、宴は開かれない。戴冠式だけとなると、時間がない」
「……ザキュリオとはあんまり仲良くないのに、来てくれるんだな?」
「ああ。意図が分からず父上は警戒しているが、あちらは新たな皇太子の誕生を祝いたいと言ってきている。こちらから拒むことは出来まい」
「……そっかぁ……」
「…………光太朗……?」
リーリュイは光太朗の頬を挟み、じっとその瞳を覗き込む。そして僅かに首を傾げて、不満そうに眉根を寄せた。
「君……また何か考えて込んでいるな? ……あれこれ思い詰めるのは止めなさい。光太朗は、身体を治すことが最優先だ。……朝食は食べた? 今日は体温が低いようだが、寒いんじゃないのか? そもそも君は、先ほど本を読んでいただろう? 読むのはいいが、寝台の中で読みなさいと何度も言ったはずだ」
諫める言葉を連ねながら、リーリュイは鮮やかな手並みで光太朗を寝台へと納めた。
ここで口答えをすると、更なる言葉の雨が降ってくる事になる。光太朗は、口を噤んだまま硬い笑顔を浮かべるしかなかった。
しかしリーリュイが自身の詰襟の釦を外し始めた途端、光太朗がその手を慌てて押さえる。
「リュウ、まだ仕事中だろ。今日は比較的体調が良いから、無理しなくていいぞ」
「……君は分かっていないな。これは私の為でもある」
「なんだそれ」
あっという間に裸になり、リーリュイは寝台の中に入り込んだ。
裸の彼に抱きしめられると、その身体の暖かさにほっと息が漏れる。自分の身体がこんなにも冷えていたことに、光太朗は気付きもしなかった。
ほっと息を吐いたのは光太朗だけではなく、リーリュイも安堵したように息を吐き出す。
「……この時間が、私にとって一番の幸せだ。君といると、生きていると実感できる」
「昼間、精力的に動いているのにか?」
「そうだ。だからこの行為は私の為でもある」
幸せそうに微笑むリーリュイを見ると、光太朗の胸はひどく痛む。
それを悟られないように微笑み返していると、リーリュイの顔が少しだけ歪んだ。突発的な痛みに耐えるような表情だ。
最近のリーリュイは、こうした表情を浮かべることが多くなった。
「リュウ、また頭痛か? 待ってて、薬を……」
「いや、良い。……このまま少し寝る」
寝台から出ていこうとする光太朗を引き寄せ、リーリュイはその腕の中に囲い込む。
断固として離さない。そんな想いを感じる腕を、光太朗は拒否する事は出来ない。
痛みに眉根を寄せたリーリュイに、光太朗は手を伸ばした。リーリュイの前髪を梳いて、少しでも痛みを和らげるように額を撫でる。
その手をぼんやりと見ていたリーリュイが、ぽつりと零した。
「……光太朗……? ……そ、の……傷……どうした……?」
「…………傷? 傷なんて無いよ……? 大丈夫だ、リュウ……」
リーリュイの眠りを誘うように、光太朗は静かに声を流した。抗えない睡魔に翻弄されていたリーリュイは、光太朗の声に導かれるように瞼を閉じる。
彼の髪を撫でながら、光太朗は今度こそくしゃりと顔を歪めた。自身の腕を見て、唇を噛み締める。
光太朗の左腕には、フェンデの焼き印がある。焼き印の下に走るのは、幾つもの傷跡だ。
(……リュウ、あんたが一番分かってるはずだ。……大好きな人が苦しんでいるのは、何よりも耐え難い……)
全ての思考を投げ出して、光太朗も瞼を閉じる。
今はただ、リーリュイの腕の中で幸せに眠りたかった。
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