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いざ、競技会!
第180話 生への執着
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◇◇
(……少しでも、足止め出来たかな……)
地面に転がりながら、光太朗はぼんやり思う。光太朗はユムトに何度も攻撃を仕掛けたが、まったく歯が立たなかった。
獲物で遊ぶ猫のように、ユムトは光太朗を軽くあしらう。殺さない程度に弄られ続け、光太朗の体力も限界だった。
(俺、なんか弱くなったよな……。こんなんじゃ、誰も守れない)
体調が悪いなんて甘いことは言っていられないのだ。大切な仲間の命が掛かっている。
それなのに身体は言う事を聞かない。歯痒くて仕方がなかった。
思い通りにいかないのは身体だけじゃなく、精神もいつも通りに動かない。
(捨て身になれないのは、どうしてだ? 攻撃に命をかけるのが、俺の唯一出来る事じゃなかったか?)
攻撃にキレが無い。捨て身で突っ込んでも、守りに変わってしまう。守るべきは自分ではないのに、彼らのために命を張れない。
『守れない自分など何の価値もない』
『命以外、何を捧げられるというのか』
光太朗は自分を叱咤して、身を捩る。抵抗の意思を伝え続けないと、ユムトは彼らの元へと行ってしまう。
ふと、リーリュイの顔が浮かんで、胸に痛みが走った。
叶うならば、彼の顔をもう一度近くで見たい。
(……そうか、俺……。やっぱ、生きたいんだな……)
生に執着するなんて、今までは考えられなかった事だ。何も望まない。ただ大好きな人達と、笑って過ごしたい。
(そんな風に思うのは、身勝手すぎるかな……)
「___ 光太朗!!」
「んん!!?」
肩を揺らすほど驚いた光太朗は、目の前の光景に唖然とした。
自分を見つめているのは、美しい虹彩を持つ緑の瞳。雨に濡れたプラチナブロンドの髪は、艶やかにきらきらと輝いている。
「え? リュウ? ……あれ? 俺……。そうだ、ユムトは!?」
光太朗が身を起こそうとすると、リーリュイが背中に手を添えた。その腕が血に濡れているのを見て、光太朗は息を詰める。
「っ、何だその傷!! 応急処置もしないで!!」
「……光太朗……」
リーリュイの呟きを聞き流し、光太朗は彼の身体を見回す。ぱっと見たところ致命傷はなさそうだが、心は落ち着かない。
光太朗は力の入らない腕を伸ばし、リーリュイの身体にぺたぺたと触れる。
「リュウ、痛いところないか? 苦しいところは?」
「……まったく、本当に君は……」
リーリュイが光太朗を抱き寄せるようにして、その首筋に顔を埋める。まるで甘えるような仕草に、光太朗は首を傾げた。
「どした……?」
「……」
宥めるように髪を撫でると、リーリュイは大きく息を吐く。その息が震えているのを感じ、光太朗は目線を前へ投げた。
拓けた場所には、焼け焦げた毛布のようなものが雨に濡れている。ぴくりとも動かないが、光太朗にはそれがユムトだと分かった。
四肢も確認できないほど酷い状態だ。明らかに絶命している。
「リュウ……。ユムトを殺したのか?」
「……生死は確認していない」
「いや、あれは死んでるだろ。……大丈夫だったのか?」
「何がだ?」
リーリュイは顔も上げようとしない。光太朗の首筋に顔を埋めたまま、やや不機嫌そうに言葉を零す。
なぜリーリュイが不機嫌になったのか分からず、光太朗は更に首を捻った。
「何がだって……ユムトってフェブールだろ? 殺しちゃって大丈夫なのか? しかもあいつ、国を裏切ろうとしてたぞ? 生かしておかないと、真相が……」
「君を傷つけた。殺す理由に、これ以上の事があるか? いや、ない」
(聞いといて、自分で回答してる……)
光太朗は短く嘆息して、身体から力を抜いた。あれだけ辛かった身体の不調が、リーリュイに抱き締められると和らぐ気がする。
「リュウは……やっぱ凄いわ。リュウ依存症になったら、どうしてくれるんだ?」
「大歓迎だ。何の問題もない」
背中を撫でられると、安堵で意識がとろりとしてくる。しかし懸念点はまだ山のようにある。
意識を保とうと気を張っていると、パタパタと羽ばたく音が耳に入った。雨の向こうから、小さな黒い影が現れる。
「……アゲハ?」
アゲハの姿は、出会った頃と同じくらいの大きさになっていた。ふらふらと、蛇行しながらも光太朗の元へと辿り着き、その場にぱたりと落ちる。
その身体を、寸での所で光太朗がキャッチした。
小さな龍になってしまったアゲハは、全身傷だらけだ。光太朗は慌てて晄露を引き出し、アゲハの口の中に放り込む。
「大丈夫か? ごめんな、無理させた」
『だいじょぶら、コタロ……。しんぱいいりゃない……』
幼児語になってしまったアゲハを、光太朗は胸元に抱き寄せた。
あんなに大きかった身体が、両掌に乗るほどになってしまった。きっと熾烈な戦いだったのだろう。
顔を歪めていると、リーリュイから更に強く抱きしめられる。
「……君は____」
「っ!?」
突然鳴り響いた轟音に、リーリュイの言葉はかき消された。地面が撓むほどに揺れ、轟音が辺りを包む。崖崩れだと気付いた時にはもう遅かった。
「リュウ!!!」
咄嗟に動いた腕が、晄露を引き出した。リーリュイの身体の下に晄露の岩を出現させるが、その下の地面が崩れていく。
(もっと高く……!!)
晄露をどんどん引き伸ばすと、リーリュイだけが高く昇っていく。もっと安全圏へと引き上げたい。
光太朗はリーリュイの身体から離れ、地面に手を付いた。しかしリーリュイは、光太朗の片側の手を離さない。
「光太朗!! 何してる!!」
「リュウ、手ぇ離せ!! 俺が地面を触れなくなる!」
「馬鹿なことを!!」
大きな轟音と地響きが近づいて来る。光太朗はアゲハがいる外套を押さえ、リーリュイを見上げた。その顔に浮かぶ表情は、もうぼんやりとしている。
身体が押し流され、手が離れても、光太朗はリーリュイを見上げ続けた。
その視界が真っ黒に染まるまで、彼の安全を確かめたかった。
(……少しでも、足止め出来たかな……)
地面に転がりながら、光太朗はぼんやり思う。光太朗はユムトに何度も攻撃を仕掛けたが、まったく歯が立たなかった。
獲物で遊ぶ猫のように、ユムトは光太朗を軽くあしらう。殺さない程度に弄られ続け、光太朗の体力も限界だった。
(俺、なんか弱くなったよな……。こんなんじゃ、誰も守れない)
体調が悪いなんて甘いことは言っていられないのだ。大切な仲間の命が掛かっている。
それなのに身体は言う事を聞かない。歯痒くて仕方がなかった。
思い通りにいかないのは身体だけじゃなく、精神もいつも通りに動かない。
(捨て身になれないのは、どうしてだ? 攻撃に命をかけるのが、俺の唯一出来る事じゃなかったか?)
攻撃にキレが無い。捨て身で突っ込んでも、守りに変わってしまう。守るべきは自分ではないのに、彼らのために命を張れない。
『守れない自分など何の価値もない』
『命以外、何を捧げられるというのか』
光太朗は自分を叱咤して、身を捩る。抵抗の意思を伝え続けないと、ユムトは彼らの元へと行ってしまう。
ふと、リーリュイの顔が浮かんで、胸に痛みが走った。
叶うならば、彼の顔をもう一度近くで見たい。
(……そうか、俺……。やっぱ、生きたいんだな……)
生に執着するなんて、今までは考えられなかった事だ。何も望まない。ただ大好きな人達と、笑って過ごしたい。
(そんな風に思うのは、身勝手すぎるかな……)
「___ 光太朗!!」
「んん!!?」
肩を揺らすほど驚いた光太朗は、目の前の光景に唖然とした。
自分を見つめているのは、美しい虹彩を持つ緑の瞳。雨に濡れたプラチナブロンドの髪は、艶やかにきらきらと輝いている。
「え? リュウ? ……あれ? 俺……。そうだ、ユムトは!?」
光太朗が身を起こそうとすると、リーリュイが背中に手を添えた。その腕が血に濡れているのを見て、光太朗は息を詰める。
「っ、何だその傷!! 応急処置もしないで!!」
「……光太朗……」
リーリュイの呟きを聞き流し、光太朗は彼の身体を見回す。ぱっと見たところ致命傷はなさそうだが、心は落ち着かない。
光太朗は力の入らない腕を伸ばし、リーリュイの身体にぺたぺたと触れる。
「リュウ、痛いところないか? 苦しいところは?」
「……まったく、本当に君は……」
リーリュイが光太朗を抱き寄せるようにして、その首筋に顔を埋める。まるで甘えるような仕草に、光太朗は首を傾げた。
「どした……?」
「……」
宥めるように髪を撫でると、リーリュイは大きく息を吐く。その息が震えているのを感じ、光太朗は目線を前へ投げた。
拓けた場所には、焼け焦げた毛布のようなものが雨に濡れている。ぴくりとも動かないが、光太朗にはそれがユムトだと分かった。
四肢も確認できないほど酷い状態だ。明らかに絶命している。
「リュウ……。ユムトを殺したのか?」
「……生死は確認していない」
「いや、あれは死んでるだろ。……大丈夫だったのか?」
「何がだ?」
リーリュイは顔も上げようとしない。光太朗の首筋に顔を埋めたまま、やや不機嫌そうに言葉を零す。
なぜリーリュイが不機嫌になったのか分からず、光太朗は更に首を捻った。
「何がだって……ユムトってフェブールだろ? 殺しちゃって大丈夫なのか? しかもあいつ、国を裏切ろうとしてたぞ? 生かしておかないと、真相が……」
「君を傷つけた。殺す理由に、これ以上の事があるか? いや、ない」
(聞いといて、自分で回答してる……)
光太朗は短く嘆息して、身体から力を抜いた。あれだけ辛かった身体の不調が、リーリュイに抱き締められると和らぐ気がする。
「リュウは……やっぱ凄いわ。リュウ依存症になったら、どうしてくれるんだ?」
「大歓迎だ。何の問題もない」
背中を撫でられると、安堵で意識がとろりとしてくる。しかし懸念点はまだ山のようにある。
意識を保とうと気を張っていると、パタパタと羽ばたく音が耳に入った。雨の向こうから、小さな黒い影が現れる。
「……アゲハ?」
アゲハの姿は、出会った頃と同じくらいの大きさになっていた。ふらふらと、蛇行しながらも光太朗の元へと辿り着き、その場にぱたりと落ちる。
その身体を、寸での所で光太朗がキャッチした。
小さな龍になってしまったアゲハは、全身傷だらけだ。光太朗は慌てて晄露を引き出し、アゲハの口の中に放り込む。
「大丈夫か? ごめんな、無理させた」
『だいじょぶら、コタロ……。しんぱいいりゃない……』
幼児語になってしまったアゲハを、光太朗は胸元に抱き寄せた。
あんなに大きかった身体が、両掌に乗るほどになってしまった。きっと熾烈な戦いだったのだろう。
顔を歪めていると、リーリュイから更に強く抱きしめられる。
「……君は____」
「っ!?」
突然鳴り響いた轟音に、リーリュイの言葉はかき消された。地面が撓むほどに揺れ、轟音が辺りを包む。崖崩れだと気付いた時にはもう遅かった。
「リュウ!!!」
咄嗟に動いた腕が、晄露を引き出した。リーリュイの身体の下に晄露の岩を出現させるが、その下の地面が崩れていく。
(もっと高く……!!)
晄露をどんどん引き伸ばすと、リーリュイだけが高く昇っていく。もっと安全圏へと引き上げたい。
光太朗はリーリュイの身体から離れ、地面に手を付いた。しかしリーリュイは、光太朗の片側の手を離さない。
「光太朗!! 何してる!!」
「リュウ、手ぇ離せ!! 俺が地面を触れなくなる!」
「馬鹿なことを!!」
大きな轟音と地響きが近づいて来る。光太朗はアゲハがいる外套を押さえ、リーリュイを見上げた。その顔に浮かぶ表情は、もうぼんやりとしている。
身体が押し流され、手が離れても、光太朗はリーリュイを見上げ続けた。
その視界が真っ黒に染まるまで、彼の安全を確かめたかった。
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