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いざ、競技会!
第161話 力の代償
しおりを挟む(日本刀……見慣れないよなぁ。そりゃそうだ)
この国には、言うまでもなく日本刀が無かった。流通している武器はかなり重く、光太朗には短剣しか使いこなせない。
前の世界でも馴染みのあった短剣だが、こうした1対1の勝負や戦では、短剣よりももっと長さのある武器が欲しいところだった。
晄露で武器を作るため、光太朗は何度も試行錯誤を重ねた。
晄露を何かの形に変える時、かなり緻密なイメージが必要となる。武器となれば尚更で、西洋の剣もイメージして作ってはみたが、どれもしっくりこなかった。
最終的に一番巧く作れたのが、ナイフと短剣、そして日本刀だけだったのだ。
アルスからはひっきりなしに魔法が飛んでくる。しかし盾のお陰で、それも気にしなくて良くなった。
まさに最強の盾だ。使っている本人が、ズルいと自覚するほどのチートな盾である。
光太朗が距離を詰めると、アルスの表情がぼんやりと見えるようになった。驚愕に歪んでいるが、彼はまだ戦意を失っていない。
「……そ、そんな剣で、俺のシールドが破れると ____!」
光太朗は大きく踏み込み、刀を上へと斬り上げる。アルスのシールドに刀身が入り込む感触の後、まるで紙を裂くようにシールドは真っ二つになっていく。
シールドを端まで裂いた後、光太朗は素早く刃を返して、アルスに振り下ろした。
アルスも剣の柄に手を伸ばしたものの、抜刀は叶わない。光太朗の刃が、もう首筋に添えられていたからだ。
アルスは目を見開き、身体を強張らせた。
目の前にいる光太朗は、アルスが見下ろすほど小さく華奢だ。にも関わらず、アルスの身体は恐怖で震えだした。
漆黒の髪から覗く瞳は、アルスを逃すまいと捉えている。その眼は畏怖するほどに澄んでいて、強烈な圧迫感を放っていた。
刃から逃れて次の手を考えるべきなのに、その瞳はアルスの思考すらも動きを止めてしまう。
怯えるアルスを他所に、光太朗はアルスから視線を外した。ぽかんと口を開け放っている審判に、彼は苦笑いを向ける。
「あの~、審判? これは勝負ありって事でいいよな? アルスの首跳ぶよ?」
「……! し、勝負あり!! 勝者は魔導騎士団!!」
審判が言うも、観客席はしんと静まり返っている。その反応に、光太朗は今更ながら冷汗をかいた。
晄露は魔法の素であるが、これを魔法と認めてもらえるのだろうか。
そっとアルスの首筋から刃を外すと、晄露は形を崩して空中を漂った。盾も同様で、一瞬にして崩れ去る。
静かだった観覧席が、次第にざわざわと不穏な騒めきを起こし始めた。
(あらま。あまり良い雰囲気じゃないな……早めに退散するか……)
光太朗はアルスにぺこりと頭を下げ、踵を返した。光太朗が去ろうとしても、闘技場の微妙な空気は変わらない。
しかし門前まで進んだところで、轟音と悲鳴が轟いた。
光太朗が振り向くと、アルスは忘我したように地面にへたり込んでいるのが見えた。しかしその周りには、幾本もの水柱が空高く立ち昇っている。
ゆらゆらと立ち昇る水柱は、どう見てもアルスが発動したものでは無い。
これを発動するには、相当な技量と長い詠唱が必要だろう。忘我している彼には無理だ。
そしてその水柱から、凶器と化した礫が雨のように襲い降りて来た。
標的は光太朗だが、かなり範囲が広い。このままだと、確実に観覧席にいる民衆に被害が及ぶ。
光太朗は地面に手を付いて、大量の晄露を引き出した。大波のように膨れ上がった晄露が、観客席まで伸びていく。
「……っ痛てぇ……!!」
鼻の奥から頭まで鋭い痛みが走り、光太朗は呻いた。思えば、こんなに大量の晄露を引き出した経験はない。痛みで目の奥がチカチカと明滅する。
大量の晄露が、水の礫を飲み込んで行く。しかし次第に視界が真っ暗に染まり、観客の状況すら分からなくなった。
(どうなった……!? 防げたのか!?)
光太朗は目を細めて、見えない観客席を睨みつけた。観客席には子供もいたはずだ。彼らが巻き添えになるのは絶対に避けたい。
光太朗は奥歯を噛み締めて、更に晄露を引き出した。それと同時に、握りしめた拳を力強い力で掴まれる。
「光太朗! もういい!!」
「……! リュウ……」
聞こえてきたリーリュイの声に、光太朗は心底安堵した。痛みを封じ込めるように瞼を閉じると、目の奥が鼓動に合わせてズキズキと痛む。
悲鳴と歓喜のような声が反響する中、リーリュイに肩を抱き寄せられた。
「大丈夫か!?」
「……リュウ……観客は? 怪我は無い?」
「礫は観客席に届いていない、大丈夫だ」
リーリュイに横抱きにされ、光太朗は恐る恐る瞼を開いた。リーリュイの鮮やかなプラチナブロンドがぼんやり見える。
いつも通りの見え方だ。光太朗はほっと息を吐いた。
「……ちょっと頑張りすぎた。頭が割れそう……」
「目を閉じていていい。このまま運ぶ」
悲鳴が歓声に変わったが、頭が痛んでそれどころでは無い。
リーリュイの胸に縋っていると、やがてその声は遠ざかっていった。
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