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いざ、競技会!
第156話 同族嫌悪は背中合わせ
しおりを挟む幸い、魔法技会には十分間に合う時間だった。
光太朗がリーリュイの隣に座ると、アゲハは大人しくウルフェイルの隣へと座る。僅かに頬を膨らませている姿は、やはり少し幼く見えた。
ウルフェイルはアゲハを上から下まで眺め、仰け反ってみせる。
「お前、いつの間にこの屋敷に……。っていうか、別人じゃねぇか、お前」
「我の姿を見るな、筋肉達磨。本来ならば我は、お前らのような下々が平伏すような存在なのだぞ。腹立たしい、存在を消せ」
「っコイツ!! ちゃんと話せるようになったと思ったら、予想以上に性悪野郎だな!」
「……前から性悪だろう」
言い放つリーリュイをアゲハが睨みつける。
しかしリーリュイはそれを無視し、光太朗へと向き直った。その顔には優しい笑みが浮かんでいる。
「光太朗。そろそろ起こそうと思っていた。朝食はここで良いか?」
「あ、うん。……朝早くから、ウルフと話か?」
「そうだ。君も、食べながら聞いてほしい」
目の前のテーブルに、どんどん食事が運ばれてくる。
執事が居ないと思っていた屋敷だったが、最低限の従者はいるようだ。黙々と食事の準備を済ませ、彼らは言葉もなく去っていく。
出されたのは、エッグベネディクトのような料理だ。しかし下に敷いてあるのはマフィンではなく、サクサクとしたパイ生地だった。
見るからに美味しそうだが、あまり食欲が湧かない。光太朗を見ていたアゲハが、身を乗り出した。
「コタロ。卵くれ」
「ああ、いいよ」
光太朗が卵をフォークですくい、アゲハに差し出す。
共に暮らして分かったが、アゲハは何でも食べる。しかし栄養源はあくまで晄露のようで、食事は味を愉しむだけのものらしい。
アゲハは嬉しそうに微笑んで、卵に食らい付く。彼は食事を本当に美味しそうに食べるので、光太朗はついアゲハに食べ物を分けてしまうのだ。
リーリュイが眉を顰めて、光太朗の腕を掴んだ。
「何してる! 君はいつもこうして、この獣に食べ物を与えてるのか?」
「獣ではない! 無礼者!」
「お前は口を開くな!」
「り、リュウ! 起きたばかりで食欲が無くてさ……ごめんな。別に、体調が悪いわけじゃないから。そ、それで? 話ってのは?」
不穏な雰囲気を垂れ流すアゲハとリーリュイを交互に見て、光太朗は慌てて捲し立てた。
相性は良いはずなのに、彼らはいがみ合ってばかりだ。このままでは話が進まない。
光太朗がウルフェイルへと目線を戻すと、彼は大きく頷いた。
「……昨晩オーウェンに会ったんだが、コウの事で大きな騒ぎになっている。フェンデが騎士に勝つなんて、考えられないことだからな……。予想通り、コウがフェブールではないかという憶測も飛び交ってたようだ。第1皇子と第2皇子が転管長に詰め寄って、説明会まで開かれた」
「転管長って?」
「転移者管理機関の長、ウィリアムだ」
「……なるほど。俺の事について、問い詰められたってわけね。あいつの事だから、巧く躱したんだろうけど」
転移者をフェンデとフェブールに分けるのは、聖魔導士の役目だ。光太朗の事について知りたいなら、ウィリアムに聞くのが一番だろう。しかし光太朗は死んだことになっているはずだ。
「ウィリアムは君の事を『知らない』で通している。フェンデが来る頻度は高い。その全部を、ウィリアムが迎えている訳ではないと言い張っている」
「……でもさ、俺の事知ってる騎士も居るんじゃないか?」
「第10騎士団は何度も全滅し解体されて、今は騎士の卵が所属する組織になっている。調べてみたが、君を知っている者は王都に数人しかいない。全て手を回してある」
「そっか、もう居ないのか……」
騎士と呼ぶには頼りない者たちばかりだったが、彼らの人間性は嫌いではなかった。魔導騎士団のような温かみはないものの、戦場では助け合っていたのだ。誰も居ないと思うと、少し寂しい。
リーリュイが光太朗の背中に手を添える。
「軍の司令部にいる叔父が、君の事を褒めていた。魔導騎士団の騎士として相応しい実力があると、君が認められつつある」
「良かった。今日の魔法技会も勝って、早く皆の役に立ちたいな」
この競技会で勝つことが、まさに第一関門だった。ここを越えないと、リーリュイの役には立てない。
ここで認められれば、魔導騎士団として胸を張って任務へ就くことが出来る。フェンデの立場であっても、リーリュイの側にいることが許されるのだ。
光太朗が微笑んでいると、アゲハがテーブルを拳で叩いた。唇がへの字にひん曲がっている。
「……何故、コタロがお前らに認められるよう努力しなければならない? 異世界人の優劣を決めること自体が、間違っている。コタロは、我が主に選んだほどの人物だぞ。ザキュリオ国には、そもそも相応しくない!」
「ア、アゲハ……!」
てっきりリーリュイが怒り出すかと思ったが、意外なことにリーリュイは頷いた。
「その点は、全面的に同意する。光太朗は、この国には勿体ない程の人物だ。しかも可愛い」
「……驚いたな……。我も、その点については全面的に同意する」
珍しく気の合った2人が、頷き合っている。光太朗には、彼らの同調するチャンネルが理解できず、首を傾げるしかなかった。
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