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いざ、競技会!
第152話 抗争型剣技会
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光太朗は予習の為に、競技会についてのメモを開く。どれも単純明快なルールの為覚える必要はないが、念のためだ。
剣技会は3人チームで戦う競技で、形式は戦型、噛み砕いて言えばヤンキーの抗争型だ。
広い闘技場を戦場のように使って、全員で一斉に剣技を競う。と言えば聞こえは良いが、実際は一斉に行われる殴り合いだ。
使われる剣が模擬剣のため、斬ることは出来ず『殴る』が正しいだろう。
全員が腕章を付けて、剣を振るいながらそれを奪い合う。最終的に獲得した腕章の数で、各チームの勝敗が決まるのだ。
チーム長である「大将」の金腕章を獲得すると、特別に獲得数が2倍になる。その為、大将は狙われやすい。
(ヤンキーの抗争とか、そんな感じのイメージだよな……。わーって皆で殴りかかって、頭を倒して……)
「おい、コウ」
メモから目線を上げると、チームを組んでいるガイルが、腰に手を当てて光太朗を見つめていた。もう一人のルークは、不安そうに眉を垂らしている。どちらも1班の班員だ。
「どうした?」
「他の騎士団、選手交代が相次いでるらしい……。隊長クラスも多く出場するみたいだぞ」
「何かあったのか?」
「……恐らく、さっきの騒ぎのせいだと思う。コウを負かす事が出来たら、その……」
言葉を濁すガイルを見て、光太朗は笑いながら相槌を打った。
「なぁるほど。みんなスケベだなぁ」
「わ、笑ってる場合じゃない! と、とりあえず俺たち2人が守るから、試合終了までコウは腕章を守り通してくれ」
「でもそれだと、試合に勝てないだろ?」
腕章を積極的に獲りにいかないと、上位に入れない。光太朗が目指すのは優勝なので、守りに徹することなど考えていない。
拡声魔法で、選手交代のアナウンスが流れ始めた。ガイルのいう通り、殆どの騎士団が交代しているようだ。
光太朗は頭を掻き回して、苦く笑う。自分から言った事ではあるが、これほど反応があると正直気持ちが悪い。
『以上が、選手交代のご案内です。……ああ、最後にもう一件ございましたので、お知らせを……っええ!?』
アナウンスの声を聞きながら、光太朗はぼんやりとブーツの紐を締め直す。次の瞬間、何故が背筋がぞくりと冷えた。
光太朗が振り返ったと同時に、慌てたようなアナウンスが響く。
『魔導騎士団、選手交代です! なんと、リーリュイ団長の参戦です! これは、前代未聞の剣技会になりますよ!!』
わっと歓声が沸きあがる中、光太朗は目の前の人物に、目も口もぽかんと開かせた。
リーリュイが、闘技場を睨んだまま立っている。いつの間にかガイルもルークもいない。
「なにしてんの?」
光太朗の言葉は、歓声にかき消された。リーリュイは光太朗を見ないまま、そこに佇んでいる。
いつもの冷たい皇子モードや、熱い団長モードでもない。何となく拗ねたようなリーリュイは、何も言わず闘技場を睨んでいる。
『リーリュイ殿下からハンデを頂きまして、2名の選手との交代になります。魔導騎士団は2名で戦って頂く事になりますが、これは期待できそうですねぇ』
(……なるほど、だからガイルとルークが居ないのか。全然気が付かなかったな)
光太朗はリーリュイに向き直り、何となく怪訝そうな顔を覗き込む。
「リュウ? なんか怒ってる? っていうか、明日のために休んでおかなきゃ駄目だろ?」
「………問題ないし、明日も出場する君に言われたくない。……問題は別にあるだろう?」
「……問題?」
光太朗が首を傾げると、リーリュイの眉根がこれでもかと寄る。
同時に試合開始の合図が鳴り響き、2人は走り出した。
闘技場のあちこちから一斉に、騎士らがこちらへ走ってくる。光太朗が短剣を抜こうとすると、リーリュイが前へと躍り出た。
彼は目が追えないほどの速さで抜刀し、向かってきた騎士の胴を斬り払う。
くぐもった声を漏らしながら身体を折る騎士を蹴りつけ、リーリュイはその腕から腕章をむしり取った。
その手つきは、いつものリーリュイからは考えられないほど乱暴だ。
「リュウ? ほんとにどうしたんだよ!? 何を怒ってる?」
「怒ってる? 怒ってるに決まってる!」
リーリュイは光太朗を振り返り、鼻梁に皺を寄せた。そして剣で、今にも襲いかからんとする騎士らを指し示す。
「こいつらを見てみろ! みんな君と一晩過ごしたいと思っているんだぞ!」
「……ああ、その事か……。いや、俺男だし……こんなに反応を頂けるとは……」
「本当に君は! 何度言ったら分かってくれる!?」
リーリュイは叫びつつ振り返り、また騎士を薙ぎ払う。
光太朗も脇から来た騎士に肘鉄を喰らわせた。バランスを崩した側頭部に短剣を叩き込んで、腕章をむしり取る。
「だって俺は、抱いてやるって言ったんだぞ! こんなに興味があるやつが居るとは思わねぇし!」
「抱かれる方に決まっているだろう!!」
「……やっぱ、そっち?」
既に腕章を3つ手にしているリーリュイが、信じられないといった目を光太朗へ向けた。
光太朗は予習の為に、競技会についてのメモを開く。どれも単純明快なルールの為覚える必要はないが、念のためだ。
剣技会は3人チームで戦う競技で、形式は戦型、噛み砕いて言えばヤンキーの抗争型だ。
広い闘技場を戦場のように使って、全員で一斉に剣技を競う。と言えば聞こえは良いが、実際は一斉に行われる殴り合いだ。
使われる剣が模擬剣のため、斬ることは出来ず『殴る』が正しいだろう。
全員が腕章を付けて、剣を振るいながらそれを奪い合う。最終的に獲得した腕章の数で、各チームの勝敗が決まるのだ。
チーム長である「大将」の金腕章を獲得すると、特別に獲得数が2倍になる。その為、大将は狙われやすい。
(ヤンキーの抗争とか、そんな感じのイメージだよな……。わーって皆で殴りかかって、頭を倒して……)
「おい、コウ」
メモから目線を上げると、チームを組んでいるガイルが、腰に手を当てて光太朗を見つめていた。もう一人のルークは、不安そうに眉を垂らしている。どちらも1班の班員だ。
「どうした?」
「他の騎士団、選手交代が相次いでるらしい……。隊長クラスも多く出場するみたいだぞ」
「何かあったのか?」
「……恐らく、さっきの騒ぎのせいだと思う。コウを負かす事が出来たら、その……」
言葉を濁すガイルを見て、光太朗は笑いながら相槌を打った。
「なぁるほど。みんなスケベだなぁ」
「わ、笑ってる場合じゃない! と、とりあえず俺たち2人が守るから、試合終了までコウは腕章を守り通してくれ」
「でもそれだと、試合に勝てないだろ?」
腕章を積極的に獲りにいかないと、上位に入れない。光太朗が目指すのは優勝なので、守りに徹することなど考えていない。
拡声魔法で、選手交代のアナウンスが流れ始めた。ガイルのいう通り、殆どの騎士団が交代しているようだ。
光太朗は頭を掻き回して、苦く笑う。自分から言った事ではあるが、これほど反応があると正直気持ちが悪い。
『以上が、選手交代のご案内です。……ああ、最後にもう一件ございましたので、お知らせを……っええ!?』
アナウンスの声を聞きながら、光太朗はぼんやりとブーツの紐を締め直す。次の瞬間、何故が背筋がぞくりと冷えた。
光太朗が振り返ったと同時に、慌てたようなアナウンスが響く。
『魔導騎士団、選手交代です! なんと、リーリュイ団長の参戦です! これは、前代未聞の剣技会になりますよ!!』
わっと歓声が沸きあがる中、光太朗は目の前の人物に、目も口もぽかんと開かせた。
リーリュイが、闘技場を睨んだまま立っている。いつの間にかガイルもルークもいない。
「なにしてんの?」
光太朗の言葉は、歓声にかき消された。リーリュイは光太朗を見ないまま、そこに佇んでいる。
いつもの冷たい皇子モードや、熱い団長モードでもない。何となく拗ねたようなリーリュイは、何も言わず闘技場を睨んでいる。
『リーリュイ殿下からハンデを頂きまして、2名の選手との交代になります。魔導騎士団は2名で戦って頂く事になりますが、これは期待できそうですねぇ』
(……なるほど、だからガイルとルークが居ないのか。全然気が付かなかったな)
光太朗はリーリュイに向き直り、何となく怪訝そうな顔を覗き込む。
「リュウ? なんか怒ってる? っていうか、明日のために休んでおかなきゃ駄目だろ?」
「………問題ないし、明日も出場する君に言われたくない。……問題は別にあるだろう?」
「……問題?」
光太朗が首を傾げると、リーリュイの眉根がこれでもかと寄る。
同時に試合開始の合図が鳴り響き、2人は走り出した。
闘技場のあちこちから一斉に、騎士らがこちらへ走ってくる。光太朗が短剣を抜こうとすると、リーリュイが前へと躍り出た。
彼は目が追えないほどの速さで抜刀し、向かってきた騎士の胴を斬り払う。
くぐもった声を漏らしながら身体を折る騎士を蹴りつけ、リーリュイはその腕から腕章をむしり取った。
その手つきは、いつものリーリュイからは考えられないほど乱暴だ。
「リュウ? ほんとにどうしたんだよ!? 何を怒ってる?」
「怒ってる? 怒ってるに決まってる!」
リーリュイは光太朗を振り返り、鼻梁に皺を寄せた。そして剣で、今にも襲いかからんとする騎士らを指し示す。
「こいつらを見てみろ! みんな君と一晩過ごしたいと思っているんだぞ!」
「……ああ、その事か……。いや、俺男だし……こんなに反応を頂けるとは……」
「本当に君は! 何度言ったら分かってくれる!?」
リーリュイは叫びつつ振り返り、また騎士を薙ぎ払う。
光太朗も脇から来た騎士に肘鉄を喰らわせた。バランスを崩した側頭部に短剣を叩き込んで、腕章をむしり取る。
「だって俺は、抱いてやるって言ったんだぞ! こんなに興味があるやつが居るとは思わねぇし!」
「抱かれる方に決まっているだろう!!」
「……やっぱ、そっち?」
既に腕章を3つ手にしているリーリュイが、信じられないといった目を光太朗へ向けた。
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