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いざ、競技会!
第148話 堅物皇子は愛情表現を隠さない
しおりを挟む光太朗はリーリュイの馬に乗せてもらい、王都へと入った。
王都は初めてではない。転移した先は王都の聖堂だったからだ。しかしそのあと直ぐに戦地へ派遣されたため、初めてのようなものだった。
ランパルとは違い、建造物には暖色の煉瓦が多く使われている。ランパルはドイツ風だったが、王都ラグロはイタリア風といったところだろうか。
初めて見る王都の光景に、光太朗はわくわくを隠せない。馬に乗りながらキョロキョロしている光太朗を、リーリュイは背後からがっちりと固定する。
「光太朗、あまり動くな。落ちる」
「ごめん、街並みが魅力的過ぎて……。あっ、あそこの路地に行きたい」
「傷の手当てが先だ。まずは宿へ行く」
「……はぁい、団長殿」
競技会に参加する騎士らの宿は毎年決まっていて、数日前から受け入れを開始しているらしい。魔導騎士団の宿も毎年同じもので、光太朗たちは今、そこへ向かっている。
競技会は国の一大イベントだ。街は既にお祭りモードで、中心部に向かうにつれて賑わいが増していく。
ザキュリオでは身分の高い者しか馬に乗れない。そのため街道を馬が通ると、当然目立つ。
リーリュイとキースの姿に驚いた民衆が、どんどん集まり始めた。
「リ、リーリュイ殿下だ……! 凄い、キース隊長もいる!」
「競技会頑張って下さい! 応援してます!」
声援が辺りを包み、キースが軽く手を振って答える。
リーリュイはまっすぐ前を見据えたままだ。声援には黄色い声も混じっているのに、彼は能面のような顔をしている。
「殿下、笑って! きゃー、こっち向いたわ!」
「なんて麗しい姿なの……!」
多くの民衆が、リーリュイに熱い目線を送ってる。しかし彼らは跪こうとはしない。
王族を前にしたら跪く。ランパルではそれが普通だったが、王都では違うようだ。
しかし彼らの声には、リーリュイに対しての畏敬の念が強く宿っている。彼が民衆に慕われているというのは、光太朗が思っている以上だった。
光太朗はリーリュイを振り返る。
「みんな跪かないんだな」
「私に対しては、跪く事を止めるよう周知した。あれほど非効率な動作はない。他の王族には跪かなければならないが……」
「非効率か……。リュウらしいな」
彼が王様になったら、この非効率な事も全面禁止にしてくれるのかもしれない。
王族に跪くことも、彼らに怯えて生きていくのも無くなるのだ。そう思うと、リーリュイの存在が本当に誇らしく思えた。
しかしギャラリーが増えるにつれて、声援以外の声も届き始める。
リーリュイと一緒に乗っている人物は誰か。フェンデではないか。あんな小汚いフェンデが、殿下と馬に乗っているなんて信じられない。
聴覚をフル稼働させるのが癖になっている光太朗は、そんな声を全部拾ってしまう。光太朗は苦笑いを浮かべ、頭に引っかけていた防塵ゴーグルを外した。
思えば8日間風呂にも入っていないし、顔は傷だらけだ。今の自分の姿は民衆の言う通り、小汚いフェンデだろう。
「俺、馬を降りたほうが良くないか? フェンデだし」
「騎士は馬に乗る。加えて君は、私の側近だ。何の問題もない」
「馬に乗れない騎士だし、側近の立場で馬に乗せてもらってるのも、何だかなぁ……」
リーリュイは民衆を見回し、光太朗に対する反応に眉を顰める。それだけで民衆は黙り込むが、まだまだ視線を痛いほど感じた。
「……もうすぐ宿に着く。嫌な思いをさせてすまない」
「いや、俺は良いんだけど……」
民衆を見回しても、一人一人の顔は良く見えない。どんな顔を向けられているか分からないが、きっと良くないものだろう。
ランパルでは、光太朗は常に目立たないように努めていた。それでも差別や理不尽な暴力があったのだ。リーリュイの側に居るとなると、反応も激しくなるだろう。
眉を顰めるリーリュイに、光太朗は微笑みかけた。
「そんな顔すんなよ。ここであんたが何を言っても、俺への不満は晴れない。ちゃんと認めてもらえるように、競技会を頑張るから」
「君は……本当に素晴らしい男だな。私は君が誇らしい」
「そう? あんたには負けるけど」
光太朗の言葉に、リーリュイは眉を下げて微笑んだ。2人きりの時、彼は良くこうして優しく微笑む。
しかし今、その笑顔を晒して大丈夫なのだろうか。光太朗が周りを見ると、民衆は案の定固まっている。
普段の彼は、笑顔など見せないのだろう。さざ波のようにざわめきが広がっていく。
ざわめいていても、リーリュイは笑顔を崩そうとしない。光太朗しか見ていないのだ。
「リュウ、頼むから前向いて。運転中だろ?」
「うんてん?」
「ああぁ……。宿まだかよぉ……」
「光太朗、かわいい」
耳元で言われ、光太朗は耳を両手で覆う。恥ずかしいことに変な声も出た。
堅物皇子だと思っていたのに、リーリュイは愛情表現を晒すことに躊躇いは無いらしい。
(ええ……? 王都にいる間、ずっとこれか?)
ざわめきが歓声へと変わる中、やっと3人は宿へと到着した。
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