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側にいるために

第118話 処理、嫉妬、そして上書き ※

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 リーリュイは、穏やかに微笑む光太朗を見た。目の端に映るのは、光太朗の腕に巻かれた包帯だ。
 武器庫で見たあの傷。あれが何を意味しているのか、リーリュイにも何となく分かる。

 光太朗の事なら何でも知りたい。リーリュイはそれを望んでいるが、これ以上暴くと彼が壊れそうで怖い。

(そうやって微笑んでいても、君の奥底には暗い闇がある……。一体何を、どれだけ抱えているんだ……?)


 光太朗を見たまま、リーリュイは何も言えず黙り込む。すると穏やかに微笑んでいた光太朗が、突然身を起こした。
 
 ゆっくりとした動きで上半身を起こすと、光太朗は当たり前のように寝台から降りようとする。その少しの動作でも、彼はふらふらと身体を揺らした。
 リーリュイは光太朗を慌てて押さえ、眉を寄せる。

「どうした? まだ寝ていなくては駄目だ」

 光太朗は頭を横に振ると、口をパクパクと動かす。その口の形と仕草が意味する事に、リーリュイは直ぐに気付いた。

「小便だな? 付き添おう。その身体で歩くのは危ない」

 光太朗はその言葉を拒むように、また首を横に振った。熱で真っ赤になった顔に浮かぶのは、申し訳なさそうな苦い笑みだ。

 リーリュイが首を傾げると、光太朗は熱い吐息を漏らす。そして5本の指で何かを握るように輪を作り、それを上下に動かした。
 その仕草の意味も、リーリュイは直ぐに悟った。男が自身の陰茎を扱く、いわゆる自慰の仕草だ。

「アロデナの……催淫効果が、少なからずあるのか? 治まらないんだな?」

 リーリュイの問いに、光太朗はうんうん頷く。
 また寝台から降りようとする光太朗の手を掴んで、リーリュイは言い聞かせるように彼を見据えた。

「繰り返すが、その身体で歩くのは危ない。……私がやるから、ここで済ませよう」
「……!?」

 光太朗が目を見開き、首を何度も横に振る。しかしその仕草すらも辛そうに見える。
 リーリュイが手を離せば倒れそうな程、身体は脱力しているのだ。どう見ても一人にさせるのは危ない。
 リーリュイは光太朗の両手を握りこんで、目線を合わせた。

「例え小便だとしても、私は君を便所まで連れていき、君のものを掴んで介助していただろう。いずれにしても変わらない」
「……! っ……」
「心配しなくていい。男同士だろう」

 困惑する光太朗を寝台へと押し返し、リーリュイも向かい合うように胡坐をかく。そして光太朗の身体を脚の上へと乗せた。

「……!?」
「暴れないで。私の身体に掴まっててくれ」

 光太朗はリーリュイの顔を見つめた後、観念したかのように俯いた。そして静かに、リーリュイの胸へと倒れ込む。
 背中の服をぎゅっと掴まれ、リーリュイは光太朗を見下ろした。

 頭頂部しか見えないが、光太朗の耳から首まで真っ赤になっているのが分かる。
 熱のものか羞恥のものか、判別は付かない。しかし切なげに震える様が儚げで、リーリュイは喉を鳴らした。

(……っこれは、ただの処理的行為だ。ふしだらな事を考えるな……)

 リーリュイはやんわりと彼の股間に手を添えた。硬くなった陰茎が、ズボンを押し上げている。
 光太朗が眠りに身を委ねないのも、この熱さが籠っているせいだろう。

 頭を擦りつける光太朗を抱き締めると、リーリュイは優しく言葉を紡いだ。

「恥ずかしいなら、君のそこは見ない。……もしも怖くなったら、言ってくれ」
「……」

 リーリュイは手探りで、彼のズボンの釦を外した。下着に指を這わせ、光太朗の膨張したものを取り出す。
 外気に触れて冷えたのか、光太朗が身を震わせた。

「光太朗、触るよ」

 光太朗がこくりと頷いたのを感じて、リーリュイは光太朗の陰茎を優しく握った。
 それは熱くて、儚げに震えている。手に触れているものが彼のものだと思うと、リーリュイの胸が彼への愛おしさで溢れていく。

「……っ、は……」

 光太朗の声にならない吐息が、艶を帯びて耳へと届く。更に上下に動かすと、光太朗の頭がリーリュイの二の腕をぐりぐりと押す。
 リーリュイはごくりと喉を鳴らし、光太朗の匂いを吸い込んだ。彼特有の朗らかで安らぐ匂いが、鼻を抜ける。

(可愛い。かわいい、かわいい。大好きだ、光太朗……)

 この独占欲をきっと光太朗は知らない。光太朗に向ける感情が、どれほど重いか彼は知らない。
 押し付けるつもりは無かった。しかし想いは溢れ出る。どんなに理性で抑えようと、光太朗には勝てないのだ。


 亀頭をぐるりと撫で、指できつく上下に扱く。光太朗の掠れた声が切羽詰まったものに変わり、背中に回した手はパタパタとリーリュイを叩く。限界が近いのだろう。

「光太朗、そのまま出していい」
「……っう、……は、ぁッ」

 光太朗はリーリュイの二の腕をかぷかぷと甘噛みし、服を食んだ。あまりの可愛らしさに、リーリュイは更に責め立てる。先走りを絡め、音を立てながら射精を促した。

「っひ!? ぁ………くッ……!!」

 掠れた甘い声と共に、光太朗は熱を放った。手に熱い感覚を感じたリーリュイは、光太朗の髪へと唇を落とす。
 放心している光太朗は、リーリュイの胸に縋ったままだ。荒い吐息がなかなか治まらず、リーリュイは空いた手で彼の背中を擦る。

「……まだ治まっていない。光太朗、もう一度しようか?」

 光太朗の陰茎は、まだ硬さを持っていた。熱は完全に放出できていない。
 しかし光太朗は頭を横に振って、拒むようにリーリュイの腕を掴んだ。そして顔を上げる。

 頬は紅潮し、瞳は潤んでいる。唇も噛んでいたのか、そこは赤く熟れていた。

 その表情はひどく扇情的で、リーリュイは眩暈にも似た激情を覚える。そして同時に一つの疑問が浮かんだ。

「………ウィリアムにも、こうして手伝ってもらったのか?」

 リーリュイの問いに、光太朗の荒い吐息が一瞬止まる。考え込んでいるのか、思い当たる節があるのか。
 しかし光太朗の返事が何であったとしても、リーリュイにはどれもきっと許容できないものだ。

 彼のこの姿を見られていたと思うだけでも、嫉妬が身を焦がしていく。


 リーリュイは腕を掴んでいた光太朗の手を剥がし、首の後ろへと誘導する。そして身体を前へと傾けた。
 不安定な体勢になった光太朗は、落ちまいと両腕をリーリュイの首へ巻きつけた。目の前の光太朗は、驚愕して目を見開いている。

 リーリュイは嫉妬と情欲に塗れた瞳を隠さず、光太朗を見据えた。

「これで、君がよく見える」
「……!? っつ……!!」

 リーリュイは片手で光太朗の背中を支え、もう片方で彼の陰茎を責め立てた。容赦のない動きに、光太朗は身体をガクガクと痙攣させる。

 リーリュイの視線から逃れられず、光太朗は羞恥に顔を歪ませた。必死で目線を逸らし、唇を噛み締める。
 声を我慢するその表情すらも、リーリュイを煽ることを光太朗は知らない。

 与えられる快感が許容を超え、嬌声が掠れた叫びへと変わっていく。

 涙を流す光太朗を見据えながら、リーリュイは口元に笑みを浮かべた。光太朗の瞳が自分しか写さないように、その双眸を逃がすまいと捉える。

 光太朗の鈴口を指で穿ると、彼が背中を逸らした。晒された白い喉が、妖艶に動く。

「……ッぁ、ぁはっ _____!」

 二度目の射精は、どろりと熱が溢れるだけだった。仰け反っていた光太朗は脱力し、首に回していた腕も解かれて落ちる。

 意識を無くし寝台に倒れ込もうとする光太朗を、リーリュイは抱き留めた。

 彼の頬や、濡れた目尻、鼻梁、その全てに唇を落としながら、枕へと沈ませる。
 汗に濡れた前髪を優しく掻き分け、そこにも唇を落とした。ぐったりとした光太朗を見下ろして、リーリュイは頭を抱えながら息を吐く。

(……馬鹿だな、私は……。優しくするつもりだったのに、嫉妬なぞに駆られ……)

 光太朗への感情が、抑えられない。彼の感情は若葉のように柔らかであるというのに、それを忘れて自分の感情を押し付けてしまう。

 特に今回の件では、光太朗の精神面に大きな懸念点がある事が分かったのだ。それもいずれ、明らかにしなければならない。

(大切に慎重に彼に接しなければ……本当に彼は壊れてしまう。……嫉妬など、この年になって……)

 胸を突く罪悪感に顔を歪めていると、ふと光太朗の首筋に目が行く。そこにはイーオに付けられたであろう痕が、淡く残っていた。

 憂い顔から一転、リーリュイは顔を剣呑な物に変えた。武器庫のシーンが甦り、怒りと独占欲が湧き出してくる。

 リーリュイは光太朗に残る痕へ唇を落とし、上書きのように吸い上げた。
 意識の無い光太朗が、ぴくりと身体を震わせる。反応が愛おしくて、彼の真っ黒な髪を梳くように撫でた。

(ああ……駄目だ。……君が可愛すぎるからいけないんだ……光太朗……)

 結局、リーリュイは複数ある痕を全て上書きした。そして光太朗に残る痕が赤々と酷くなった事に、また後悔と罪悪感を抱くはめになる。
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