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渦中に落ちる
第87話 年齢事情
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身体は回復に向かっている。しかしまだ安静が必要。
そう診断を下すリノに、光太朗は「この世界の年齢について教えてくれ」と泣きついた。どうしてもこの世界の年齢事情が知りたかったのだ。
光太朗が土下座すると、リノは慌てて了承してくれた。
寝台のクッションを背もたれにしていると、リノが使用人を連れてきた。手にはバインダーのような物を持っていて、リノは紙とペンを携えている。
さすがお医者様だ。本格的な説明が始まりそうな予感に、光太朗は少しわくわくした。
「さて、コウ様。文字は読めますか」
「うん。一通り読めます」
「なんと、優秀ですね。フェンデで読み書きができるのは、屋敷勤めの者だけかと思っておりました」
リノはそう言うと、にっこりと笑う。
薄桃色の髪は肩の辺りで切り揃えてあり、目はこれでもかと言う程の垂れ目だ。しかも目尻にほくろが一つ。
リノは男性だが、女性のような色気が時折垣間見える。保健室の先生だったら、生徒が殺到しそうだ。ついでに声も艶っぽい。
「さて本題です。この世界の住人、更にザキュリオ国に絞って説明します。平均寿命は約150歳から250歳。幅が広いのは、魔法が使えるか使えないかが大きいです。身体に取り込んだ晄露を上手く使うことが出来る者は、自然と寿命が長くなります」
「……使えなくても150歳か……。俺の前世と比べると、随分長生きだ。成長速度は?」
光太朗が質問すると、リノはさらさらと紙に説明を書き連ねていく。授業を受けている学生のような気分だ。リノは書きながら、光太朗の問いに答えていく。
「成長速度は人によってまちまちです。特に魔法が使える者は、成長の速度が顕著に違います。人によって幼児期が長かったり、青年期が長かったり……そしてある程度成長すると、見た目が殆ど変わらなくなります」
「それは……老いないってこと?」
「老いないことはありませんが、緩やかになります。現国王はもうすぐ300歳になりますが、未だ身体に衰えはありません」
「は!? 300歳!! リュウのお父さん、300歳なのか!?」
光太朗が叫ぶと、リノが吹き出した。紙を持つ使用人も肩を揺らしているのを見て、光太朗は首を傾げる。
リノは目尻を拭いながら、光太朗を見た。
「あ、はは、お父さんか。確かにお父さんですね」
「? 俺、何かおかしい事言った?」
「いえ、何もおかしくありませんよ。ただ、我々の中での国王は国王でしかないので……。そうですね。国王も父親に違いありません」
「……あんまり、仲良くないのか?」
光太朗がそう言うと、リノは微笑みながら眉を顰める。
「この国にフェブールが現れてから約180年。現れるフェブールをどんどん手中に収めた国王は、強大な力を得てきました。……それに比例して……何と言いますか……」
「人間臭さも無くなった?」
「……はい、その通り。初めてお子を授かった際は、それはそれは喜んでいらっしゃいましたが、殿下は末子であらせられますので……。しかし今、王から一番寵愛を受けているのは殿下です。抜きん出て優秀ですから」
光太朗の脳裏にリーリュイの顔が浮かんだ。彼は無表情で、視線を下に落としている。
会ったばかりの頃、彼は良くこういう表情をしていた。暫く見ていないが、寂しそうな表情だったことだけは覚えている。
「リノ先生。リュウのお母さんは元気?」
「……はい。都に居を構えておられます。……詳しいことは、殿下からお聞きになって下さい」
「……そっか。分かった」
「さぁさぁ、もうお休みになってください。ひと眠りすれば、殿下が帰ってこられます」
リノはそう言うと光太朗の身体を少し抱え、てきぱきと寝る体制へと移行させる。強制的に寝かされるのは不本意だが、リノは力が馬鹿みたいに強い。
更に言うとカザンより容赦がない。光太朗が痛みに顔を歪めようとも、彼はお構い無しなのだ。
しかし寝るのにも限界がある。3日も寝て、今起きたばかり。座っていても身体が鈍っているのを感じるため、動き出したくてうずうずする。
「……あ~、3日も寝てたから睡魔も休暇中みたいだ。全然眠くない。……身体を動かしたら、眠れそうなんだけどなぁ? 庭を散歩したいなぁ、なんて……」
布団から顔を出してそう言うと、リノが垂れ目を不穏に垂れさせた。一瞬で穏やかな印象がガラリと変わる、リノの得意技だ。
「……コウ様。痛み止めを止めましょうか? 薬がない状態でどれだけ痛むか、体験してみますか?」
「すみませんでした」
「コウ様は物分かりが良くて、私も助かります。……カーテンを閉めなさい」
使用人にそう指示をして、リノは微笑む。その笑みは元の温和なものに戻っているが、それが逆に怖い。
光太朗は素直に毛布を引き上げると、目を閉じた。
そう診断を下すリノに、光太朗は「この世界の年齢について教えてくれ」と泣きついた。どうしてもこの世界の年齢事情が知りたかったのだ。
光太朗が土下座すると、リノは慌てて了承してくれた。
寝台のクッションを背もたれにしていると、リノが使用人を連れてきた。手にはバインダーのような物を持っていて、リノは紙とペンを携えている。
さすがお医者様だ。本格的な説明が始まりそうな予感に、光太朗は少しわくわくした。
「さて、コウ様。文字は読めますか」
「うん。一通り読めます」
「なんと、優秀ですね。フェンデで読み書きができるのは、屋敷勤めの者だけかと思っておりました」
リノはそう言うと、にっこりと笑う。
薄桃色の髪は肩の辺りで切り揃えてあり、目はこれでもかと言う程の垂れ目だ。しかも目尻にほくろが一つ。
リノは男性だが、女性のような色気が時折垣間見える。保健室の先生だったら、生徒が殺到しそうだ。ついでに声も艶っぽい。
「さて本題です。この世界の住人、更にザキュリオ国に絞って説明します。平均寿命は約150歳から250歳。幅が広いのは、魔法が使えるか使えないかが大きいです。身体に取り込んだ晄露を上手く使うことが出来る者は、自然と寿命が長くなります」
「……使えなくても150歳か……。俺の前世と比べると、随分長生きだ。成長速度は?」
光太朗が質問すると、リノはさらさらと紙に説明を書き連ねていく。授業を受けている学生のような気分だ。リノは書きながら、光太朗の問いに答えていく。
「成長速度は人によってまちまちです。特に魔法が使える者は、成長の速度が顕著に違います。人によって幼児期が長かったり、青年期が長かったり……そしてある程度成長すると、見た目が殆ど変わらなくなります」
「それは……老いないってこと?」
「老いないことはありませんが、緩やかになります。現国王はもうすぐ300歳になりますが、未だ身体に衰えはありません」
「は!? 300歳!! リュウのお父さん、300歳なのか!?」
光太朗が叫ぶと、リノが吹き出した。紙を持つ使用人も肩を揺らしているのを見て、光太朗は首を傾げる。
リノは目尻を拭いながら、光太朗を見た。
「あ、はは、お父さんか。確かにお父さんですね」
「? 俺、何かおかしい事言った?」
「いえ、何もおかしくありませんよ。ただ、我々の中での国王は国王でしかないので……。そうですね。国王も父親に違いありません」
「……あんまり、仲良くないのか?」
光太朗がそう言うと、リノは微笑みながら眉を顰める。
「この国にフェブールが現れてから約180年。現れるフェブールをどんどん手中に収めた国王は、強大な力を得てきました。……それに比例して……何と言いますか……」
「人間臭さも無くなった?」
「……はい、その通り。初めてお子を授かった際は、それはそれは喜んでいらっしゃいましたが、殿下は末子であらせられますので……。しかし今、王から一番寵愛を受けているのは殿下です。抜きん出て優秀ですから」
光太朗の脳裏にリーリュイの顔が浮かんだ。彼は無表情で、視線を下に落としている。
会ったばかりの頃、彼は良くこういう表情をしていた。暫く見ていないが、寂しそうな表情だったことだけは覚えている。
「リノ先生。リュウのお母さんは元気?」
「……はい。都に居を構えておられます。……詳しいことは、殿下からお聞きになって下さい」
「……そっか。分かった」
「さぁさぁ、もうお休みになってください。ひと眠りすれば、殿下が帰ってこられます」
リノはそう言うと光太朗の身体を少し抱え、てきぱきと寝る体制へと移行させる。強制的に寝かされるのは不本意だが、リノは力が馬鹿みたいに強い。
更に言うとカザンより容赦がない。光太朗が痛みに顔を歪めようとも、彼はお構い無しなのだ。
しかし寝るのにも限界がある。3日も寝て、今起きたばかり。座っていても身体が鈍っているのを感じるため、動き出したくてうずうずする。
「……あ~、3日も寝てたから睡魔も休暇中みたいだ。全然眠くない。……身体を動かしたら、眠れそうなんだけどなぁ? 庭を散歩したいなぁ、なんて……」
布団から顔を出してそう言うと、リノが垂れ目を不穏に垂れさせた。一瞬で穏やかな印象がガラリと変わる、リノの得意技だ。
「……コウ様。痛み止めを止めましょうか? 薬がない状態でどれだけ痛むか、体験してみますか?」
「すみませんでした」
「コウ様は物分かりが良くて、私も助かります。……カーテンを閉めなさい」
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