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魔導騎士団の専属薬師
第54話 秘伝のスパイス
しおりを挟む包みの中は、たくさんのホットサンドだった。
きつね色に焼き上げられたそれは、断面が見えるように切りそろえられている。野菜や肉が挟んであり、色鮮やかで美味しそうだ。
「すっげー! 美味そう!」
「兵舎の料理人に作らせた。本当は私が作りたかったのだが、早朝に厨房が使えなくてな」
「ありがとう、リュウ! 本当に俺、これ食べていいのか?」
「勿論だ。全部食べても構わない」
「あはは。全部食べたら、俺の腹がはち切れちまう」
そう言いながら、光太朗は手を合わせた。隣にいるリーリュイに視線を投げると、彼も手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます。召し上がれ」
リーリュイの声を聞きながら、光太朗はホットサンドに手を伸ばした。
口に入れると、じわりと肉汁が溢れてくる。咀嚼すると、野菜の歯ごたえも相まって最高に美味だった。
「……おいひぃ……うまぁ……」
光太朗が夢中になって齧りついていると、リーリュイの眉根になぜか皺が寄る。
もぐもぐと咀嚼しながら、光太朗は小首を傾げた。その仕草を見て、リーリュイも慌てたようにホットサンドを齧る。
「……君は、こんな味が好きなのか……」
「肉汁もいっぱい、味付けも濃い。中毒性がある味だぁ……好き。めっちゃ好き」
「……たまにはこういうのもいいだろうが……バランスに気をつけて、油と調味料の過剰摂取は良くない」
「うんうん。そうだよな。でもうまい」
「……」
リーリュイの眉間の皺が、更に寄る。
それを不思議に思いながら、光太朗はまたホットサンドに齧りついた。やっぱり美味い。
キュウ屋近くの商店街は年齢層が高い。そのせいか、こういった若者向けのものが少ないのだ。
魚屋の惣菜のような家庭的な味も良いが、たまにはガツンとした味付けの物も食べたい。
(美味いのは美味い。……でもやっぱり……)
そう思いながら、光太朗はリーリュイを見た。
眉間に皺が寄っていても、相変わらずの男前だ。光太朗はふすりと笑う。
「やっぱり……リュウと食べると、何でも一層美味しくなるな。あんたは秘伝のスパイスか」
「……ス、スパイス? まっ、また君は、そういった事を……」
「だってそうなんだよ。……お、ハウゼ達だ。来たなぁ」
近くの茂みから、ひょっこりといくつもの毛玉が顔を出す。長い耳をピンと立てたハウゼ達は、光太朗を見ると一斉に走り寄ってきた。
その姿を見た光太朗は、自身の鞄から小さな袋を取り出す。昨日のうちに用意していた彼らの食事だ。掌にそれを出すと、ハウゼたちが群がってきた。
「まだまだあるから、慌てるなよ」
「こ、光太朗……それは……?」
リーリュイは、信じられないといった表情を浮かべて、光太朗の手を見ている。光太朗は「ああ、これ?」と言いながら、リーリュイに小袋を差し出した。
「木の実とか穀物とかを乾煎りしたものなんだけど、こいつらこれが好きでさ。いつもあげてたら、自然と集まってくるようになって……」
「き、君は……自分の食事は準備しないのに、ハウゼの食事は準備するのか?」
「……自分の飯作るのは面倒だろ。これは薬の調合のついでで作ったものだし、こんだけ喜んで食べてくれるとなぁ」
頬をぱんぱんに膨らませながら、ハウゼ達は忙しなく口を動かす。
見た目はウサギなのに、口元と小ささはリスにそっくりだ。寄り添い合って食べる姿はとても微笑ましい。
光太朗が頬を緩ませていると、リーリュイが深いため息を吐く。光太朗が視線を向けると、リーリュイの真剣な眼差しとかち合った。
「……諸々は、さて置いて……」
「ああ、さて置くか」
「君に、聞きたいことがある」
「……いいよ。答えられる事なら」
そう言いながら、光太朗は視線を下げた。ハウゼの顎を撫でると「ぷるる」と喉が鳴る。
リーリュイから何を聞かれるのか予想していると、彼は深刻そうに口を開いた。
「光太朗。君の生活水準は、どう考えてもおかしい。最近は騎士たちの来店も増えただろう? それなのに君の生活は、どう見ても平均以下だ。稼いだ金はどう管理しているんだ?」
「なんだ、その話か。てっきり昔の事を聞かれるかと……」
「聞きたいことは山ほどあるが、まずは君の環境を整えるのが先だ。だからさて置いたと言ったろう?」
リーリュイの真剣な目で射貫かれ、光太朗は少し仰け反った。どれをどれだけ話していいか慎重に考えて、光太朗は口を開く。
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