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魔導騎士団の専属薬師
第52話 魔法の素
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「ちょっとこのでかさじゃ、持って帰れないな。今日は素材を取りに来たわけじゃないし、エイバはこのまま置いて行くか。勿体ないけど」
光太朗のその言葉に、ロブが反応した。
「コウさん、俺が捌きます。兵舎に持ち帰ったら料理人が喜びますし……必要な部位があったら言ってください」
「まじか! ありがとう、ロブ! エイバは肉も硬くてさぁ、捌くの大変だったんだよ……ほんと助かる!」
「慣れているので大丈夫ですよ。捌いている間に、薬草取り済ませちゃってください」
そう言いながら、ロブはエイバの脇に膝を付いた。太腿のホルダーから見事な短剣を取り出し、それをエイダの身体へと突き立てる。
騎士の支給品だろうか。短剣の切れ味はかなりのもので、エイバの肉は綺麗に割かれていく。
(良い短剣だなぁ……俺の鈍らとは大違いだ)
思えば薬草の調達に、貴重な騎士たちの人力を使っているのは如何なものか。そうは思うものの、光太朗は素直に甘えることにした。
リーリュイの期待にも応えたいし、冬に備えて薬草は多めに取っておきたい。
光太朗は木の間にしゃがみこみ、目当ての薬草を探す。茸も取っておきたいと目を凝らした、その時だった。
地面から突き出ている岩と岩の間から、琥珀色の泡がぽこりと顔を出す。それはまるでシャボン玉のように次々生み出され、空気に漂って流れていく。
この世界に来てから、森の中でたまに見る現象だった。琥珀色の泡がきらきらと輝いて、とても美しい。
それを眺めていると、リーリュイが隣へと腰を下ろした。
「よく見つけたな、光太朗。晄露が珠になっている……この晄泉はかなり大きい。ウルフ! 来てくれ!」
「なんだ? おお、晄泉か! かなりでかいな!」
「晄泉? 晄露?」
「ああ、コウさんは知らないんだな。晄露は魔法の素なんだよ」
光太朗が首を傾げると、ウルフェイルが鞄から地図を取り出した。彼が折りたたんだそれを広げ始めると、リーリュイが代わりに口を開く。
「晄露という成分は、この世界の空気に微量ながら含まれている。その晄露に長く触れている人間は、魔法を発動させることができる可能性がある。つまりこの世界で産まれた人間全てに、その可能性があるということだ……しかし、実際には極少数にとどまっている」
ウルフェイルが地図に何やら書き込み始めた。この晄泉の場所を書き記しているようだ。ペンを動かしながら、ウルフェイルは口端を吊り上げる。
「小さいころから特殊な訓練を積んでいないと……いや、どんなに努力しても魔法を発動できない者もいる。俺も、習得には苦労したよ」
「光太朗、晄露はこの世界のあらゆる物に役立っているんだ。最近では街灯にも使われ始めた。貴重な燃料と言えば、分かりやすいだろうか?」
「ああ、なるほど。だから晄露が湧いている場所は、書き記す必要があるんだな。国に報告しなきゃいけないのか?」
リーリュイが黙って頷くと、地図に印を書き終えたウルフェイルが盛大にため息を吐いた。
「その通り。だけど晄泉は毎年減っていく一方だ。お陰で国境にある未開の土地にまで、捜索の手が伸びることとなった。俺たち魔導騎士団は、晄泉の捜索隊みたいなもんだよ」
「……そりゃ、大変だな。この辺の土地は、危険な魔獣も多く住んでるし……」
そう零しながら、光太朗は一つ疑問に思った。
(そういや、第10騎士団は、どうなったんだ?)
未開の地に捨て駒として送られていた彼らは、今でも活動しているのだろうか。だとすれば、この地に送られてくるのも第10騎士団が相当なのではないか。
光太朗が考え込んでいると、ウルフェイルが静かに笑った。
「やはり今度来るフェブールは、リガレイア国王のようなお方がいいな」
「リガレイア?」
「ああ、ここザキュリオから遠く南にある大国だ。そこを治めるのはフェブールで、彼は晄露を自在に操る能力があるのだという」
「へぇ……」
光太朗が中身のない返事をすると、リーリュイが困ったように笑う。いまいちピンと来ていない光太朗へ、リーリュイは説明を付け足した。
「今まで体内にため込んできた晄露を、変換して発動するのが魔法だ。だから通常の魔法使いは、魔法の発動に上限がある。体力と一緒だ。しかしリガレイア国王は、大地に眠る晄露の力を引き出すことができる」
「……じゃあ、無限に魔法が使えるってこと?」
「そういう事になる。しかも彼は、晄泉を見つけることができる。彼のお陰でリガレイアは、他の追随を許さない大国へと変化した」
なるほど、と頷いた光太朗を見て、リーリュイは更に眉を下げた。その表情は、何も知らない新人に物を教えている上官のようだ。
光太朗はやたらと優しい上官へ、礼の代わりに笑顔を送る。するとリーリュイは途端に真顔になり、そそくさと立ち上がった。
「ウルフと少し話してくる。光太朗はこの場を離れないように」
「……いえっさー。上官殿」
光太朗が軽い口調で返すと、リーリュイは薄く笑ってウルフェイルを振り返る。何やら話し合う2人の背中を見遣った後、光太朗はもう一度晄泉に視線を移した。
光太朗のその言葉に、ロブが反応した。
「コウさん、俺が捌きます。兵舎に持ち帰ったら料理人が喜びますし……必要な部位があったら言ってください」
「まじか! ありがとう、ロブ! エイバは肉も硬くてさぁ、捌くの大変だったんだよ……ほんと助かる!」
「慣れているので大丈夫ですよ。捌いている間に、薬草取り済ませちゃってください」
そう言いながら、ロブはエイバの脇に膝を付いた。太腿のホルダーから見事な短剣を取り出し、それをエイダの身体へと突き立てる。
騎士の支給品だろうか。短剣の切れ味はかなりのもので、エイバの肉は綺麗に割かれていく。
(良い短剣だなぁ……俺の鈍らとは大違いだ)
思えば薬草の調達に、貴重な騎士たちの人力を使っているのは如何なものか。そうは思うものの、光太朗は素直に甘えることにした。
リーリュイの期待にも応えたいし、冬に備えて薬草は多めに取っておきたい。
光太朗は木の間にしゃがみこみ、目当ての薬草を探す。茸も取っておきたいと目を凝らした、その時だった。
地面から突き出ている岩と岩の間から、琥珀色の泡がぽこりと顔を出す。それはまるでシャボン玉のように次々生み出され、空気に漂って流れていく。
この世界に来てから、森の中でたまに見る現象だった。琥珀色の泡がきらきらと輝いて、とても美しい。
それを眺めていると、リーリュイが隣へと腰を下ろした。
「よく見つけたな、光太朗。晄露が珠になっている……この晄泉はかなり大きい。ウルフ! 来てくれ!」
「なんだ? おお、晄泉か! かなりでかいな!」
「晄泉? 晄露?」
「ああ、コウさんは知らないんだな。晄露は魔法の素なんだよ」
光太朗が首を傾げると、ウルフェイルが鞄から地図を取り出した。彼が折りたたんだそれを広げ始めると、リーリュイが代わりに口を開く。
「晄露という成分は、この世界の空気に微量ながら含まれている。その晄露に長く触れている人間は、魔法を発動させることができる可能性がある。つまりこの世界で産まれた人間全てに、その可能性があるということだ……しかし、実際には極少数にとどまっている」
ウルフェイルが地図に何やら書き込み始めた。この晄泉の場所を書き記しているようだ。ペンを動かしながら、ウルフェイルは口端を吊り上げる。
「小さいころから特殊な訓練を積んでいないと……いや、どんなに努力しても魔法を発動できない者もいる。俺も、習得には苦労したよ」
「光太朗、晄露はこの世界のあらゆる物に役立っているんだ。最近では街灯にも使われ始めた。貴重な燃料と言えば、分かりやすいだろうか?」
「ああ、なるほど。だから晄露が湧いている場所は、書き記す必要があるんだな。国に報告しなきゃいけないのか?」
リーリュイが黙って頷くと、地図に印を書き終えたウルフェイルが盛大にため息を吐いた。
「その通り。だけど晄泉は毎年減っていく一方だ。お陰で国境にある未開の土地にまで、捜索の手が伸びることとなった。俺たち魔導騎士団は、晄泉の捜索隊みたいなもんだよ」
「……そりゃ、大変だな。この辺の土地は、危険な魔獣も多く住んでるし……」
そう零しながら、光太朗は一つ疑問に思った。
(そういや、第10騎士団は、どうなったんだ?)
未開の地に捨て駒として送られていた彼らは、今でも活動しているのだろうか。だとすれば、この地に送られてくるのも第10騎士団が相当なのではないか。
光太朗が考え込んでいると、ウルフェイルが静かに笑った。
「やはり今度来るフェブールは、リガレイア国王のようなお方がいいな」
「リガレイア?」
「ああ、ここザキュリオから遠く南にある大国だ。そこを治めるのはフェブールで、彼は晄露を自在に操る能力があるのだという」
「へぇ……」
光太朗が中身のない返事をすると、リーリュイが困ったように笑う。いまいちピンと来ていない光太朗へ、リーリュイは説明を付け足した。
「今まで体内にため込んできた晄露を、変換して発動するのが魔法だ。だから通常の魔法使いは、魔法の発動に上限がある。体力と一緒だ。しかしリガレイア国王は、大地に眠る晄露の力を引き出すことができる」
「……じゃあ、無限に魔法が使えるってこと?」
「そういう事になる。しかも彼は、晄泉を見つけることができる。彼のお陰でリガレイアは、他の追随を許さない大国へと変化した」
なるほど、と頷いた光太朗を見て、リーリュイは更に眉を下げた。その表情は、何も知らない新人に物を教えている上官のようだ。
光太朗はやたらと優しい上官へ、礼の代わりに笑顔を送る。するとリーリュイは途端に真顔になり、そそくさと立ち上がった。
「ウルフと少し話してくる。光太朗はこの場を離れないように」
「……いえっさー。上官殿」
光太朗が軽い口調で返すと、リーリュイは薄く笑ってウルフェイルを振り返る。何やら話し合う2人の背中を見遣った後、光太朗はもう一度晄泉に視線を移した。
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