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魔導騎士団の専属薬師

第49話 薬草取るのも一苦労

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 夜明け前の空が、じわりと明るくなっていく。光太朗はほうっと息を吐き、白い湯気を見て頬を緩める。今日も良い天気になりそうだ。

 早朝のキュウ屋には予定通り、光太朗とリーリュイ、ウルフェイルとロブが集まった。
 光太朗はいつものように目を眇め、ウルフェイルとロブを見る。

「ウルフとロブは、騎士の仕事に支障はないのか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。俺らも同行させてくれ」
「そうか。ならいい」

 すっと寄っていた眉を戻して、光太朗はにこりと微笑む。ウルフェイルとロブは、光太朗を姿をちらりと見た。

 シャツの上には簡易的な皮の胸当て。腰につけた鞄は大きいが、ズボンは普通の布製だ。
 あまりの軽装に、ウルフェイルは咳ばらいを零した。

「こ、コウさんさ。薬草の調達って、国境を抜けるんだろ? フキミスの森には、魔獣もたくさん出るし……大体、寒くないのか?」
「寒い。でも直ぐに温まるから、上着は邪魔になる」
「?」

 ウルフェイルとロブが首を捻ると、光太朗がその場で足踏みを始めた。やはり寒いようで、光太朗は腕を擦りながら国境の方向を指さす。

「俺は、いつも走って森に行くんだ。走ったら温まるだろ? さ、さむい。早く出発しよう」
「走って……? フキミスの森までは30サーバはあるぞ?」
「……30サーバ……。そうだな、大体15キロぐらいだろ? そんなに遠くない。普段あんたらもそれくらい走ってるだろ?」
「我々だったら、そうだが……」

 ウルフェイルがそう言いかけた所で、リーリュイが光太朗の方へ歩み寄った。手に持っていたブランケットを広げ、それを光太朗の肩へと掛ける。

「光太朗。走って行ったら温まるだろうが、今日は馬で行く約束だろう? 馬上は冷える」
「ん? 俺は馬に乗れないが……」
「……まさか、自分だけ走って行くつもりでいたのか?」
「違うのか?」

 黙って頷くリーリュイを見た後、光太朗はウルフェイルにも視線を移した。彼も慌てて頷くのを見て、光太朗はブランケットを胸元へかき寄せる。

「何だ、そうだったのか。そりゃこの格好じゃ寒いわ」
「コウさん。防寒対策もだけど、軽装すぎるぞ? まぁ、俺たちがいるから大丈夫だと思うが……」
「いつもこの格好だから大丈夫だろ。さぁ、早く行こう」

 リーリュイが馬に跨り、光太朗もその馬に乗り込んだ。光太朗をすっぽり包むようにリーリュイが手綱を握ると、彼から感嘆の声が漏れる。

「うぉお、結構高い! 前の世界の馬よりでかい気がする!」
「光太朗、暴れるな。私に背中を預けて、じっとしておくんだ」
「いえっさー、騎士殿!」

 光太朗は軽い口調でそう言うと、力いっぱいリーリュイに凭れ掛かった。全体重を掛けて凭れても、リーリュイの身体はぴくりとも動かない。
 驚いた光太朗は、隣にいたロブにきらきらとした目を向けた。

「岩みたいに動かねぇ。騎士ってすげぇんだな」
「コ、コウさん。そりゃ、騎士の中でもトップの……ひぃっ」

 光太朗の後ろにいるリーリュイに睨まれ、ロブは馬上で竦み上がった。助けを求めるようウルフェイルを見ると、彼は肩を竦めるばかりだ。

(団長も副団長も、何で身分を隠そうとするんだよ! すっげぇやりにくい……。っていうか何で、俺は呼ばれたんだろう……)

 完全に中和剤のような役割を押し付けられ、ロブはそわそわしっぱなしだった。その上、光太朗に怪我をさせないようにと、ウルフェイルに口酸っぱく言いつけられている。
 緊張感が緩む間もないまま、一行は国境にあるフキミスの森へと発った。

___

 馬上で、光太朗とリーリュイは何やら楽しそうに話している。それをちらりと見遣って、ウルフェイルは並走しているロブへと声を掛けた。

「見ろよ。あんなに人間味のあるリーリュイ、見たことねぇ」
「はい。それもそうなんですが……キュウヤ、いやコウさんが……まじで可愛いです」
「異論なし。まじで可愛い」

 キュウ屋ではいつも眉に皺を寄せている光太朗が、今日は機嫌よくニコニコと笑っている。特にリーリュイの側にいるときは、彼の目つきが悪くなることがない。

 重たい前髪も風に揺れて、綺麗な瞳が顔を出す。その瞳が弧を描くと、目が惹きつけられてしまう。

「お二人って、やっぱり……そうなんですよね?」
「そう思うだろ? そうじゃないらしいんだよ、これが」
「……お似合いだけどなぁ……。コウさん、身分差を気にしてるんでしょうか?」
「いや、これが分かんねぇんだよ。だから今回、2人がどんな感じなのか見ておきたいと思って……」

 ウルフェイルが会話を止め、遠く前方を睨んだ。森の入口に、何かの群れが見える。
 群れの中の一匹がこちらに向けて駆けてくるのを見て、ウルフェイルはロブへと声を放った。

「フキミスウルフだ。ロブ!」
「はい!」

 返事をしながらロブは馬を降り、フキミスウルフへと走る。抜刀しながら攻撃しようとしたロブは、腰に佩いた剣に手を掛けた。
 攻撃対象であるフキミスウルフが、牙を剥くのが見える。距離を測りながらロブが剣を抜こうとした、その時だった。

 目の前のフキミスウルフの顔が、突如としてぐにゃりと歪む。その顔に刺さっているのは、紛れもなく人間の脚だ。

 短い鳴き声とともに、フキミスウルフが後方へと吹き飛んだ。ロブは驚愕のあまり固まり、いつの間にか真横にいた光太朗を見遣る。
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