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魔導騎士団の専属薬師
第46話 怒涛の一日 やっと夕方 ⑦
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「食べすぎた……。苦しい」
食べ終わった皿を片づけながら、光太朗はふーっと息を吐き出した。まともな食事が久しいのにも関わらず、いつもより大分多めに食べてしまったのだ。
久々に味わう満腹感を逃がすように、光太朗は胃のあたりを擦る。するとそれに気づいたリーリュイが、光太朗の持っていた皿を取り上げた。
「君は座ってていい。私が片づける」
「いや、そういうわけにはいかない。皿、返してくれよ。……ちょっと出てくる」
「どこに行く?」
「この家には水道が無いから、路地裏の井戸で皿を洗ってくる。ついでに風呂用の水も調達する」
「……薄々気づいてはいたが、やはり水道が通っていないのか」
リーリュイの問いに頷きながら、光太朗は物置になっている厨房から洗い桶を取り出した。そしてリーリュイの手から皿を奪おうとして、阻まれる。
ひょいと皿を頭上高く持ち上げたリーリュイは、一言発した。
「私がやる」
「駄目だ、返せ。寒空の中、皿洗いなんかさせられるか」
光太朗が手を伸ばしても、体格差のせいで皿には届かない。ムキになってぴょんぴょん跳ねていると、リーリュイがくすりと笑う。
「では、一緒に行こう。光太朗」
「……分かったよ。さっと終わらせるか」
諦めたように息を吐き、光太朗は洗い桶を手にドアを開けた。一気に冷気が流れ込んできて、光太朗はぶるりと身体を震わせる。
「う~! やっぱ寒いな! リュウ、こっちだ」
井戸はすぐ近くの路地裏にあり、今では光太朗以外誰も使っていない。人目につかない場所でもあるので、暑い日は水を浴びたりもする場所だ。
井戸の脇に置いてある木の作業台は、光太朗が設置したものだ。そこでリーリュイと一緒に皿を洗う。
空を見上げると、月のような物が二つ輝いていた。雲一つない夜空だ。寒さが鋭いのは、今日が晴天だったからだろう。
「リュウ。……あれは『月』で間違いないか? 発音合ってる?」
「合っている。光太朗のいた世界でも、月はあったのか?」
「あっちの世界では、月は一つしかない。この世界は月が二つあるお陰で、夜も明るい気がするな」
皿を洗う手元を見ていると、横にいるリーリュイの手も視界に入る。
彼は褐色の大きな手で丁寧に皿を撫でているが、その手つきはやはりぎこちない。普段はこんな雑用などしないのだろう。
一通り皿を洗い終えた光太朗は、上着から手拭いを取り出した。それでリーリュイの手を包み込み、上から握り込む。
リーリュイの手の血流が良くなるように、光太朗はその手をぎゅうぎゅうとマッサージした。
「冷たかったろ? こうすると、直に温まるから」
「これでは君の手が冷たい」
「俺は慣れてるから平気だ。……なぁ、リュウ。俺はあんたに、何も返せない」
リーリュイの大きな手を見ながら、光太朗はそう零した。
3年前から、リーリュイには貰ってばかりだった。その恩は一つも返せていない。
それどころか恩は増えていく一方だ。
「食べすぎた……。苦しい」
食べ終わった皿を片づけながら、光太朗はふーっと息を吐き出した。まともな食事が久しいのにも関わらず、いつもより大分多めに食べてしまったのだ。
久々に味わう満腹感を逃がすように、光太朗は胃のあたりを擦る。するとそれに気づいたリーリュイが、光太朗の持っていた皿を取り上げた。
「君は座ってていい。私が片づける」
「いや、そういうわけにはいかない。皿、返してくれよ。……ちょっと出てくる」
「どこに行く?」
「この家には水道が無いから、路地裏の井戸で皿を洗ってくる。ついでに風呂用の水も調達する」
「……薄々気づいてはいたが、やはり水道が通っていないのか」
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ひょいと皿を頭上高く持ち上げたリーリュイは、一言発した。
「私がやる」
「駄目だ、返せ。寒空の中、皿洗いなんかさせられるか」
光太朗が手を伸ばしても、体格差のせいで皿には届かない。ムキになってぴょんぴょん跳ねていると、リーリュイがくすりと笑う。
「では、一緒に行こう。光太朗」
「……分かったよ。さっと終わらせるか」
諦めたように息を吐き、光太朗は洗い桶を手にドアを開けた。一気に冷気が流れ込んできて、光太朗はぶるりと身体を震わせる。
「う~! やっぱ寒いな! リュウ、こっちだ」
井戸はすぐ近くの路地裏にあり、今では光太朗以外誰も使っていない。人目につかない場所でもあるので、暑い日は水を浴びたりもする場所だ。
井戸の脇に置いてある木の作業台は、光太朗が設置したものだ。そこでリーリュイと一緒に皿を洗う。
空を見上げると、月のような物が二つ輝いていた。雲一つない夜空だ。寒さが鋭いのは、今日が晴天だったからだろう。
「リュウ。……あれは『月』で間違いないか? 発音合ってる?」
「合っている。光太朗のいた世界でも、月はあったのか?」
「あっちの世界では、月は一つしかない。この世界は月が二つあるお陰で、夜も明るい気がするな」
皿を洗う手元を見ていると、横にいるリーリュイの手も視界に入る。
彼は褐色の大きな手で丁寧に皿を撫でているが、その手つきはやはりぎこちない。普段はこんな雑用などしないのだろう。
一通り皿を洗い終えた光太朗は、上着から手拭いを取り出した。それでリーリュイの手を包み込み、上から握り込む。
リーリュイの手の血流が良くなるように、光太朗はその手をぎゅうぎゅうとマッサージした。
「冷たかったろ? こうすると、直に温まるから」
「これでは君の手が冷たい」
「俺は慣れてるから平気だ。……なぁ、リュウ。俺はあんたに、何も返せない」
リーリュイの大きな手を見ながら、光太朗はそう零した。
3年前から、リーリュイには貰ってばかりだった。その恩は一つも返せていない。
それどころか恩は増えていく一方だ。
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