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はじまりの章

第11話 最重要確認事項

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 その男、ゲイラスに走り寄り、リーリュイは背中を蹴り飛ばそうと脚を曲げた。
 
 しかし蹴り飛ばす直前に、ゲイラスが呻き声を上げて仰け反る。額を押さえたゲイラスは、忌々し気に唸り吐き捨てた。

「っつ……! クソがっ!! やっと大人しくなったと思ったのにこの野、ぐぇっ!!」

 言葉半ばだったが、リーリュイは予定通りゲイラスを蹴り飛ばした。
 その身体は真横へゴロゴロと転がり、彼に組み敷かれていた身体が露わになる。それは確かに、戦場で共に戦ったフェンデだった。

 辛うじて身体に巻き付いている服は破けて血に濡れ、露わになっている素肌には幾つもの打撲痕がある。

 怒りに喉を鳴らしながら、リーリュイはマントを脱いだ。それを光太朗へと掛け、ゲイラスに、剣を向ける。

「貴様が、第10騎士団の団長か?」

「……!! だ、第7騎士団の……!」

 リーリュイに気付いたゲイラスは、慌ててその場に跪いた。その姿に鋭い視線を投げながら、リーリュイは光太朗の脇に膝を折る。

 光太朗は仰向けに横たわったまま、ぐったりとしている。その額は血に濡れ、顔にも痣が痛々しく浮かんでいた。
 最後の力をふり絞って、ゲイラスに頭突きをしたのだろう。荒い息をついている光太朗に、リーリュイは声を掛けた。

「……大丈夫か?」

 どう見ても大丈夫では無い。リーリュイにもそれは分かっていた。しかし自分自身も動揺と憤りで、適切な言葉が出て来ない。

 その言葉に反応したのか、光太朗の唇が動く。意識がしっかりとしていないのか、うなされているような声だった。
 リーリュイは身を屈め、光太朗の言葉に耳を寄せる。

「……こ……」

「こ……?」

 額から流れる血が目に入ったのか、光太朗は薄目のままリーリュイを見る。

「……ちん、こ」
「!?」

 突然飛び出した淫猥な言葉に、リーリュイは驚愕しながら光太朗の顔を見遣った。しかしその顔は、子供のが泣き出す前のような純粋さだ。悔しそうに、光太朗は言葉を紡ぐ。

「……おれ……、ちんこ……入れられた……?」

 光太朗の悲痛な言葉を受け、リーリュイはゲイラスをキッと睨んだ。ゲイラスは青い顔をして、首を横に振る。

「入れようとしたけど、こいつの狭くて……先っぽを……」

「……っ! 黙れ!!」

「!? ひぃい……!」

 更に剣先を突きつけられたゲイラスが、上擦った声を上げる。ゲイラスを殺気の籠った目で睨んだ後、リーリュイは光太朗に呟いた。

「……大丈夫だ。入ってない」

「……よか、った……」

 光太朗は心底安心したように息を吐いた。

 リーリュイは光太朗にマントを厳重に掛け直し、ゲイラスへと向き合う。ゲイラスは目を泳がせながらも、血に濡れた唇を動かした。

「そ、そいつは、奴隷兵士です……! 俺は、規律を破ってはいません……!」

「規律だと……?」

 血で染まって歪んだゲイラスの鼻先に、リーリュイは剣を突き付けた。痛々しい傷ではあったが、同情の余地は微塵もない。

「では、奴隷兵士を慰みものにして良いという確かな規律があるのか? 奴隷兵士はそれを受け入れなければいけないという規律は? 貴様はこの神聖な団長の天幕で、淫行を働いた。国の紋章がついた団長の天幕は、神聖な居であるべきだ」

「……! し、しかし……!」

 ゲイラスの反論を聞き流しながら、リーリュイは光太朗を抱き上げた。ぐったりとした身体を自身に凭れかけさせ、喉元から出来うる限り低い声を放つ。

「戦場で、貴様の姿は一度も見ていない。見たのはこの兵士だけだ。貴様が穢そうとしたこの兵士は、身を賭して我が国を守ろうとしていた……! 反して、お前は何だ!」

「……! ご、誤解です、お、俺は……!」

 リーリュイは立ち上がり、天幕を出た。外で待っていた自身の護衛に「拘束せよ」と呟き、歩き出す。
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