上 下
9 / 248
はじまりの章

第8話 ハニトラ先輩

しおりを挟む
「起きてたのか? 可愛いゼロちゃん。……どういう状況か、分かるな?」

 光太朗が身を捩ると、ゲイラスが羽織っていたマントを投げた。インナー1枚の姿になったゲイラスは、すぐさま光太朗に跨った。

 奴隷兵士である光太朗は、襟のないバンドカラーシャツを身に付けている。そのボタンを、ゲイラスはゆっくりと外していく。
 光太朗がゲイラスを睨み付けると、彼は喉を揺らして笑った。

「クク……その目。この場では煽ってるとしか思えねぇぞ?」

「ンン……!」

 一回り以上も大きい身体に伸し掛かられ、身体はぴくりとも動かない。ゲイラスの膝が腰を固定するように押し付けられ、光太朗は鈍い痛みにうめいた。


「抱きたい、抱きたい。何回思ったことか。あのすまし顔が、俺の下でどんなに乱れるか……想像しただけで、おっ立ててたんだ」

 シャツのボタンが下まで外され、合わせ目からゲイラスの武骨な手が滑り込んでくる。
 嫌悪感に耐えながら、光太朗は猿轡を噛みしめた。その眦に涙が滲むのを、ゲイラスは見逃さない。

「ああ、最高だ……! 泣いてるのか? 最高にそそるぜ」

 首筋に吸い付かれ、光太朗は脚をがむしゃらに動かした。その抵抗すら、ゲイラスを興奮させる火種にしかならない。

 ゲイラスはにやりと笑うと、光太朗のズボンに手を掛けた。そしてそれを一気に下着ごと取り払う。
 光太朗は驚愕に目を見開き、そこから涙がぼろりと落ちた。

 脚をぎゅっと縮こませた光太朗の姿に、ゲイラスがまた愉悦を含んだ笑みを浮かべる。


「ああ、声を聞きてぇな。キスもしてぇ。ゼロ、叫ぶんじゃねぇぞ?」

 光太朗の怯えた顔を見て、ゲイラスは満足した様に猿轡に手を伸ばした。
 
 そして、光太朗は思う。
 我ながら、完璧だと。

『ひとつ、嗜虐心を煽る』
『ふたつ、非力さを見せつける』
『みっつ、猿轡が外されたら、もう勝ったも同然』

 元の世界で、光太朗はある組織に属していた。そこのハニトラ専門の先輩が、いつも光太朗へ何かと師事してくれたのだ。

 「俺は男だけど」と光太朗が何度言っても、色んな事を教えてくれたものだ。
 もうほとんど忘れているが、この『男に襲われた時の対処法』には、光太朗自身何度もお世話になった。


 猿轡を外され、涎がつつと伸びる。「よだれすらも武器になる」と教わったのは、いつだったか。
 顔を赤らめながら、光太朗はゲイラスへと言い放った。

「やめろ……! ど、どうして……こんな、……」

 表面上は怯えながら、光太朗はタイミングを計った。
 ゲイラスの太い指が、光太朗の顎を掴む。そしてゆっくりと顔が近付いてくる。

 ゲイラスのキス顔など、本来なら見たくもない。しかし今は目を逸らせない。

 『気色悪いだろうけど、食いちぎるつもりで!』ハニトラ先輩の声が脳内で響く。


 唇が重なりそうになった瞬間、光太朗はゲイラスの鼻に思い切り噛みついた。驚きと痛みにゲイラスが仰け反った隙に、膝を自身の鼻先まで折り曲げる。

 秘部が丸見えになっている体勢だが、恥ずかしがってもいられない。そのまま勢いよく、ゲイラスの鼻めがけて蹴りを放った。

「がぁあッ!!!」

 噛まれた上に蹴りまで受け、ゲイラスは後方に倒れ込む。そして後ろにいた男2人も、ゲイラスに巻き込まれて尻もちを付いた。

 その隙に、光太朗は手首を拘束している布を勢いよく引っ張る。布の破れる感覚が腕に伝わって来たところで、身体を捻りながら身を起こした。

(このまま天幕の外に……いや、出れねぇ!)

 胸は肌蹴はだけて、下にいたっては何も履いていない。こんな状態で表へ出るのは、流石に恥ずかしい。

 ゲイラスが血に濡れた鼻を押さえ、光太朗を睨み付ける。その顔には凶悪な笑みが浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...